戦場ヶ原と付き合いだしてもう1年も経った。戦場ヶ原のくれた全部と僕のあげているものは未だにバランスが取れていないように思える。あの夜それだけ重大なものを戦場ヶ原は僕にくれた。

そして今日は戦場ヶ原の誕生日。不器用な父親と、無くしてしまった優しい母親から戦場ヶ原ひたぎが生を受けた日だ。彼女にとってそして今や俺にとっても大切な日だった。

「戦場ヶ原、今日放課後空いているか」
「空いているかいないかで言えば空いているわね」
「何でそんなに遠回しに言うんだ!?」
「男と女は駆け引きでしょう、阿良々木くん」

戦場ヶ原はしてやったり、と満足そうな笑顔を浮かべている。何て奴だ、可愛いなまったく!戦場ヶ原がツンデレからツンドラに変わるばかりではなく、僕も相当こいつにやられている。こいつじゃなくちゃと思えるほどに。

戦場ヶ原を自転車の後ろに乗せて、僕はある場所に向かった。初夏と言うにはもう遅く夕方になっても生ぬるい風が僕と戦場ヶ原の髪をすり抜けて行く。首に伝う汗を拭う暇もなくただひたすら自転車をこいだ。

「阿良々木くん」
「何だ」
「私まだ着替えていないのだけど」
「僕も着替えていない」
「このまま行くの?」
「このまま行くんだ」

長いカーブを曲がってやっとたどり着いた、近くの商店街。賑わってもいないが寂れてもいないそこそこ大きな商店街なのだ。

「今世界中で色気の無いデートランキングを作ったらぶっちぎりで第一位ね、阿良々木くん」
「そういう事を言うお前が色気ねーよ!」
「彼女に向かって酷い言い様ねゴミ良木くん」
「ゴミ!?」

塵でも良いのだけど、と戦場ヶ原が笑った。
自転車を止めて戦場ヶ原の手を引き、商店街の中心に歩いて行く。だんだんと見えてきたそれに戦場ヶ原は目を丸くした。
商店街の中心にある天井に届きそうなくらい大きな笹。飾りや短冊に彩られてとても綺麗だ。しばらく僕と戦場ヶ原は手を繋いだまま笹を見ていた。


「どうだ?綺麗だろ」
「悔しいけど完敗よ、阿良々木くん」
「僕はお前と勝負をしてたのか!?」

とりあえずツッコミを入れてから、短冊を書くことにした。ご丁寧に笹の下にペンと短冊が備えられている。薄紫の短冊を選んでペンを走らせた。

「書けたか?」
「ええ、書けたわ」

手近な枝に短冊をくくりつけ、手を合わせた。見ては駄目、と言うから結局願いは見られなかったけれど。
それからまた自転車に乗って家へ向かった。さっきから戦場ヶ原は僕の腰に抱きついて空を見上げている。バランスが崩れそうでちょっとだけ怖かった。

「天の川が見えるわ阿良々木くん」
「そうか、じゃあ織姫と彦星は会えたんだな」
「阿良々木くんも見てみたら?」
「今それをしたら僕たちは間違いなく天の川の星になる」

上手いな、と思ったのに戦場ヶ原は無反応だった。くそ、反応してもらえないと案外キツいな。
夜風がまだ熱を含んでる。僕は聞こえないくらいの声で「戦場ヶ原は何を書いたんだ?」と聞いた。聞こえないならそれでもいいと思ったんだ。

「聞きたい?」
「聞きたい」

聞こえていたらしい。天の川を眺めていた戦場ヶ原が首を戻した。がくん、と自転車が揺れる。

「お母さんが戻ってきますように」
「……あ、ああ」

「嘘よ」
「そんな反応に困る嘘つくなよ!!」

思わずしんみりムードになっていた僕は精一杯のツッコミを入れる。そんな事、嘘でも言うなよ…。僕は一瞬戦場ヶ原が傷付かないような慰めの言葉を1000通りくらい考えなくちゃいけないのかと思った。

「本当は、"阿良々木くんが幸せになりますように"よ」
「………え?」

商店街の七夕で個人情報流出、ということは何処かへ行ってしまっていた。戦場ヶ原の言葉が意外でそれどころじゃなかった。

「え、あ…戦場ヶ原…」
「あなたは?」
「へっ?」

表情は見えない。でも戦場ヶ原の心臓が僕の背中に当たって音を立ててる。それがすごく早かった。

「…僕は、」

「"彼女と一緒に居られますように"だ。」
「そう陳腐ね」
「なに!?」
「それじゃあ、私と一緒に居ることが阿良々木くんの幸せというわけ?」
「…そう、なるな」
「織姫と彦星に願わなくたって叶うじゃない」
「あ」

緩い下りのカーブで自転車はからからと音を立てる。僕の心臓も戦場ヶ原に聞こえてるんじゃ無いかとひやひやしていた。



(いとおしいわたしの心臓)

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誕生日おめでとうひたぎさん!二人が大好きで大好きで仕方がないです。これからもずっとラブラブで居て欲しい!

title:ごめんねママ




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