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 ※学パロ


 屋上が好きだった。喧騒から避けられて、暑いけれど、空に近づける気がして。今日も、空はどこまでも遠く青いし、世界は決まった軌道を回っている。
 教師が自由時間と銘打った授業のおかげで、教室は荒れ狂っていた。こんな暑い日によくやると思う。迷わず飛び出た教室から最寄の階段を駆け上がりべこべこになったステンレスの扉を開けると、僕より一足早く避難していたらしいティエリアと目があった。ティエリアの長い髪は風に煽られ、白いシャツは陽光を反射し、まぶしかった。それより、笑えるほどその夏空が不似合いだった。

「なにしてるの」

 振り向いたときには見えなかったその白い手にはピンク色のボトルと緑色のストローが持たれていた。そういえばティエリアは、澄ました顔をして子供じみた物に興味を持つこともしばしばで、今回はシャボン玉のようだ。前回はけんだまだったかな。
 見上げてくる不遜な顔も慣れたもので、なによりそんなかわいらしいものを持たれていては微笑ましいやら可笑しいやらで、笑ってしまいそうだった。

「それ、どうしたの?」
「クリスティナ・シエラに貰った」
「へえ」
「なんだ」
「せっかくだし、遊ぼうよ」

 クリスティナもよくわかっていらっしゃる、という言葉は大人しく飲み込んだ。黙り込んだティエリアは、ストローを逆に持っている。もしかして、もしかしなくても、遊び方までは知らないのか。プライドの高いティエリアを傷つけると、天変地異並の不愉快と言わんばかりのオーラを出して最低3ヶ月は無視されてしまうから、僕の方でまた飲み込んだ。ティエリアがそのまま、そのがつがつした方を口に含まないように、液を吸い込んでしまわないように(体内に入れるものには厳戒体制をはるティエリアに限ってそれはないとしても)、僕は「もうひとつストローないの?」と聞いた。…さすがクリスティナ、感謝するよ。
 隣に腰掛けようとしゃがんだ時かけられた、鋭い口調に身構えてしまう自分も今はいない。慣れとは、恐ろしいものか素晴らしいものか。

「"待て"。動くな」
「?」
「ちょうど影になる」
「…え、僕、日よけ?」

 案の定、彼の口から発されるのは可愛い気のない言葉だった。さりとて乏しかった表情の変化は今、どこか楽しそうで、人形のようだとはかなさに畏れていた過去が懐かしい。

「それ以外になにがある。"おすわり"」




080504



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