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どうしようもなく愛しい君

「忍足、デートするぞ」
「は?」

きっかけは、いつもながら王様からの唐突な提案やった。


「……珍しなぁ。お前がこういうところに来るとは」
「アーン?いいだろ。前々から興味はあったんだがな」

いつもは高級三ツ星レストラン以外では食事しない男が、休日の午前練習が終わってから、制服のまま某ファーストフード店のレジに並ぶ。此処までマクが似合わん男も初めて見たわ。メニュー表を見ながら「これで赤字はでねえのか……?」と真面目な顔して言うん止めてや。言っとくけど黒毛和牛とか使うてへんからな。
何とか注文を終えて席に着いたとき、跡部から声をかけられ顔を向けると、真剣に跡部は尋ねた。

「ナイフやフォークはねぇのか……?」
「照り焼きバーガーにそんなもん求めんな」

何やねん、ほんまにお前こういうとこ来たことないんやな!!食い方を教えてやると(何でこんなん教えなあかんねん)、そうか、と何処と無く碧眼を輝かせながら口へと運ぶ。それからセットのポテトを食べては、ふと口を開いた。

「忍足、俺様はポテトのカリカリが好きらしい」
「そうか。俺もカリカリのが好きやで」
「フッ……運命か。照れるじゃねーの」
「たかだかポテトで運命て。全くときめかへんわ」

なんやねんこの会話。
ちゅうか、いや俺は別にええんやけど、どういう風の吹き回しやねん。岳人や宍戸……言うなら跡部以外の部員とならまだ分かる。せやけどコイツとだけはこういう、いわゆる"庶民の店"に来ると思わんかった。絶対舌に合えへんやろ。

「忍足、食べ終わったら行くぞ」
「んぁ、まだ何処か行くんか」
「当たり前だろーが。俺様のデートはコレだけじゃ終わらねぇぜ?」

おいやめろこんな人が一杯おるところでデートとか言うな。まだガヤガヤしとる所で良かったわ。視線が集まってたら心閉ざして帰るところやった。
両方が食べ終えて(「跡部、食べ終わったんは自分で捨てるんや」「アーン?サービスがなってねぇな」)店を出てから、何処に行くんやと尋ね掛ける。すると無駄にキメた顔して俺の方を振り替える。

「公園だ」
「………………お前ほんま今日どうした?」

見た目高校生に間違えられる男が二人、ブランコに揺られながら座ってる。あかん、公園の横を通る女子高生(あぁ、あのお嬢ちゃん綺麗な足しとるわ)の視線が痛い。跡部はそれを知ってか知らずか、多分気付いててもこの男は気にせんのやろけど、俺の横で高らかに笑いながら大きくブランコを漕いでいる。この振幅の差はテンションの差や、絶対に。しゃあないからムービーでも録って謙也に見せたるか。そんな暫く会っていない従兄弟へと想いを馳せながら、この上なく楽しそうな恋人を眺める。恋人と言うより保護者の気分や。

「なかなか楽しいじゃねーの!」
「そら良かったなぁ」
「次はあれに乗るぜ忍足」

指差した先には、パンダとゾウ。
…………勘弁してクダサイ。
いや、だってアレってアレやろ?上に跨がって前後左右に揺れるやつやろ?岳人ですらギリギリの奴を俺ら二人が乗るんか?アダルト組とも呼ばれる俺らがか?アウト以外に何があるんや!

「……一人で乗ってこい。俺は疲れたからベンチに座らせてもらうわ」
「体力が足りてねぇな」
「精神的疲労やアホ」

眉間を押さえながら、少しペンキの剥げた水色のベンチへと腰かける。あー……ほんま楽しそうやなアイツ。どうでもええけど揺れながらブンブンと手を振るのはどうにかしてくれ。振り返すけどな、一応。ついでに写メでも撮って岳人に送ってやるか。

「……あぁ、"庶民"っちゅうのに興味があるんか」

メールを打っていた時、ふと、まいう棒とかそういうのを跡部が部室のパソコンで調べていたのを思い出した。そう考えると全て合点が行く。多分この流れやと、夜はファミレスで、その前に駄菓子屋にでも寄るんやろか。

「忍足」
「ひっ?!……何すんねん、冷たいやろ」

いきなり、ひんやり冷えた缶ジュースを頬に当てられ肩が跳ねた。目を皿にして持ち主を睨み上げてやれば、まるで悪戯の成功した子供みたいな笑い方をしとるもんやから怒るんも馬鹿馬鹿しいて「おおきに」と受け取る。それにしても、ベンチに缶ジュースに公園なぁ……。

「……肉まんがあったら完璧やな」
「コンビニならあるぜ。買いに行くか?」
「跡部が行きたいんとちゃうんか」
「お前が行きたくねぇなら意味がねぇな」

どうだ?今日のデート。と、隣に腰を下ろした跡部が尋ね掛ける。どうだもなんも、少し肌寒いとは思うわ。そんな事は言わずに、悪くはないわ、とプルタブをカシャリと開けて一口を喉に流し込む。

「今日のはお前に合ってるだろーが」
「は?」
「向日から聞いたんだよ。お前はこういう方が好きなんだろ?」

ああ……?言うてる事は上手く飲み込まれへんけど、何となく朧気には思い出せる事がある。確かに、せやな。前に岳人にデートの次の日、「たまに跡部のデートに付いて行かれへんときがあるわ……」と漏らした事がある。せやけどそれは、アイツがテーマパークを貸しきりにした時や。ただえさえ日曜でその上三連休。目には見えへんお子さん達への罪悪感をひしひしと感じながら、一通りのアトラクションを廻った後、跡部の家の自家用ジェットで県を越えて夜景の綺麗な三ツ星レストランの最上階で食事。つまり、"そういう"デートやったんや。いつものデートに輪を掛けた、そんなやつ。
しかしその洩らした一言を耳にして、今日のこのプランを、この俺様が立てたと言うことか。

「っく……、ふは、はははははっ!」
「アーン?何だよ」
「いや、お前たまにほんまかわええとこあるなぁ……っ」

思わず腹を抱えて笑ってしまうくらいや。慣れへんファーストフード、慣れへん遊具、全部この王様には慣れへんモンばっかりや。そういや今日は車すら使うてへん。

「あー……、はは、堪忍な。俺ずっと跡部が庶民のする事体験したいだけと思ってたわ」
「テメェ……。俺様がそんな人間に見えてんのか?」
「まぁな」

あっさりと頷けば少し臍を曲げた様な表情をする。あんまり拗ねられるんも本意やないし、此処等あたりでからかうんやめとこか(と言っても殆ど本気やったけど)。

「面白かったで。たまには悪うないわ。おおきに」

双眸を細めて自然と浮かぶ笑みを向ければ、跡部の表情が満足そうな笑みに変わる。もしかして、普段のデートもラブロマンスが好きな俺に対しての思いやりやったんやろか?……、いや、流石にそれは無いか。
「俺、案外愛されとるなぁ」へらりと笑って冗談の様に言えば、「当たり前じゃねーの。愛してるぜ」と歯の浮きそうな台詞が返ってくるんはいつもの事や。慣れたかどうかは、別の話として。

「よし忍足、今度は二人でアレに乗ろうじゃねーの!揺れる感覚は癖になるぜ?」
「一人で行ってこい」

なぁ、ほんまの事言うと、ちょっと自分が興味あったんちゃうか?



どうしようもなく愛しい君


  楽しそうな笑顔が見えたから、それでええわ。言わへんけど、
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