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 それでもいいと言ってくださったので縋り付きました。彼にも自分にも重過ぎるとわかった上で、もう限界だと知った上で、浅ましいまでに縋り付きました。自分は脆弱だったのです。私は些か自分を過信していたようでした。


「ロックオン、私はあなたがかわいそうだと思う」


 既製の情報にも一致しない感情は疎ましい他なく、でもそれは、言葉にして片付けられることを確かに拒んでいました。


「そんなふうに生を尽くすより、死んでしまったほうが楽だとも思う」


 わたしは、私たちが捨て駒だと認識したのは最近のことではありません。どうやらわたし以外はそのように思っていなかったようでしたが。ほぼ確実に、私たちは変革の軸となり、それから生じた歪みに潰されるのです。数十年後の地上で「ああ、そういうお騒がせもいたね」「質が悪かった」といわれる程度でしょうか。直感的に気付いていたそれは、無感動に繋がるのでした。何にも動じず心を留めないことで、私たちは完璧な天上人になれるのです。


「だけど、殺してあげることはしない」


 積んだものが高いほど崩壊したときの衝撃は大きい、それは常識としてわかっていたことですが、物理的な面の話です。心理とは物理ともいえるらしいのです。またその際、当事者にふりかかる被害はとてつもなく大きい。誤れば容赦なく崩れ落ちるということが共通していました。

 手繰り寄せる記憶に、欠陥があることが恐ろしいのです。記憶を抹消するには生命活動を不可逆的に止めなければならないのです。しかし今、それ以上の現象が一時的に発生したとでもいうように、あまりに曖昧で、翻弄されていました。そんな自分は自分らしくありません。やはり過信していたようです。
 いっそう、自我をなくすほどひとしきり責めてくれれば整理がついたのかもしれません。実際そうなった場合、逃げる場所をどこにも確保できないままということになるでしょうが。嘆き悲しみ祈り願うことは無限にできますが、時間は有限です。戻りもしません。今のようにわかっていても、今の頭では打開策は見つからなくて結局変わりないでしょう。


「…頼みたいことがある、」

「……なんでしょう」

「生きろよ」

「…わかりました。あなたは、」


 幼い子供にするような抱擁や瞼へのキスは大嫌いです。しかし、あたたかく、大きな、自分とは真逆な手は嫌いではありません。パンドラと形容されてきた自分にとって人間は醜いものでしかありませんでしたが、こんな人間もいたのです。この人間の大事なものを奪ってまでのうのうと生きている自分は何よりも醜く汚らわしものでした。
 自己陶酔もいまや宇宙の塵。


「ロックオンは、死ぬのですか?」


 頭を抱えられて、近付いた碧眼に半ば条件反射のようにかたく目をつぶります。なぜか眩暈がしました。そして、どこから現れたのか恥ずべき願望に絶望をするのです。
 できればいつまでもそうしていてもらえませんか。かおはみたくないけど、そうしていてくださいませんか。




080621



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