桜とともに | ナノ


原因はお前

【原田side】

紗良の処分が保留となって直ぐの朝だった。朝、外を見れば雪が積もっていて、それを横目に紗良を起こそうと走っていく新八と平助を見つめる。

「紗良ーってうわあああああああああああああ!!!」
「おい平助どうした?女の寝顔がそんなに珍しいのか……って、おわあああああああああああああ!!」

平助……新八……お前らって本当女に慣れてねえのな……。思わず頭に手を当て部屋に入る。女の部屋に勝手に入るのはいけねえ気もするが、紗良は処分保留という扱いだから仕方がないというのもある。といいつつも皆が甘いのはこの外見と、それの裏腹でなにか不思議な感じがする性格に興味があるんだろう。少なくとも俺はそうだ。

「どうしたんだよ?」

姿を見たとき、俺も流石に驚いた。あの服装では無理もないことだが、無防備にも紗良の足は太もも辺りまで布が捲れていた。これが平助や新八だったからよかったものの、総司あたりだったらと考えると不安が胸によぎる。

「左之さん、なにしてるの?」
「おわっ……!!」

紗良の姿を見た後に総司が俺の方に移した眼に含まれている感情は、間違いなく軽蔑だ。

「おい。おい総司。誤解するな」
「紗良ちゃん。左之さんたちがいやらしい眼で見てるよ」
「見てねえよ!そんな左之さんじゃあるまいし!!」
「そ、そうだぜ!!左之じゃあるまいしな!!」
「俺だって見てねえよ!!」

声が煩かったのか、「ん……」と紗良は小さく呻き、寝返りをうった。その寝顔は年相応というか、あんだけ死にたがっていた奴の顔とは思えないくらい穏やかな顔立ちで、幼さが残っていた。

「紗良ちゃん、早く起きなよ」
「んー、あと5分……」

ごふん?未来から来たからか、紗良の言葉には理解しにくいものがある。そして総司はといえば、ふぅ、と肩をすくめながら溜め息をつき、紗良の体を小さく揺すった。

「……足見えてるよ。平助たちが真っ赤になってるから、早く起きて服装正してあげて」

起きる気配全くねえな。此処まで起きねえと流石にすげえよ。

「総司に左之に平助に新八……何をしている」
「あ、それ着替えの着物?」
「ああ。椎名、入るぞ……………っ!?」

斉藤の顔が一瞬にして赤くなった。案外新鮮で面白い。そして今の紗良の状況からして寒くはないのかと思えば、ぶるりとその身は震え、やはり寒いのかと一応布団はかけた。ぎゅう、と布団をつかむ仕草を素直に可愛いと感じ、思わず髪を手の甲で撫でると、ぱちりと瞼が開いた。

「……あれ……はらださん……?」
「おう、起きたか?」
「んー……?おそろいで……」

眼を猫みたいに擦るのに思わず口許が緩みそうになったのを、幹部という自覚から隠す。ちらりと横目に移すと、他の奴らも多分俺とおなじ心境だろう。

「……椎名、早くコレに着替えろ」
「……あー、ありがとう……ござます……」

ここで脱ごうとした事に驚いた斉藤が俺らを部屋の外へとやった。少し残念だと思ったのは俺だけではないはずだ。男はそういうもので、少し顔の良い女には興味が沸くもんだ。

少しすると、1人では着物が着れない事に気付いた紗良はそのまま着替えずに部屋の外に出てきて、目を丸めた。

「わお。雪だ……」

あたりは一面銀世界で、これが見せたくて2人が朝早く呼びに行っていたことを思い出した。予想以上に驚いている紗良に総司が首を傾げ、白いもやを吐きながら口を開いた。

「そんなに珍しい?」
「はい!地方によりますが、こんなに積もるのは北の方ばかりですよ!京は少ないと思います」

この笑顔はきっとつくられたものだろう、と新八でも気付いているはずだ。むしろ、こういうのが気付かなければ幹部はやってられねえからな。

「そうなの?」
「地球温暖化ですから」

聞きなれない言葉に真っ先に反応したのは平助だ。

「ちきゅうおんだんか?なんだよそれ」
「地球がどんどん温くなっていくんですよ」
「それはいけないことなのか?」

質問攻めだな、と思いつつも俺も興味はあるから黙って聞くことにした。未来がどういうもんなのか、少なからず興味はわくからな。

「そうですねー。やっぱり気候に問題があるといろいろ大変ですし」
「なーんかそっちは複雑だな。まあ俺は今が楽しけりゃいいけどな!」
「平助馬鹿だもんなー」
「新八も人のこと言えねえだろ……」

ちらり、と降ってきた雪に紗良が手を出すと、しずかに雪は手の上へのり、そして熔けた。

「やっぱり綺麗ですね」

あ、この笑顔だ。昨日から思っていたが、紗良の笑顔は基本、妙に総司に似ている。普段の総司の笑顔じゃなくて、本心を見られないようにするときの顔だ。でもこうやって見えるそれとは違う笑顔が、少し嬉しいとも思う。
分かってんだよ。こいつはまだ信用しちゃいけねえってことくらい。けどよ、昨日だけで興味が沸いた俺もいて、今一掴めないコイツを、守ってみたいとさえ思った。慕っているとかそういうのではないと思うが、俺は紗良が嘘をつくとも思えなかった。

そしてそう考えてた間に、何故か遊ぶ事になったらしく、紗良は断りたかった見てぇだが新八や平助に頼み込まれ断れなかった。「私みたいなのって、普通部屋にずっといた方が良いんじゃないですか?」と言う意見は正しいが、一緒に外に出るのが幹部だと言えば、なんにも言えなかったみたいだな。まあ確かに土方さんに見つかったら大目玉だけどな。

「おや、なにをしているんですか?」

縁側を歩いていた山南さんがそう尋ねた。そんな山南さんに、紗良は雪玉を丸めながら近寄り聞いた。

「山南さんも一緒にどうですかね?」
「私は見ているだけで十分ですよ。それよりも椎名君、寒くないのですか?」
「大丈夫ですよー!」
「手が冷えてます」

そういって自分の手で紗良の手を包み込むようにして山南さんは温めた。珍しいな、あの人があんなことするなんて。なんか面白くなくて、新八におもいっきり雪玉をぶつけてやった。

「そろそろ朝食の時間です。遊びはほどほどにしてくださいね」
「なに!?もうそんな時間か!!そうしちゃいられねえ、早く行くぞ!!」
「え、いや。私はだから……」
「椎名君も一緒に、ですよ」

少しはにかんだようにお礼をいう紗良の顔は、やっぱり少し総司に似ていた。それよりも山南さんの笑顔が少し違って見えるのは気のせいなのかと不思議に思い、縁側へと近寄る。

「じゃあ、紗良も行くか」
「あれ、原田さん鼻が赤いですよ」

笑いながら急に、紗良の両手が俺の両頬へと伸びる。ぺたりとその手が触れると、直に温もりが伝わってきた。

「やっぱり冷えてますね」

なんか暑ぃ。急に暑くなってきた。これが言ってた地球温暖化って奴か?だってよ、こんなの俺に限ってあり得ねえだろ。

とりあえず見たこともない蘭学医の娘が見つかることを、しずかに祈った。どさり、と木から雪の塊が落ちる音が、新八の呼ぶ声に揉み消された。


原因はお前


  もしこれが地球温暖化っていうならな


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