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(「…どんなことがあっても、お前は一人ぼっちなんかじゃない」)

 もう、独りぼっちじゃない。あなたがいるから。再来と呼ばれた私はこの歌を悲しいものにしなかった。独りぼっちじゃない、独りぼっちになってもあなたは私を見てくれているよね。
 そうだよ、君の言葉はいつだって私の宝物になる。


「ねえ、アルト君。シェリルさんのこと…どう思う?」


 卑屈な言葉を放ち気丈を装う私からは次々と涙がこぼれ落ちる。月明かりに照らされて、涙は銀に光って、石を濡らした。
 初めて歌を聞いてもらった場所。一度別れを告げた場所。あっちこっちにふらふらしたけど、根本的な感情は変わっていなかった。アルト君が、好き。
 でも、涙はとめどなく出て来る。
 答え、まだ聞いてないよ。聞いていないのに、もうわかってる。
 こういうときに言葉を上手にかけてくれるのが、私の記憶の中のアルト君なのに、私が望む言葉はいつまでも聞こえない。鳴咽がうるさいせいかな、止まらないから仕方ないのかな。
 いつもみたいには屈んでくれない長身に、精一杯背伸びをして手を肩に添える。


「アルト君…」


 目の前にある琥珀色の瞳。長い睫毛。あの映画のときを思い出す、何にも隔てられない近い距離。嫌がって、ない。少しづつ近付くその一瞬一瞬が写真のように脳裏に焼き付く。
 薄目でも見えた、何か。スローモーションの世界の中、私たちの間にとても速く差し込まれた、アルト君の手。


「…っ」

「…っふ、ぅ」


 世界はまた普段の速さで動き出す。ついに枯れない、涙。泣き虫とからかう優しい声が耳の奥で聞こえる気がする。もう一回、その声で私を呼んで。怒声でも泣声でもなくて、昔みたいに温かな優しい声で、せめて「ごめんな」って。


「…フられちゃったぁ…」
「ランカ」
「へへ、どう頑張っても、シェリルさんみたいにはなれないや…」
「…」


 あなたの言葉はいつだってどんなものだって私の宝物だから、この涙に流れて消えてしまう前に、最後に呼んでくれた名前を覚えておこう。少し悲しげで、少し怒ってて、少し温かな、声。
 次はいつ聞けるかな。




090316
劇場版予告からの妄想



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