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呼び方が「ブレラさん」から「お兄ちゃん」に変わってまだ長い時間は経っていないけれど、やっぱり兄妹だからなのかすぐにお互いがお互いの生活に浸透していった。
それでも知らないことはまだまだあるらしく、ばらばらに育って来た私たち二人の間には、それぞれの戒律があって、それは生活する上で何かと衝突を繰り返した。
テーブルに並べられた朝食は、未だ仲良しに引っ付こうとする瞼に喧嘩をさせた。ハムエッグにトースト、マフィンにスコーン、サーモンのサンドイッチ、サラダにスープ等の洋食からご飯に秋刀魚に梅干しに味噌汁等の和食までがテーブルを溢れそうに並べられている。ハムエッグは有に三人前はあるし、トーストも一斤分はある。ご飯も丼に山盛りだった。
私は、目を見開いたまま突っ立つしかない。
おはようと振り返るお兄ちゃんの額の傷が、まだ少し生々しかった、…違う。今はそんな事を考えるところじゃない。
ねこ日記の旋律がお兄ちゃんの鼻から抜けていく。明らかに上機嫌だった。私は意を決して聞いてみることにする。
「…お兄ちゃん」
「なんだ」
箸とフォークとスプーンとナイフを一気に手渡される。私にも付き合えということなのだろうけど、生憎私は全種類を食べる意欲などない。
「いつもこんなに食べるの?」
「…ああ」
恥ずかしかったのか、お兄ちゃんは少し俯き加減に頷く。
不謹慎だとは思うけれど、サイボーグでも食べるんだと少し安心した。
「…そ、そっかぁ!…あ、お兄ちゃんどれがいい?取ってあげる」
初めて会ったときよりはいろんな顔を見せてくれるようになったとは言え、まだどこかぎこちないお兄ちゃんの表情が私の恐怖感を煽ることも少なくない。
勤めてにこやかに笑うときもあるし、そんな時はあらためてブランクの大きさを実感する。
「いや、それはランカの朝食だ」
「……ん?」
「どうした」
「ううんなんでも、…おおおお兄ちゃん…、ありがとう…」
そうしてまた恥ずかしそうに私に背中を向けてキッチンへ歩いていく。私はお兄ちゃんと一緒に食事するための、出来るだけお兄ちゃんを傷付けないような台詞を考えていた。
090601