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眠 れ 悪 い 子



「お父さん、このお店すてるの?」
「ああ」
「どうして?」
「契約が欲しかったから建てた店でな、でも契約はもうしたからね。それに」
「…それに?」
「いや、なんでもない。そういうことだ。名前も売れているし、個人経営でもやっていけるだろう」

 ごめんね私、本当は知ってるよ。
 ここらへんじゃ入らないお酒を取り扱ってる会社と契約をしたいがために建てた店だけど、案の定繁盛した。でもそこのママはね、お父さん、つまり社長のことが好きだったんだよ。
(「私、どうして捨てられるのかな、さりげなく聞いてみてくれたら嬉しいな…」)
 バイトとして送付する請求書を作っているとき、ママと話したから知ってる。契約の話も、ママの話も、キリがいいから纏めあげて誰にも気付かれないようにしまい込んだんだね。

「つかさ、お前が1番大事なんだ」

 ママ、ごめんね。でもママの店なら大丈夫、なんたってここらへんでは手に入らない高い高いお酒も飲めるし美人で教養ある女の子もたくさんいる。

「…なによ突然。ちょっと怖いよ」

 捨てられたのは、他でもない。私のせいだったってことは、ママにも教えないでおくね。









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