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醜 く 咲 い て ほ し か っ た



 息を飲むほどの雪空だった。私は後々後悔すると知りながらも突き刺す紫外線を避けることもしないで、寛を待っていた。
 遥か先まで変わらない鉛空にくるまれるビル街を見下ろし、似たような黒い車が近づく度に客室係の松岡さんが持ってきてくれたタオルに手を伸ばしていた。そしてついに待ち侘びていた着信音が響き、端末を両手で耳に押し当てる。それを見ていたつかさは雑誌で口元を隠し、堪えきれない笑みを浮かべていた。

『もしもし』
「ん」
『何かいるものはある?』
「とくには…あ、あのね、集合時間が早くなった」
『わかった。今向かってるから』
「うん」

 あと3時間と少し後の私達は学園にいることになる。
ソファに我が物顔で沈むつかさの隣に私は小さく座った。つかさはさっきから広報部同士で今夜のことを打ち合わせているようだった。

「…なんで笑ってたの?」
「んー、ホワイトクリスマスってロマンチックじゃあん」
「やっぱり今日雪降るの」
「らしいよ。…あ、篠宮先輩はマーメイド着るんだってー。天音はどんなの着るの?」

「どうだろ…千鶴さんにおまかせだから。つかさは?」
「稜に合わせて白と赤」
「…めでたいね」
「そんなデザインじゃありませんー!」


 学園では毎年クリスマスイヴにプロムが行われる。生徒会長だった寛にも招待状は届き、それを知った千鶴さんは仕事先のクローゼットを漁ると、私よりも張り切っていた。そのときの鮮やかな声は未だに私を突き刺す。

「あれ、天音、千鶴さんって来るの?」
「参加するかは聞いてない。でも私のドレス一式選んでくれてる。髪もメイクもやってくれるそうよ、つかさのも」
「嘘!やった、うれしー!」


 どうやら今年のパーティーも私の出る幕じゃない。私は生徒会執行部の一員としてOBに挨拶をして記念写真を撮るだけでいい。だって、どうせつかさしか知らないのだ。万が一寛と踊ったとして、生徒達を疑問の渦に巻き込むだけ。万が一寛と踊ったとして、寛の許嫁は離れたりしないに決まっている。私たちは、家族なのだから。

「天音、入るよー」
「こんにちはぁ」
「あ…おかえりなさい」
「おじゃましてますー!」
「…つかさ、ここ私の家よ」

 寛が両手いっぱいに抱える荷物を少しずつ受け取りながら中身を取り出していく。
黒のプリンセスラインのドレスと靴、中世ヨーロッパ風のアクセサリーをトランクから重たげにごそっと出した千鶴さんの顔は達成感に満ちていた。

「アンティークレースとチュールをデコレートしてあるの、かわいいでしょ!天音には黒って決めてたの。スタンドカラーで、肩は出してもいいかなと。それとプリンセスラインは希望だったわよね」
「頭にバラを…?まぬけになりませんか?」
「あら、生徒会のコードって聞いたのだけど」
「…ああ、そうだった」

 本当は、負けるのが嫌だった。私は変えられない現状にもがいているというのに、そんなに強く押してこないでほしい。近くにいるだけで華やかな匂いがする千鶴さんの強さには張り合えないととっくに理解しているのだから。


「似合うな、天音」

 千鶴さんは大好きだけど、いなければよかった。せめて今日くらい、関わらなければよかった。でも千鶴さんが居なければドレスは誰も選んでくれなかった。ドレスがなければ寛にほめられなかった。苦くて痛い悖反。


「みんなありがと」









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