桜とともに | ナノ


奥が見えないその顔は

【沖田side】

稽古が終わった時間だというのに未だ彼女は竹刀を振っていた。

「ねえ、まだ続けるなら僕が付き合おうか?」
「ご迷惑でないのなら…ありがとうございます」

そう言って笑う彼女の笑顔は純粋無垢の様なまっすぐな笑顔を向ける千鶴ちゃんとは全然違っていた。
これは彼女の嘘の顔。言えば僕らに出逢ってから彼女が素顔に近い笑顔を見せたのは、近藤さんが紗良ちゃんが助かると宣言したときだけ。
あれが本当の顔かといえば全然分からないんだけどね。まあ僕たちの場合そういう嘘の顔は見抜けなきゃ命取りになるから。

彼女が竹刀を構えた。隊士が木刀で稽古するなか、彼女が竹刀を使っている理由は彼女が女の子だからっていうこと。本人は女であることを快く思ってないみたいだから、「基礎がなってねえうちは竹刀で我慢してろ」土方さんが誤魔化した。
彼女が閉じていた眼を開くと、凄い気迫を纏った。型は滅茶苦茶なのに、少数の平隊士に勝てている理由はこれだ。
僕でさえ、気を抜けば飲まれそうになるんだから、きっと平隊士の大半はこれに飲まれてるんだろうね。

初めてのときよりも速度が上がった。飲み込みが異様に早い。まあほかの人たちに比べてあれだけ練習してるから、当たり前と言えば当たり前だけど。
うちこんでくる竹刀を横へと流す、なんど竹刀を地面に叩きつけてもまた竹刀を拾って向かってくる彼女の姿勢には僕は素直に好感を持てた。
左之さんは女の子に結構夢見がちな所があるから納得はできないみたいだけど、まあそれも仕方ないかな。

「紗良君、まだするの?」
「ええ、すいませんがお付き合いしてください」

僕はそれでも良いんだけど、小さい肩が上下に揺れてるんだよね。

「平然と笑顔を作っていても体は誤魔化せないよ。息が上がってる」
「平気ですよー」
「平気じゃないでしょ。……あ!近藤さんだ」

近藤さんの姿が見えて嬉しくなり、すぐに駆け寄った。後ろからついてきて、小さくお辞儀をした彼女に対し近藤さんは口を開く。

「凄いな、椎名君は。飲み込みも早いし、纏う気迫が女子には思えん」

“女子”という言葉に一瞬ほんの少しだけ眉をひそめたが、すぐにいつも通りの笑顔が貼り付けられ、「ありがとうございます」と小さな口から紡がれた。

平成の世は見たことはないけど皆こんな風に本心を隠して過ごしてるのかと、見たことの無い未来の事に付いて考えた。
近藤さんに褒めてもらえてお礼を言う顔も、僕にもう一試合と催促する笑顔も、顔は悪くないにも関わらず、ただ気持ち悪かった。



奥が見えないその顔は


  君はどんな世にいたの、

  
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