「メフィスト」

先程からシュラは警戒を解かない。ずっとメフィストを睨んだままだ。そんな彼女がメフィストの鼻歌を遮って彼の名を呼んだ。何ですか〜と間延びした声が返ってくる。シュラはますます警戒を強めた。

「…全て、お前の思い通りになると思うなよ」
「おや?何の事ですかあ?」

メフィストは椅子をくるくる回しながら楽しそうに笑う。シュラは椅子から立ち上がりつかつかと歩み寄ってメフィストの机をバン、と叩いた。机上に置かれたフィギュアやら何やらが揺れる。それでも彼の顔に張り付いた怪しげな笑みは消えなかった。

「とぼけるな」
「私には何の事やら」
「お前…!」
「少し落ち着いてくださいシュラ先生」

いかれた調子のドイツ語で数を数えると、シュラの真横に紅茶のカップが姿を現した。もちろん色はピンク色。カップの内側は紫だった。シュラは嫌そうにそれを一瞥するとまっすぐ椅子まで戻って行った。

「気の強い女性は良い。可憐な美少女も良いが貴女のような女性もなかなか魅力的だ!」
「…………」
「ご不満かな、シュラ先生?」
「ふざけるな」

このまま斬り刻んでやろうかとも思ったが、メフィストの戯言を相手にするだけ無駄だと思い直し、扉へまっすぐ歩いて行った。扉を開けシュラが半身を外へ出した辺りで背後からメフィストの笑いを含んだ声がした。


「貴女方がどう出るか楽しみにしていますよ、人間。」

バタン。
大きな音を立てて扉が閉まった。振り返りもせずに去っていくシュラは、扉の向こうの悪魔の笑い声に気付かないふりをしていた。


(神様の市場)

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メフィストとシュラから夏目と多軌の、ベルゼブブと佐隈さんの声がする。


title:ごめんねママ



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