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 やりたいことはありますか。
 あなたは今どこにいますか。
 それを伝える術も調べるつてももうなく、かわりに僕は平和な地上を祈ってみる。システムダウンした薄暗いモニター越しに、青い地球を見て。彼は地球を見て死ねたのだろうか。生まれ育った地球を見る時間も与えないほど神様が酷いと思いたくない。
 手なんか組んで馬鹿じゃねえの、脳内で響く声ももう、ない。
 ひゅーひゅーと、口からでるのが声でなくなってしまった。ずる、と剥ける音を鮮明に聞いた。人間だった僕は、その一枚皮の下は惨くてグロテスクなのだと身を持って知る。名前も、綺麗なのは所詮上辺だけだったのだろうか。
 でも僕のように、どろどろとはしていないと思いたい。さいごまで興味を持ってくれることはなかったけれど、地上に降りては買い集めたネイルケア道具一式や、高級なスキンケア一式、メイク道具、美味しい果物などが、結果的にそういうところで差をつけていてくれることを望む。

(おやすみ名前)

 死ぬときに見えるという走馬灯に、どうか数少ない美しかった日々を最大限に引き伸ばして、血みどろの過去は除去してあげてほしい。夢を見させてあげて、そのまま夢の中へ行けるように。どうか神様、努力はしたから報ってよ。名前が望んでいるであろう、彼のもとへ連れていって会わせるくらいの代価にはなるだろう。

 僕は、いかに世界が空虚で堕落して見えていたとしても消耗していると思えたとしても0.00001%の確率だとしても可能性を信じる人間だった。

 もし彼と名前が会えるなら、僕は二人に会いたい。






 空と入り交じる海、鮮やかなステンドグラス、白いドレス、花嫁。見たことのない姿にやや歓喜した。

「おめでとう名前」
「何度も言われると恥ずかしいってば…」

 あの頃よりも素直な笑みに、つい昔話をしたくなった。名前もニールも知らないけれど真実の昔話。

「似合ってるよ」
「ありが…」
「爪も」
「メイクも」
「アレル ヤ?」
「綺麗」
「あ、ありがと…」

 何が言いたいのだろう。戸惑った表情に期待くらいしても構わないだろうか。例えば僕みたいに前世を覚えていて、少しだけ、そう、心残りがあるとか。
 僕はかしこまってしまって馬鹿みたいに緩い表情で突っ立っているだけで、控室の窓から差し込む光を正面から浴びていた。そうだ、前世もこんなかんじだった。名前達の居る方向から容赦なく光は注がれて、僕の後ろはずっと影になる。

「…名前、僕から過去をとったら何が残ると思う?」

 そこでドアをノックする音がして、新郎が入って来た。懐かしいあの柔和な笑みを浮かべて。
 名前が椅子から立ち上がりその背にまた笑みをつくる。

「今のアレルヤが残るよ」

 名前は新郎に手をひかれ、ドアへと歩いていった。式がそろそろ始まるのだろう。

「…ソラン、じゃなくて刹那が、さがしてるんじゃない?」
「せつな、…え?」
「ありがと、アレルヤ。ずっとずっと見てくれてたの、知ってる」

 僕は、いかに世界が空虚で堕落して見えていたとしても消耗していると思えたとしても0.00001%の確率だとしても可能性を信じる人間だった。
 だけど新しい世界は古い世界となんら変わりない世界だった。




080517



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