今日は朝から何かに引っかかっていた。一体何の日だったか。メフィストは不思議に思いながらも起き出し、その日一番のゲームを始めた。軽く(3時間ほど)ゲームをした後そろそろ食事を取ろうとして彼はやっとその"何か"に気付いた。机に放っておいたメモに"シュラ休暇"と書いてあったのだ。そうか、今日は藤本獅郎の命日か。

机の後ろの窓は酷く暗くどんよりとしている。今にも雨が降りそうだ。もしかしたらもう降っているのかもしれない。傘をポンポンと叩いて出てきたフレンチトーストをくわえるとメフィストは呪文を唱えて再び傘を叩いた。彼の行く先は決まっている。

「…やはり」

上空でそう呟くメフィストの眼下には獅郎の墓に佇むシュラの姿があった。あの髪色だ。間違うはずがない。小さなシュラを見つめていると、彼の帽子にぽつんと何かが当たった。

(弔いの雨か……)

強がって最低だなどと言っている彼女は十分過ぎるほどあの男の事が好きだったのだ。きっとシュラは泣いている。そんな気がした。

シュラの頭上の雨がぴたりと止んだ。それでもシュラは俯いたまま「何か用か」と吐き捨てる。メフィストのピンク色の傘が彼女の上に差し出され、彼自身の肩は濡れている。

「何だよメフィスト」
「私は紳士ですからね、女性が濡れていたら傘くらい差します」
「てめーのは似非だろう」
「失礼な!」
「…ほっとけよ」

ポタポタと雨ではない滴が垂れ、シュラの足元に染み込まれてゆく。未だ上空に浮いていたメフィストはすとんと彼女の隣に降り立った。

「ハンカチ、使いますか?」
「いらん。あたしは泣いてない」
「はあ」
「これは雨だ」
「雨ですか」
「そうだ…っ」
「………シュラ?」

「うわああああん!!!」

堰を切ったかのように泣き出したシュラをメフィストはぽんと引き寄せる。素直ではないシュラが隠れて泣いていたのかと思うと心の奥がきゅと締め付けられたような気になった。

(ああ、まったく女性をこんなに泣かせて…)

メフィストはそっと心の中で呟いた。結局彼女の傍に居ても獅郎の代わりになることはかなわないのだ。彼女はきっとこれからもこうして獅郎のために泣くのだろう。


「シュラ、私の部屋に行きましょう。このままでは風邪を引く」
「…………」
「温かい飲み物でも出して差し上げますよ」

シュラの返答を聞く前にメフィストはカウントを始めて傘を叩いた。その瞬間獅郎の墓を一瞥し、メフィストは思う。きっと自分は傘にしかなり得ない。いつだってシュラが佇み焦がれるのは獅郎の前なのだと。



(遺浮/if)

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シリアスなメフィスト美味しいです!





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