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 梅雨でもないのに、最近は雨がやたらと多くて、昨夜まで綺麗に星が見えていたというのにぼつぼつと大粒の雨が降って来る音で目を覚ます始末だ。心細さに負けて自室を出てもお兄ちゃんは居なくて、私一人が広い部屋のすみに立っている。
 雨は雷を呼び、仲良く私たちを弄び始めた。底冷えするフローリングから足を離すため椅子の上で体育座りをし、両手で温かなカップを包み込む。
 お兄ちゃんの寝室を覗いても、やはり家には私一人だった。人の存在を感じるにもテレビしかなく、でもそのような一方的な感じ方は今の気分ではない。
 せめて誰かと、雷についてでもいいから会話がしたくて、そろそろ起きている頃だとアルトくんに「雷すごいね」の一言だけ送ってみた。
 アルトくんは、今私が一人だということを知っている。でも私は、アルトくんが一人だという確証がない。それでもアルトくんはいつだって私のくだらない一言も掬ってくれていたから、敢えて言うなら私はその優しさに付け込んでいた。こんなどうでもいい天気の感想でも、アルトくんはきちんと答えてくれる。例え、「そうだな」とか「怖いのか?」みたいなことでも、本当に心から思っているように話してくれる。
 よくよく考えると、失恋して以来私からアルトくんへ連絡をしたのはこれが初めてだった。アルトくんがそれに気付いたのかは知らない。ただ、私が気付かなかったことに気付いていた。いつの間に本人も気付いていない女心を理解できるようになったの、という湧き出た疑問もコンマ単位で答えが見つかってしまう。
 それでも、「いつでもメールしていいから 返事はちゃんとするから」という文面を見たとき私はどうしても会いに行きたくなった。 でも私はわかっている。揺らがないそこに隙間が生まれることなどない。私は、彼と彼女の間に入ることはできなくなってしまった。
 もう、その背中が振り返ってくれることはない。
 それにしてもアルトくんは変なところで聡いくせに、にぶいのだから。
 そうやって笑ってるの、見ていて辛いよ。
 遠慮なんてしないで。もう、辛い。せっかく諦めたと思ったのに、そんなに優しく私に笑いかけるから期待してしまうしかないじゃん。やっぱり、いじわるだね。




090408



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