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ゆずれないもの

みょうじと総司には、絶対に譲れぬものが、ひとつある。それは二人共に同じ事だが、各々"譲れないもの"は、同じではない。同じだったならば、今の、正直言えばこの上なく面倒臭い状況も違っていたのかも知れぬ。そう思い、本日八度目の溜め息を吐き出した。
始めの内は良かった。が、どちらが一番かという話になってからは――、

「菊さんだよ!」
「近藤さんに決まってるでしょ」

これだ。

やれ局長がどうの、本田がどうの。各々好いている処を言い合っていただけなのだが、それがいつの間にか自慢話へと変わり、挙げ句の果てにはどちらが一番かを決めるまで、此の言い争いは収まりが着かなくなった。

「……みょうじ、総司。落ち着け。どちらにも各々に良いところがあるだろう?それに、一番を決める争いに何故副長が入らぬ」
「煩いな、一君(斎藤さん)は黙ってて(ください)よ!!」
「なっ……」

その連帯感は何なのだと言及したくも成るが、したところで火に油を注ぐようなものだ。

「近藤さんは優しいし」
「菊さんだって優しいよ!甘いものだってくれるし!」
「近藤さんだってくれます。それに本田さんには無いでしょ、逞しさ」
「はー??菊さんは脱いだら凄いタイプなんです〜。まっちょですもん永倉さんと張りますもん」

……まぁ、それはみょうじの苦しい嘘だろうな。総司も楽々と見破っては「嘘つかないと近藤さんに勝てないなら、近藤さんが一番だね」と総司が勝ち誇ったような笑みでみょうじを見下ろした。それに対し「そんなことないもん!菊さんだって逞しいし凄く強いし!」「近藤さんだって強いよ」とまた始まる。
こう聞いていると、此の二人には、似通ったところがある。己の尊敬に値する人間に対し、かなり盲目的な愛情を抱いている。自分の世界の中心は彼らだと、信じきって疑っていない。

「大体、ふざけないでくれる?近藤さんに勝る人なんかいないから」
「その言葉そっくりそのままお返ししますよーだ。菊さん以上の人なんないません」
「近藤さん」
「菊さん」
「……そろそろ此処で白黒はっきり付けようか?」
「望むところですよ、このにゃんこ受け……。菊さん以上なんか何処にも居ないことを教えてあげましょう」
「ねぇそのにゃんこ受けって何」

……みょうじの不可解な発言はこの際放っておくとして。それにしてもあいつの頬は本当によく伸びるな。総司がよく引っ張る気持ちも分からなくはない。
周りに居る俺たちはと言うと、もうそろそろどうでも良くなっているのだが、そんなことを言えばあの平助の様な姿になる為に口を噤んでいる。(何があったかは、すまない。聞かないでくれ)火に油を注ぐような真似だけは避けたい。こいつらは揃いも揃って、互いに互いの大切な者のためなら容赦等と言う文字は頭から掻き消えるのだから。

「近藤さんの手で撫でてもらえると、凄く安心するんだからね?」
「ふふーん!そんなの菊さんに撫でてもらったら安心と一緒に力も貰えますもんね!菊さんの笑顔の為なら夏コミの大衆の中へも飛び込むよ!」
「何それ?そんなの僕なら近藤さんの笑顔の為なら血に濡れた池田屋の中にも飛び込むよ」

血生臭いな、総司。みょうじの言う"なつこみ"とやらは理解できぬが、そこは比べるものではないだろう。馬鹿か。

「それなら近藤さんの為ならその身体を差し出すんですか!」
「近藤さんの為に生きてるんだから、それくらい余裕でしょ」
「よっしじゃあ今日の沖田さんの布団は斎藤さんとくっつけておきますね!!」
「待って?君はなんの話をしているのかな?」
「身体差し出せ、夜枷の意味で」
「差し出すわけ無いでしょ馬鹿じゃないの」

全くだな。と言うより俺を巻き込むなみょうじ。

「嘘つき!さっき差し出すっていったじゃないですか……!近藤さんへの想いはそんなものです?!」
「なっ……!……、……っ一君!」
「誰がするか。俺を巻き込むな」
「斎藤さんのむっつりー。本当はしたくて仕方ないくせにー。でないと何も言ってない沖田さんにあんな言葉出ませんよねぇ?え?名前呼ばれただけで想像しちゃいました?」
「え?一君そんな趣味だったの?うわぁ……」
「みょうじ、総司。表へ出ろ。あんた達のその根性を叩き直してやろう」
「嫌だよ。まだ決着ついてないし」
「ついたじゃないですか、菊さんが一番って。ほら斎藤さん!沖田さんを連れ出してくれたって構いませんよ!」
「それを付いてないって言うんだよ。馬鹿だねなまえちゃん」
「ちくしょう……このネコ……」

どうやら本当にこの二人は決着がつくまで言い争うらしい。よくそこまで続くものだな。

それにしても、だ。己の中心が己自身に無い。それ故に垣間見える脆さは、二人ともとても似通っていた。それを善しと取るか悪しと取るかは、そいつらの"中心"に大きく委ねられるのだが……。

「ふふ、相変わらずなまえさんは可愛いですね」
「ぬ。確かにみょうじくんも可愛いが……やはり昔から総司は可愛らしいな」
「それはそうもしれませんが、其処はなまえさんでしょう」

これだ。争っている二人の前で本田と局長は、この様にそれを微笑ましいと言わんばかりの笑みを浮かべながら眺めている。眺める、では足りぬか。ここでも親馬鹿自慢が始まるらしい。この終わりが見えぬ二つの争いに、傍に居る副長も眉間に皺を寄せたまま頭を抱えていた。そうして俺は、「心中お察しします」と、本日九度目の溜め息を吐く破目となる。



ゆずれないもの


  一番は、あのひと。


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