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 今ここに居る人間は生半可な覚悟でこの組織に所属しているわけではないのだ。命令に従い任務を遂行し、私情はかけらも持ってはいけないのである。だから、この決断は間違っていないはずだった。


「捜索活動は禁止します。…ティエリアとロックオンはミッションの準備を始めて。名前も」


 この組織は簡単に刹那・F・セイエイとガンダムエクシアの存在を消し、作戦を優先した。エクシアからのシグナルロストを確認してから4時間が経ち、それぞれはもう平静を保っていなかった。元々存在しない名前で、生活を、戦場を、共にしただけの関わりである。しかし世界に喧嘩を売ろうが恐れられようが、ブリッジに居る者はそう割り切りたくても割り切れないただの人間だった。決定事項と計画を淡々と告げすぐ去っていくスメラギも、人間なのだ。
 変えようとして、変わり始めたころ、根本が変わらなかった。

 いつも騒がしい機械と粒子散布の音も、今日は厳粛と静かな音をたてるだけだった。どうせならヒスを起こしたように悲鳴をあげて欲しかった。泣き叫ぶに泣き叫べない俺たちのかわりに。機体は俺たちを地球へ運ぶ。ティエリアは無表情のまま、冷酷に平和な青い景色を見ていた。何かを考えているのだろう。もしかすると何か抑えているのかもしれない。
 地球は青かった。こんなに美しい場所のあちこちで戦争が行われているなんて信じがたい程に。この何処かに無口な英雄がいるのだと陳腐なことを考えては自嘲的な気分になった。


「ロックオン・ストラトス」

「なんだ」

「呆けるくらいならマイスターを辞めるといい」

「ああ。…ごめんな」

「貴方は事実を拒否している」

「お前もだろ、ティエリア」

「事実は否応無しに来るものだ」


 白と赤と黄と青が崩れている破片の中に埋もれて死んでいる刹那を想像した。それが幸せそうなのか苦しそうなのかまでビジョンはくっきりと映し出さなかったが、前者であればいいと願う。否、想像なんて要らぬ取り越し苦労だ。
 機体の微かな揺れは揺りかごの役目を果たさなかった。



 後始末に派遣された名前と東京で合流する。名前は紙袋を持って、少し遅れて現れた。


「…とっても殺風景な部屋だったよ」

「あいつらしいな」

「残ってるものはたったこれだけ、」


 名前は持っていた紙袋を揺らした。薄い洋服が数着入る程度の紙袋の中身は、揺らすとがちゃがちゃと動くほど少ない。
 そして"たったこれだけ"に詰まった何かは、俺たちにはわからない。


「処分しろ」

「ティエリア…」

「するよ。するけど、不法投棄も良くないでしょ」

「名前」

「どうしたのロックオン、存在しない者の物なんて要らないでしょ」

「いや俺が処分しとくぜ」

「だめ、絶対しないでしょ。だから私が持って行く」

「名前の言う通りだ、ロックオン・ストラトス。やはりマイスターには向いていないようだな」


 紅茶も最後まで飲まないまま名前は素早く何処かへ消えた。名前の嘘はお見通しだったが、俺も"たったこれだけ"の物を捨てる気は無かった。短い期間ではあったが優しさの中で育ったことがあるばっかりにまだ甘えを抱いているらしく、無理だと知っても求めてしまう。握り締める拳を見たティエリアはそれを容赦なく叩いた。知ってるさ、大人げない事くらい、マイスターらしくない事くらい。でも俺たちはマイスターである以前に人間なんだよ。




080117



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