錫也は泣いていた。暗い玄関に踞って、膝をついてぼろぼろと涙を溢していた。私が驚いて錫也に駆け寄ると消えそうな声で「つきこ」と名前を呼ぶ。「つきこ、俺おかしくなっちゃいそうだよ」。

リビングから漏れる灯りが錫也の前髪を照らしている。私はどうして良いのか分からなくてただただ錫也の背中を擦っていた。大学から帰って来たままの装いの彼はその新しいジーパンをいつまでも床に擦り付けている。

「ねえ、月子。俺はどうしたら良いのかなあ」
「…錫也?」
「月子が好きで、好きすぎて、おかしくなりそうなんだよ、本当に。」

錫也はそう言って小さく呻きながら顔を手で覆った。うう、と低い声が漏れる。何だか酷く苦しそうだった。

「俺の知らないところで月子が誰かとしゃべってて、笑って…って思ったら腹の中が嫉妬でどろどろになる」
「錫…」
「このままじゃ真っ黒な気持ちに飲み込まれちゃいそうなんだよ…!」

付けっぱなしにしてきたテレビの音がすごく遠くでなっているように聞こえる。夜だというのに生ぬるい空気だった。まるで錫也の流した涙がそのまま湿気になってるみたいだ。

「お前を誰かに渡したくなくて、最近じゃ哉太まで憎くなって、これじゃお前に嫌われるって分かってるのに」
「どうしても感情のコントロールがきかなくて、すっごく怖いこと考えたりしてる」

ごめん、ごめんな月子。俺昔よりずっと子供みたいだ。錫也はそう言ってまた綺麗な瞳から涙を溢した。小さい頃に急いで大人になっちゃった錫也はどこか身体と精神のバランスがはかれなくなってるみたいだ。でもそれは私のせいで、全て私の受け止めなくちゃならないものだった。
私はいつもよりちょっと小さく見える錫也の背中を抱き締めた。彼はぴくりと震える。

「大丈夫だよ、錫也」
「……つきこ?」
「私はずっと錫也が好きだもん。これまでもこれからも」
「……な、」
「大丈夫だよ。だからもう泣かないで」
「月子…!」

例えばこれで彼がどうにかなってしまったとしても、ずっと側に居ようと言うくらいには覚悟が出来ている。錫也は何度も何度も「ごめん」と謝っていた。

「俺を嫌いにならないでね、月子」

私の背中辺りで呟かれた言葉は錫也の本音のような気がした。


(あなたがあなたを嫌いでもわたしがあなたを好きだそれじゃだめなの)

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ヤンデレ錫也。





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