「お、多軌。今帰りか?」
「田沼くん」

暗くなりかけた校舎で多軌と田沼は顔を合わせた。何を言ったわけでもないが二人は並んで学校を後にする。

「今日も暑いな」
「そうね」
「多軌は夏が好きか」
「好きよ」
「俺も、好きだ」
「賑やかで穏やかででも少し寂しい所が」

長く伸びた影を追いかけるようにして足を進めた。ジリジリと蝉が鳴き始めている。生ぬるい風が本格的な夏の訪れを知らせていた。

「この間、妖に行き遭ったんだ。でもやっぱり夏目には相談出来なかった。終わってからいつも後悔するのになあ」
「私も同じ。そしてきっと夏目くんも同じよ」
「だなあ」

三人が互いの心を測り続けているせいで一定の距離から詰められずに居た。近づきたいのに近付けない。
ゆらゆらと揺れる影さえも一定の距離があるのを田沼はじっと見つめていた。


「多軌、ちょっと駄菓子屋に寄ろう」
「?良いけど」
「少し待ってろ」

田沼はそう言って古びた駄菓子屋に入ると、直ぐに出てきた。二人用のアイスを手に持っている。店先でぱきんと折ると見比べて少しだけ大きい方を多軌に渡した。

「良いの?」
「良い。暑いだろ」
「ありがとう。頂きます」

ぱたぱたとワイシャツを揺らしながら田沼が笑った。つられて多軌も笑う。二人はオレンジのシャーベットを吸いながらまた歩き出した。

「今度は夏目も連れてこよう」
「良いね、楽しみ」
「だけど三人じゃあアイスが分けらんないな」
「私たち二人が買って二つ夏目くんにあげたらどう?」
「良いな、そうしよう」

両手に二つアイスを持って困った顔で笑う夏目が浮かぶ。アイスの外側についた水滴がぽたりとコンクリートに落ちて染み込んだ。多軌は田沼を見、くすりと笑った。

「何だよ」
「田沼くんって面白い」
「多軌に言われたくないな」
「えっどういう意味!?」
「夏目に聞いてみろよ」
「夏目くんも面白いけど」
「ああ、確かに」
「ふふ、夏目くんが一番面白いわ」
「はは、そうだなあ」

空がオレンジからピンク、紫に変わる。遠い山の際を見つめて田沼が言った。


「明日も晴れるな」
「晴れるね」

二人の影はいつまでも長く長く伸びていた。


(不器用にひそめられたやさしさです)

--------------------
多軌と田沼くんの組み合わせがすごく好きです。二人とも夏目が大切で、互いにそれに気づいて仲良くなって行く感じがとてもいい。


title:ごめんねママ




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -