*若干いかがわしいです。ご注意ください



シュラがゆっくりと目を開けると、白く大きな背中がぼんやり見えた。同時に広いベッドと見覚えのある部屋の天井が視界に入ってくる。そうしてやっと彼女は今の自分の状況を理解した。
背中の赤い爪痕は間違いなく自分の付けたもので、細い金色の髪がぱらぱらと背中にかかるのを見つめていると昨日の事を思い出しそうだった。

「…なあ、アーサー」
「ん?…ああ、起きていたのかシュラ。おはよう」
「おはよう」
「…で?なんだ」
「アンタ結局何がしたかったんだ?」
「うん?」

振り返ったアーサーは不思議そうな顔でシュラを見つめる。それはまるで予期せぬ質問だとでも言いたげだった。シュラは胸の上まで毛布にくるまった体制のままため息をつく。この男は隠すのが巧いのだ、あのメフィストとはまた違った意味で。

「…お前が寂しがっていたようだから」
「気持ち悪いぞ」
「ハハ、何を言う」
「アンタのそういう聖人君子みたいなとこ、大嫌いだ。自分の本心くらい正直に言やあ良いのに」
「そうもいかないだろう」
「どうして」
「私が欲に忠実になったとして、お前は私を好きになるのか?」
「はあ?」
「大体、そうなったらますますあの男の存在に勝てなくなりそうだ」

あの男、が誰を指しているのかという事くらいシュラにもすぐ分かった。未だに忘れられない自分の想い人。アーサーとは正反対の性格を持ち合わせた先代の聖騎士、藤本獅郎。

シュラはゆっくりとアーサーの背中に手を伸ばした。そっと傷を確かめるように触るとアーサーはぱさぱさと髪を振る。

「なんだ、くすぐったい」
「…これ、痛かったか?」
「いや?」
「そうか…」
「このくらい、何ともないさ」

アーサーも自分の背中に手を回し、愛おしそうに爪痕を触った。なんだってこの男は馬鹿みたいに私を愛し続けているんだろう?何回口説いたところで私は獅郎が好きなままなのに。決してこの人に目を向けないだろうに。


「シュラ、」
「…だめ」
「だめだと言われても今日はもらう」
「………んっ、」

すっとシュラは唇を奪われた。
顔を起こしたアーサーは何故だか哀しそうな顔をしていて彼女は少し目を丸くする。

「君は難しいな」
「ふん?」
「一生私は君を手に入れられないのか」
「多分な」
「でも、もう引き下がる事も出来ないんだ」
「…そうか」

アーサーはシュラに上着をかけて、ボタンを留めてやった。窮屈そうに顔を歪める彼女を見ていつものような笑顔を浮かべる。

「愛しているよ、シュラ」
「アタシは嫌いだ似非天使」
「似非?」
「ふん、背中に羽根じゃなく爪痕が有る天使なんかどこに居るよ?」
「ここに」
「…けっ」
「私にとってこれは羽根よりもずっと大切な物だからね」

朝日に透ける金色がきらきらと輝いていてシュラはしばらくそれを見つめていた。いつだって悔しいくらいに綺麗なのだとシュラは思う。自分や獅郎のように汚れていない、ひどく不自然な綺麗さを持ったこの男に全く惹かれていないと言えば嘘になる。けれど完全に想いを向けるなどと言うことは一生無理だろう。

「やっぱりアタシはテメーが嫌いだ」



「…構わないよ」

少し困った顔をして、それでも全てを許すかのように天使は微笑んだ。


(どうか一匙わけておくれ)

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プライド高そうな人の片想いがすごく好きです。未だに私はメフィシュラとアサシュラで揺れている。

title:ごめんねママ


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