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 世界の暗さとは正反対の位置に存在する、彼女。夏に澄み渡った空を眺めるその仕草は、何よりも神聖なもののように思えた。
 きらきらと星の粒が彼女の大きな目に入る。そしてそっと痛くないように微笑んでくる彼女を、私は決して拒むことはできなかった。失うのを恐れて他人と自分を隔離することも、まるで星を拾うように丁寧に触れてくる彼女に対しては、できなかった。邪険にすることだけは、躊躇われた。
 私も宝物を見つめるように、そっと空を仰ぐ。鳥が凪いで、涙のように滴が落ちる風の灯火を垣間見る。吐く息のはかなさと、月に照らされる小さな身体の可憐さを、ただ大事にしたくて、そっと心の中でだけ抱きしめた。
 風を孕むうつくしい髪に、無意識に手を伸ばす。一瞬だけ不思議そうに首を傾げた彼女。構わずにその髪を梳けば、気持ち良さそうにふわり、と、風に溶けそうに笑う。
 彼女はそっと、私の代わりに睫毛を伏せた。私の思考を読み取ったかのように、絶妙なタイミングで。見なくてもいいものは、見なくても、いいように。

「…シェリルさん、」

 夜空がきらりと光って泣いた。私は泣かない。隣のぬくもりが、たまらなく大切なのだと、感じるのだ。私らしくもない。絶望に溺れたとき、前を向くことに精神の浪費を強いられた。それでも前だけを見据えて立っていられたのは、いつもあたたかく、やさしい大衆の中に彼女が当たり前のように立っていたからだ。

「…どうしたの?」

 ありがとう、と言いたい。でも、言えない私を彼女は赦すだろうから。私はまたあまえてしまう。

「湯冷めしちゃいます!もう、寝ましょう」

 もはや、こう微笑む彼女だけが、私の中の確固たる真実だった。夜空を仰ぐ。澄み渡った空に鳥が凪ぐ。涙のように落ちる滴の灯火。吐く息のはかなさ。月に照らされた小さな身体。あなたの、やさしい温度。





090730



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