今日は朝から戦場ヶ原の様子がおかしかった。

僕はいつものようにママチャリで登校し、時間ギリギリで教室に入って羽川に挨拶をする。羽川翼―異形の羽を、持つ少女……だが今はただの学級委員長である。もちろん僕もただの男子高校生だ。今回怪異に関する話はどうでも良くて、重要なのは今や怪異を持たない少女(正確には怪異を持っていた)、戦場ヶ原の事だ。教室に入って最初に目に入ったのは自分の机に突っ伏している戦場ヶ原の姿だった。僕が「戦場ヶ原蕩れ」宣言をしてから教室での朝の挨拶は日課になっていたのだ。たまにそれに暴言が足されて朝から最悪の気分になることもあったが僕はそれなりに(というか、かなり)その日課を楽しみにしていた。
それなのに今日はどうしたのだろう。結局戦場ヶ原は授業までピクリとも動かなかった。1時間目が終った辺りで戦場ヶ原の様子を見に行くとぼんやりした顔で「阿良々木くんじゃない」と言ってきた。

「どうかしたのか、戦場ヶ原」
「ただの寝不足よ」
「寝不足?珍しいな」

夜更かしは肌に悪いのよ、とか言って早々に寝てそうなのに。それに僕と違って学校の課題やらでしくじる事も無さそうだし。戦場ヶ原は重そうな瞼を必死に上げてるみたいだった。そこで僕は気付いた。

「戦場ヶ原お前…」


「…熱が有るんじゃないのか?」

いつもみたいな抵抗も無くすんなり額を触れた。すごく、熱い。ゆっくりと上げられた手が僕の手を払おうとする。でもそれすらも叶わなかった。それほどにこいつを蝕む熱は酷いらしい。

「熱があるの、戦場ヶ原さん」
「羽川…」
「ちょっとごめんね……大変!早く保健室に行こう」
「大丈夫…」
「駄目だよ!ホラ早く!」

羽川は直ぐに戦場ヶ原を保健室に連れていこうとした。同時に戦場ヶ原が僕の夏服の袖をちょい、と引っ張った。なんだ?…………ああ、そういうこと。

「羽川、良いよ僕が連れていく」
「え?」
「羽川は次の授業に出てくれ」
「ああ、うん。そうね、こういうのは阿良々木君の方が良いよね」
「まあ…そういう事だ」

相変わらず察しの良い奴だ。空気を読む大会が世界規模で行われたら間違いなくこいつは一位になるだろうな。
戦場ヶ原の手を引いてゆっくりゆっくり保健室に向かう。戦場ヶ原は借りてきた猫(猫、は違うけど)みたいに大人しかった。

「何か、調子狂うな」
「…なに、が」
「お前が暴言吐かないと」
「馬鹿、ね…私のは全部阿良々木くんへの、愛の言葉よ」
「はは、そりゃ有り難い」
「………」
「でもやっぱり、ちょっと寂しいな」

もう真性のマゾヒストと言われても仕方無いかもしれない。だけど戦場ヶ原の言う通り暴言はあいつを構成する大切な要素のひとつで、あいつの愛だから僕はそれをも愛おしむ。好きじゃないとこなんか、無いから。

「おぶろうか」
「…嫌よ」
「こういう時に頼った方が女は可愛いんだぞ?」
「そういうもの?」
「そういうものだ」

戦場ヶ原は大人しく僕におぶさった。背中から伝わる熱が自分のなのか戦場ヶ原のなのか分からなくなる。後ろから小さく「阿良々木くん」という声がした。

「何だ」
「なんでも、ないわ」
「何だよそれ」
「阿良々木くん」
「何だよ?」
「なんでも…」

繰り返すうちに思い当たった。朝から具合が悪いのに学校へ来た理由。


こいつは僕に会いたかったらしい。


(溺れてばかりいる)

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友人に借りて原作読み始めました。ひたぎさん可愛い。





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