距離を察しろ 「ここに時代背景を無視してボッキーがあります。ポッキ●じゃないんで。ボッキーなんで」
「ぼっきー?なんだよそれ?」
「……甘味ものです。また、恋仲同士で両端を加えあって食べ進めていくと言う娯楽もあるもので……まあ、遊び半分で同性間で行われたりもしますが」
「ふうん……じゃあさ、しようか」
「お?どうした総司。お前恋仲でもいたのか?それとも島原いくか!」
「ははは、やだなあ新八さんと一緒にしないでよ。ね?紗良ちゃん」
「いやそんな笑顔でボッキー持たれても」
「あーなるほどなあ。総司、順番に決まってんだろ」
「いや待ってくださいよ原田さん。順番もなにも私恋仲同士って言っ……」
「でもよ、そのボッキーとやらがあるっつーことは、そういうことだろうが」
「土方さん、あのですね?ボッキーというのは本来普通に食べ……沖田さんはまず離れてください」
「"紗良君"としてすればいいでしょ?」
「……」
「斎藤さんだけは助けてくれると信じてましたのに……!!」
〜土方歳三の場合〜
「ほら、くわえろ」
「……どうしてこうなったんです?」
「用は俺が此方くわえて、お前がもう片側くわえるんだろ?」
「……。仕方ないですね」
江戸時代の偉人がボッキーくわえて待ってるというのはなんだかシュールだな、と思いながら、横髪を掻き上げてボッキーをくわえた。
「……早くしてくださいませんか」
「ああ、食べていけばいいんだな?」
だからなんでそんなにゆっくりしてるんだ。無言でそう訴えかけると、「なんだ?そんなに早くしてほしいのか」と癪にさわるとこを言ってきた。
認めたくはないが、ここまで焦らすようにゆっくり食べられると、緊張してくるのだ。認めたくはないが。
「……長いですよ、土方さん」
ポキン、とあっけない音がして、間に居たのは沖田さんだった。
「あ、折れたので終わりですね」
「土方さんが長かったのが悪いんですよ?」
「総司……お前なあ……!!!」
沖田さんに対する土方さんの怒声の中、ホッと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
〜沖田総司の場合〜
「次は僕だね」
「私は早く終わらせたいです」
「始まった瞬間折ったりしたら、その折れた長さでするから」
「……」
この人は本当人の心読めてるんじゃないかな。読心術というもので。
「じゃ、行こうか」
どうとでもなれ、と自分からボッキーをくわえて上を向くと、いつも通りの笑顔はどことやら。少し驚いたような顔をした後、真顔でその先端をくわえた。
「……あの、」
「うるさいよ」
なんでそんなに真顔なんですか、という疑問はその一言によって、喉の奥に押し戻された。あの、なんでそんな真剣な顔してるんです。
そんなことを考えているうちに、サクリサクリと食べ進めていたことに、沖田さんの手が頬に触れられて気が付いた。
「ちょ、」
「ま、待て総司!」
沖田さんも予想していなかったのか、体が横に倒れ、当たり前のことだがボッキーは折れた。
「一君さあ……」
「まあ沖田さんも先程強制終了させたので文句は言えませんよね。はい、終了ー。というかなんで終始真顔だったんですか」
その問い掛けに「別に」と顔を逸らした沖田さんに首を傾げると、笑いながら原田さんが教えてくれた。
「斎藤のアレを避けれねえくらいに緊張していたんだよ」
〜原田左之助の場合〜
「別にこんなのがなくてもできるのにな」
無駄な色気を振り撒きながら、凄くナチュラルに顎に手をかけてくる原田さんに「知りませんよそんなの」と返すと嫌に口角をあげられた。
「へえ……じゃあ、してみるか?」
「誰か早く折れやすくしたボッキーを此処に」
カプリとボッキーをくわえると、最初から頬を撫でられどうしようかと思った。「なんだ?緊張してんのか?」と余裕な笑みを浮かべながら食べ進める早さはスムーズだ。
このままでは危ないが、この余裕では沖田さんのときみたいに誰かが邪魔しにきても逆効果な気がする。キュッと手を丸めて、開いていた目をそっと閉じた。
「……っ!?」
「あ、おれましたね」
「は……!?おい、紗良!今のは反則……」
「まあ確かにさっきのは接吻を待っていたように見えたよな……」
「それで左之が焦るのは意外だけどなあ」
「一本とれたみたいですね」と袖で口を隠し笑うと、原田さんは髪を乱雑に掻き、ため息をついた。
〜斎藤一の場合〜
「じゃあいきますよ」
「は、」
ボッキーを口にくわえた後、急に回ってきたことに驚いているのか、座っている斎藤さんの肩に両手を乗せる。先端をくわえさせると、やっと次を察したのだろう、斎藤さんの顔がぶわっと赤く染まる。
(この調子なら折れるのもすぐだな)
そんなことを思いながらも、さっきまでの人たちが皆余裕を携えていたせいか、その新鮮な反応に吊られ自分の顔面に熱が集中しているのがわかり、落ち着かない。
横髪が斎藤さんにかかっていたので、静かに耳にかけた。
「え、」
なにが驚いたかって、真っ赤になった斎藤さんが、静かにサクリとボッキーを噛んだ。そしてその両手が私の両頬に添えられることで、顔が固定され自分から折ることができない。
すぐに折れるであろうと思っていたのに、それがどんどんと顔の距離が近づいてくる。ちらりと横に目を向けると、幹部さんたちも呆気にとられているところだった。
斎藤さんの顔を傾けられるほどに近付いても、まだボッキーは健在だった。鼓動が少し大きく聞こえてくる。唇が触れ合いそうな距離で、少しだけ目を開いた斎藤さんと目があった瞬間、斎藤さんが身動ぎ、その反応でボッキーは折れた。
「な、何故目を開けているんだ……!」
「いや、驚いたのは私の方ですよ」
平然を装いながらも顔の熱は未だに消えない。そうだ、この人意外と突拍子もないことをするのだ、あの髪を切って貰った日のことを思い出して肩をすくめた。
〜藤堂平助の場合〜
「俺なら出来る俺なら出来る俺なら出来る俺なら出来る俺なら出来る俺なら出来る俺なら出来る俺なら出来る俺」
「若干怖いですよ藤堂さん」
「なんでさっきからそんなに冷静なんだよ……!」
心外だな、と小さくため息をつき、「早く終わらせたいんです」と本音をぼやいた。
「……お前、俺ができねえとか思ってるだろ」
「まあそりゃあ……あの土方さんや原田さん、沖田さんまでが折ったので」
そういうと頬は赤味を保ったまま真剣な顔てと代わり、藤堂さんは私の両肩を掴んだ。
「……」
意外にも半分が過ぎてもボッキーは折れずにいた。あの一言が効いているんだろうか。ボッキーを見つめていた目を、ちらりと上目に藤堂さんに向けると、その顔は真剣そのものだった。
頑張って食べ進めてはいたのだが、呆気なくもボッキーは折れた。
「え、」
「おやおや、運が悪かったです」
くすくすと笑ってそういうと、「そんなに折れやすいとか反則だろ!」と反論の声が届く。
「やっぱり無理でしたね」
そういうと藤堂さんは悔しそうに肩を落とし長い息を吐いたので、ボッキーゲームでそこまで……と思い頭を撫でると凄く複雑そうな顔をされた。
〜永倉新八の場合〜
「いきますよー」
「?おう、……っ!」
ズボッと先端を永倉さんの口の中に押し込み、反対側をくわえる。
斎藤さん同様、きょとんとした顔で見たあと、嬉しそうに声をあげた。
「なんだこれ、すげえ美味えじゃねえか!」
子供みたいにそう言われ、まあ普通の反応はこれだよな、と思う。ただ焦ったのはそのスピードだ。ボッキーの味を知った永倉さんはそりゃあ早い。
「永、倉さ、」
鼻先が触れそうな距離で、制止をかけようと思った声に気づいたのか、パチリと目があった。
「〜〜〜〜っ!」
一瞬にして赤くなり、バッと体を離された際に、当たり前のことだがボッキーは折れた。
「す、すまねえな紗良ちゃん……!!」
「いや大丈夫ですから顔を上げてください。こんな光景なにも知らない人に見られたりしてくださいよ。誤解、」
静かに戸が開けられ、見えた人影は山南さんだった。
「おやおや……楽しそうなことしていますね」
〜山南敬助の場合〜
「椎名さん、なにをしているんですか?」
「……まあ、」
一通りの説明を簡単と、少し楽しそうに山南さんはボッキーを一本手に取る。
「ちょっと待ってください。やっと終わったと思ってたんですけど」
「まあまだ残りがあったわけですし、これは運命と言えましょう……」
「いやいやい、や、……っ」
にこにこと私の口にボッキーの先端を押し込み、手際よく反対側をくわえる。そんな私を見て、一際楽しそうに口角を上げた。永倉さんもこんな気持ちだったんですね。
「しかしまあ……」
半分程にすると、山南さんが口を開いた。
「これは……なかなか恥ずかしいものがありますねえ」
山南さんが顔を赤くさせるなんて、そう滅多に見れたものじゃなかった。初めてかもしれない。
「副長、こんなところに……って総長、椎名君!いったい何をしているんですか!!」
ビクリとその声に驚き肩が揺れる。その反動でボッキーは折れ、別に悪いことはしていないはずなのだが、私はなぜか山南さんに謝った。
〜山崎烝の場合〜
「どうして俺が……」
「まあ、折れたらそれで終わりですから」
「どうして君はそんなに平然と準備をしているんだ!」
「こんなにもしていたら感覚なんて麻痺しますよ」
はい、とボッキーを付き出すと、山崎さんの顔は緊張で強ばったが、溜め息を吐いた後、ゆっくりと反対側を口に含んだ。
顔色ひとつ変えずに食べ進める山崎さんを見ながら、つまらないなと感じた。もう少し焦ってもいいと思わないか。あんなに見たときは焦っていたというのに。
ソッと山崎さんの胸に手を当てる。
「え」
「……っ!?」
凄い勢いで山崎さんは自らボッキーを折った。
「な、なにを……!」
「……山崎さん緊張してたんですね」
平然を装った顔とは裏腹に、とても大きかった心音に妙な満足感を得た。そして、顔を紅潮させた山崎さんに向かい、「すいません」と謝ると、「笑いながら言うな」と怒られてしまった。
「フン……人間風情がなかなか面白いことをしているではないか」
よし、帰れ。
〜風間千景の場合〜
「やっぱりこうなるんです?」
「当たり前だろう」
「いや、どうせなら女性の雪村さん誘ってくればいいじゃないですか」
「今、雪村は屯所にはおらん」
「ちょ、最後の俺の頼み綱」
「黙れ」という一言が聞こえてきて、ボッキーが強制的にくわえらされた。腰に手を回されグイッと引かれると、真っ赤な深紅の瞳が真上に来る。
「細いな。やっぱり男としてはまだまだか、椎名よ……」
「……いずれ風間さんを見下ろしてみせますよ」
挑発的な笑みを浮かべて見せると、風間さんは真剣な顔で、かつ噛みつくような勢いでボッキーを口に含んだ。
(あれ、)
食べ進めていく風間さんに微妙な違和感を感じながらも、なにも言わずにいた。でも、多分この人、
風間さんも慎重に食べていたのだとは思うのだが、それでもポキンとボッキーは折れてしまった。
「……風間さん」
「……なんだ」
「緊張、してたでしょう」
「そんなわけないだろう」
そう言いながらそっぽを向いたが、腰に回されていた手の力がグッと込められていたのは、あれはきっと緊張していたんだ。鬼も人間らしいじゃないか、と思い心中で笑った。
距離を察しろ
ここは江戸時代です、
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