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※ 電波?









 私はその日、バルコンで流れ星が落ちてこないか見張っていたのだけど、それはそう簡単に落ち
てくるものでもないから、オリジナルの星座を作ることに専念していた。私は、眠れない夜は決まってバルコンで過ごすのだ。
 だけど、ずっとそうしていたって埒があかない。
 だけど、布団に潜って羊を数えようとしてもメリーさんは「ごめんなさい、羊たちは出払ってるんです」の一点張りだった。
 今夜は眠れないひとが多いんだね、と私が言うと、そうらしいです、と穏やかな笑いが返ってくる。じゃあまた今度眠れなかったら来るね、と約束して布団を飛び出た。

「ねむれないよーう」

 そう呟いてまた外に出た。
 シャロンのWANNA BE AN ANGELなんか聞いたら、どこまでも飛んで行けそうな夜だ。摩天楼のはるか上空を自分の羽で飛ぶのは、楽しいだろうなあ。
 そうして私はまた星座を作る。あの少し赤い星と、真っすぐに並んだ青白い星と、あそこの一等星を繋いで、メガネ座。なかなか力作。誰かに説明できないものかな。

 そうしている間に、向こうから足音が聞こえたから、ミシェルくんが帰ってきたのがわかった。手を大きく振ってみたけどこの暗闇では分かりにくいかもしれない。
 でもミシェルくんはすぐに気付いて、歩く速度を少し速めた。階段を昇って、ようやく玄関のドアが開く音がする。

「おかえりなさい」
「うん。寝なくていいの?」

 あ、このせりふ、お兄ちゃんみたいだ。途端に面白くない気分になる。

「だってね羊を数えようとしても、お仕事で忙しくてみんないないんだもん」
「羊じゃなくちゃダメなの?ウサギでもいいじゃん」
「ダメだよ、あの子たちは順番が守れないの」
「そっか」
「うん」

 パチリと電気をつける前に、ミシェルくんのあくびが聞こえた。それから着ていた洋服を脱いでいく。シワにならないように丁寧にソファに置くくらいなら、ハンガーにかければいいのにね。

「じゃあ、シマウマは?」
「目がチカチカするからダメ」
「なるほど」

 ミシェルくんは軽く笑いながら、キッチンの方へ歩いていって、冷蔵庫を開けた音がしたと思えば火がつく音がした。ミルクパンに入ったホットミルクを二等分して、そのうちの一つを私に渡した。白いマグカップを抱える私を見て、ミシェルくんが「絵本にでてくるこどもみたい」と笑う。確かに、そうだと思った。パジャマにマグカップに、夜空に高揚した表情だもん。遅くまで起きていることに背徳感を感じながらものすごい楽しんでいる私は、本当のこどもかもしれない。

「それ飲んだら寝な、ね」
「あれ、ミシェルくんは?」
「シャワー浴びてくるから」
「そっか、わかった」

 ミシェルくんは長い足をけだるげに動かしながらバスルームに向かう。
 そして20分も経たないうちに、ほかほかで出てきたミシェルくんは、まだ私が起きているのを見てあくびをした。

「まだ起きてたの」
「そんなに早く眠れるんだったら羊なんて呼ばないよ」
「じゃあトランプでもする?」
「ううん、ミシェルくん明日も早いんでしょ。私も寝る」
「ん」

 実はさっき、枕を入れ替えておいたのだ。気付くかな、いやきっと気付いても何も言わない、今日は。私が眠くないときに限ってミシェルくんは眠たそうだった。だから、今日はそのまま私の枕を使うだろう。
 わかってたことだけど、呼吸をするたびミシェルくんのにおいが胸をいっぱいにする。

「眠れるといいね」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

 電気を切ったら、本当に真っ暗で、すぐとなりのミシェルくんの顔も見えない。
 私の腰のあたりをぽんぽんと規則的に叩くこそばゆさに息を潜めて笑っていたら、窓の外にきらりと星が流れた。メガネ座も傾いてしまっている。なんだかとても安心して私は本日ようやく眠りに落ちた。








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