「エリン、先生?」
「はっ、」
キリクが声をかけるとエリンは大袈裟に肩を揺らした。相当嫌われているな、と自嘲しながらキリクはエリンの隣に腰を下ろした。もう夜もだいぶ更けると言うのにエリンはまた王獣の前に座って竪琴をひいていたのだ。その音に誘われてキリクは王獣舎にやって来ていた。静かについた手が微かに触れあった。驚いて互いに手を引っ込めたもののあることにキリクは気がついた。
「ずいぶん…冷たい手だね。」
エリンの手は氷のように冷たく、キリクが驚くくらいだった。そんな彼の反応にエリンは慣れきった態度で女性は冷えやすいんです、と笑った。そしてもう一度竪琴に手を伸ばした時だった。
「それはいけないな」
キリクがそう言ってエリンの手を自分の手でそっと包んだ。エリンよりずっと大きな手はとても暖かかった。
「温かい…」
「そうかい、良かった…」
手が暖かい人は心の冷たいと言うからね、とキリクが言うとエリンは彼の手をギュッと握ってこう言った。
「心の冷たい人はこんなことしてくれません、キリク先生は…心も身体も暖かい人なんですね…」
ああ、それだったら君は、冷たい人をも温める事のできる清らかな人だよ。
彼の手があの星に届くまで
あと数メートル(たとえ、)
(掴めなくとも。)
title by:リッタ