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トレミーにいたときのように、ここでも、何となくロックオンの部屋に集まっていた。アレルヤはキッチンを借りて美味しそうなシフォンケーキを作り、刹那と私とロックオンはカードゲームをして、ティエリアは本を読んでいる。さして変わりない行為だが、あきらかに違った。私たちは知っていた。あれらの機体の隙間に隠していただけで、必要なくなったころに大きくなったそれがごろりと取れたのだ。知っていたのだから驚きはしなかったが、その大きさに戸惑った。
初対面のときにロックオンはカードゲームをしようと言った。まだ問題児が問題児であったころの話。案の定、知らぬ男に囲まれた私の笑顔は引き攣り、ティエリアはプログラムを組み込まれたみたいに勝ちつづけ、アレルヤは宇宙人と交信、刹那は試合放棄、ロックオンはそんな私たちをまとめようと一人で喋っていた。
そのときからやり続けていたゲームにもそろそろ飽きてきた。もっと、今なら違うこともできるから。
「次、なにしよっか」
呆気なく終わったミッション。いつもより少しだけ、とはいえいつだかの合同軍事演習のときと同じくらい、気力の残量メーターが振り切ったころに私たちは全てを終わらせた。死んだわけでもないし、負けたわけでもない。勝ったわけでもない。ただ、与えられた計画を終わらせてしまっただけである。しかし達成感もなければ成功感もなく、指令のない不透明な一秒先を恐れた。人知を超える神とは違う、私の神たちはまだ触ることのできる位置にいるだろうか。
「…集まろう」
デュナメスからの暗号通信。流れるくせ毛が顔を覆って、モニターの向こうの髪の向こうの表情は伺えなかった。
モビルスーツを降りると、身につけているものはパイロットスーツだというのに世界を敵に回しているということを忘れてしまう。うっかり漏らしたりしたら、ティエリアは怒るだろう。
GN粒子がきらきらと私たちを包む中、ロックオンが4人に向かって差し出した液晶には見慣れた顔がうつっていた。
《録画で申し訳ないわ》
ボトルを口に運ぶ頻度の高いスメラギさんや、画面端で過呼吸になっているクリスティナを支えるドクターモレノ、ラッセさん、リヒテンダール、フェルト、おじさんが私たちに最終ミッションを告げた。もう、そのときは存在がないからだという。不思議と、私たちは表情を変えないでいた。それぞれがこのときを想像していたからなのだと思う。
ヴェーダはもう私たちを必要としなかった。見捨てられたのか終わったのかはイオリアのみが知る。変えた世界の変化をこれからも見届けられたらいいのに。
「…あとは、あなたたちに任せます。さよなら、元気でね」
「ばいばーい、アレルヤ、ティエリア!」
「元気でな、刹那、名前」
「ロックオンまた呑みましょ、」
「ハロ、ばいばい」
スメラギさんのあとにフェルトが写った瞬間、ぶつっと液晶はしまわれた。
端末を閉じたロックオンはひとつため息をついて、ハロを抱えなおした。
「次、なにしよっか…」
080312
次は、私たちの番です