朝。
とある家の部屋。
ベッドに横たわる香苗とその横にいるたくみ。


たくみ01
「おはよう、香苗。今日は顔色がいいね」

香苗02
「うん。今日はいつもみたいに吐いたりしないの。お外にも出られるかな?」

たくみ03
「それは駄目だよ。香苗の具合はいつ悪くなってもおかしくないんだからね」

香苗04
「そっかぁ、残念…。あーあ、今日こそお兄ちゃんと遊びに行けると思ってたのになぁ」


場面変わり、鈴の音。
その家を見上げるセーラー服の少女とイチヌキ。


イチヌキ05
「この家?」

セーラー服の少女06
「うん。間違いない…。死の匂いよ」


玄関から出てくるたくみ。


たくみ07
「それじゃあ行ってくるね、香苗。…あれ。君、うちに何か用?」


答えない少女。


たくみ08
「えっと…あ、もしかして香苗のお友達かな?お見舞いに来てくれたの?」
(最初は不思議そうに、ハッとすると嬉しそうに)

セーラー服の少女09
「…ふふ。貴方の魂、とっても綺麗ね。でも、凄くドロドロしてる」


カラスの鳴き声。
イチヌキがたくみに向かって飛ぶ。


たくみ10
「うわっ!?やっ、やめてくれ!っ、い、いない…?…何だったんだ、あの子…」


飛び立つイチヌキ。
姿を消したセーラー服の少女。
場面変わり、商店街。


三浦11
「あら、たくみ君じゃない。今からお買い物?」

たくみ12
「はい。今日は香苗の具合も良いから、香苗の好きな物を食べさせたくて」

三浦13
「まあ、そうなの?それは良かったわね。香苗ちゃんの姿も長い事見てないし…今度お見舞いに行ってもいいかしら?」

たくみ14
「はい、是非!三浦さんがお見舞いに来てくれたら、香苗もきっと喜びます。…それじゃあ僕、買い物があるので」


たくみ、去る。


三浦15
「ほんと、たくみ君はいい子ねぇ」


場面変わり、夕方。
カラスの鳴き声。
香苗の部屋の扉が開く。


たくみ16
「香苗、夕食の準備が出来たよ」

香苗17
「いい匂い…この匂い、カレーでしょ?」

たくみ18
「うん、そうだよ。香苗、僕の作ったカレーが好きだって言ってたでしょ?久々に作ってみたんだ」

香苗19
「ありがとう、お兄ちゃん!」


チャイムが鳴る。


たくみ20
「あれ、お客さんかな?ちょっと出てくるね」


部屋を出て玄関に向かうたくみ。


たくみ21
「はーい、どちらさま、…三浦さん!来てくれたんですか?」


扉を開けると、あの時の女性が。


三浦22
「急にごめんなさいね。お見舞いなら具合が良い日の方がいいと思って…。香苗ちゃんの大好きなイチゴも買って来たんだけど、迷惑だったかしら?」

たくみ23
「迷惑だなんてそんな…!わざわざありがとうございます。どうぞあがってください、香苗の部屋に案内しますから」

三浦24
「ありがとう、たくみ君」


扉閉まる。
鈴の音。


セーラー服の少女25
「そろそろね」


場面変わり、家の中。
階段をのぼる音。
扉が開く。


たくみ26
「香苗、三浦さんがお見舞いに来てくれたよ。香苗の大好きなイチゴも…」

三浦27
「うっ…ごほ、ごほごほっ…!た、たくみ君。この匂いは一体……っ!?」
(たくみの声遮って。「っ!?」は驚き)

たくみ28
「三浦さん、どうかしたんですか?」

三浦29
「た、たくみ君…香苗ちゃんってもしかして、あのベッドの上にいる…」

たくみ30
「そうですよ?どう見たって香苗じゃないですか」
(おかしな三浦さん、というニュアンス)


尻餅をつく三浦。


三浦31
「そんな…!あれ、あれは…っ、人間、なの?」
(恐怖で震え)

たくみ32
「酷いなぁ、三浦さん。そんな事を言ったら香苗が傷付くじゃないですか」

香苗33
「いいのよ、お兄ちゃん。私は気にしてないから」

三浦34
「う、うえええええ!っ、おえっ」
(吐く)

香苗35
「まあ、三浦さん!具合でも悪いの?」

三浦36
「うっ…。た、たくみ君、貴方自分が何をしてるか分かってるの?っ、それはもう香苗ちゃんじゃないわよ…!?」

たくみ37
「…?香苗ですよ。彼女は僕の大切な妹。病気で外に出られなくなった、可哀想な妹です」

香苗38
「ふふ。三浦さんって変な事を言うのね」

三浦39
「やめて!香苗ちゃんの真似をするのはやめてちょうだい!!たくみ君、貴方狂ってるわ!」

たくみ40
「狂ってる?…僕が?」

三浦41
「ええ、そうよ!そんな腐った死体を大切そうにして、香苗ちゃんの声真似までして…狂ってるわ!!」

たくみ42
「…ねえ香苗。僕、狂ってるんだって」

香苗43
「お兄ちゃんは狂ってなんかないわよ」

たくみ44
「香苗の事を腐った死体だって」

香苗45
「変なの、私はちゃんとこうして生きてるのに。お兄ちゃんの作ったカレー、美味しかったよ?」

たくみ46
「でも、僕が香苗の声真似をしてるって」

香苗47
「ふふふ。…それはきっと、三浦さんが狂ってるのよ」

たくみ48
「…そう、だね。そうだよねぇ!三浦さんが狂ってるんだ。僕は狂ってない。香苗は生きてる。三浦さんがおかしいんだよ!」

三浦49
「たくみ君…」
(目の前のたくみに恐怖して)

たくみ50
「ふふふ…そう言えば、父さんと母さんも同じ事を言ってたっけ。香苗はもう死んでるんだ、お前は狂ってるって。狂ってるのは僕じゃなくて、父さんと母さんなのに」

香苗51
「おかしな人は消さなくちゃ。私とお兄ちゃんの世界を壊す人は消さなくちゃ」

たくみ52
「消さなくちゃ、消さなくちゃ、消さなくちゃ」
(歌うような感じで、ただし実際には歌わず)


ベッド脇の引き出しからナイフを取り出すたくみ。


三浦53
「たくみ君、何をするの…?やめて、いや、来ないで!誰か、誰か助けて!ひっ…!!」


ナイフを刺すたくみ。
何度も何度も刺す。


たくみ54
「消さなくちゃ。父さんと母さんみたいに」

香苗55
「消さなくちゃ」

たくみ56
「消さなくちゃ」

香苗57
「消さなくちゃ」

たくみ58
「消さなくちゃ!…はあ…はあ…はあ…はあ…」


刺すのをやめるたくみ。
三浦は既に息絶えてる。
鈴の音。


セーラー服の少女59
「亡き女を想うと書いて妄想」

たくみ60
「あれ?君は確か…。…君も、僕が狂ってるって言いに来たの?」

セーラー服の少女61
「いいえ、貴方の世界を壊す気は無いわ。私はその女の魂に用があるの」

たくみ62
「魂に?」


魂を抜く少女。


セーラー服の少女63
「うーん、この輝きは……。まあまあ、かな」

たくみ64
「君は死神なの?」

セーラー服の少女65
「あら、失礼な人ね。あんな古臭い連中と一緒にしないでくれる?」

たくみ66
「…じゃあ、君は誰?」

セーラー服の少女67
「……私は」


場面変わり、外。
カラスの鳴き声。
イチヌキが飛んでくる。


イチヌキ68
「良かったの?名前を教えても」

セーラー服の少女69
「問題ないでしょ。あの少年は自分の妄想の中で生きる人間だし」

イチヌキ70
「ふうん。…それにしても、人間の脳っていうのは凄いね。自分の都合の良い世界を作り上げちゃうんだから」

セーラー服の少女71
「…いつの時代も、本当に怖いのは人間って事かしら」