彼は眼鏡を外して白い指の先で眉間をぎゅっと摘まんでいた。その仕草を見ていると、何故だか無性に哀しくなるのだ、私は。


「お疲れですか、室長」
「ん?いや、そんなこと無いよ」
「…そうですか」
「うん、平気」

平気でない事くらい私にも良く分かる。室長の身体はもう随分前からぼろぼろで動かすのがやっとなくらいなのだ。それでも彼は明るく振る舞い、ふざけたような行動ばかり取る。自分の身体が悲鳴を上げている事は自分でも分かっているんだろうけれど、それを周りに悟られまいと必死にもがいていた
少しでも休んで欲しいと思うのに、次々と悪い知らせが入ってきて、ますます彼は痛め付けられてしまう。そして私もそれを見ていることしか出来ない。

「室長、やはり少し休まれては?」
「うーん、そうだね…。そうしようかな」
「コーヒー、淹れてきますわ」
「あ、それは良いよブリジット」
「…え?」

ちょいちょい、と手招きされて近くに寄ると、室長はゆっくり私の手を握った。女性でもないのに末端冷え症なのか、彼の手はひどく冷たい。有るとも思えない体温を確認するようにその手を握り返した。

「…たくさん仲間が死んで、それでも全然状況が良くならないからエクソシスト達は皆散り散りで…まるでこの城にたった一人になっちゃったみたいだったけど、こうしていると独りじゃないんだなって思えるよ。」
「室長…」
「君にまで居なくなられたら僕は死んじゃうかもね」
「…ご冗談を。」

とても冗談を言っているような顔では無かったけれど、そうでも言わないとおかしくなってしまいそうで私は思わずそう言った。それを察したのか、室長も眉をさげて「ごめん」と謝る。


「居なくはなりませんよ」
「…ブリジット」
「私は室長補佐官ですから」
「うん…だよね」
「室長はひとりじゃありませんわ」
「ありがとう…」

もう片方の手で私の手を包み、室長は少し笑っていた。辛いけれど、苦しいけれど、それでも何とかやっていけるのは、多分私たちがひとりじゃないからなんだろう。


「…ありがとうブリジット…これからも側に居てね」
「ええ、仕事ですから」
「…ふふ、君は酷い人だねえ」
「失礼な」
「それでも良いよ、仕事だってなんだって、居てくれたなら」

ああ何て哀しい人。無欲で誠実で恐ろしい程に優しくて。でもだからこそ、そんなこの人の事が好きなんだわ。


(ねえここにいて、怖いのよ)

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シリアスなコムイさんは几帳面を通り越してどこか病的な美しさがあると思います。そんなコムイを好きなブリジット。

title:ごめんねママ


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