テツナちゃんの泣き顔に興奮する黄瀬くんの話。 | ナノ

テツナちゃんの泣き顔に興奮する黄瀬くんの話。
黄黒♀/変態黄瀬くん/R18


・テツナちゃんの泣き顔にハアハアする変態黄瀬くんの話
・かっこいい黄瀬くんはいません
・エロ部分は少しだけなのでご了承ください
・変態だけどほのぼのな感じに終わらせたつもり…







自分に特殊な性癖などなかったはず、だ。

性欲も至って普通、童貞は14歳の頃に卒業してしまった。エロイことに興味があって、名前すら危うい年上のお姉さんとシた。こんなもんか、と思った。
AVを何本見ても、ものすごく興奮した記憶もない。付き合ってきた女の子とセックスをしても、感情的には何も感じなかった。自分を好いてくれる女の子をただの性欲処理にしている、と気付いた時はさすがにクソだなと自覚した。
どうしたって自分が性的に興奮するものがなかったのだ。
そんな黄瀬が自身のちょっとおかしい性癖を自覚したのは、帝光時代に青峰が部活に来なくなった頃だ。

「今日も青峰っち来てないッスね〜…黒子っち、何か知らないんスか?」

当時、帝光バスケ部のマネージャーであった黒子テツナに黄瀬がそう言うと、テツナは表情を変えないまま「…知りません」と答えた。
黄瀬がそっか、と言うとテツナは「すみませんちょっと抜けます、練習時間までには戻るので…」と言い残して足早に体育館を去って行った。
この時点で黄瀬はテツナのことを1人の女性として気になっていた。最初こそ見下していたが、気付けばいつもテツナを目で追ってしまう。クラスが違くても、廊下などで会えばテンションが上がってしまうし、話しているとテツナのふとした女の子らしい仕草にドキッとする。この子をもっと知りたいと思い、執拗に絡むもののテツナはいつも通り淡白で同じ態度だった。
「いつも女子に囲まれてる黄瀬にあんな態度とれるのは黒子だけだな」としょっちゅうキセキから言われていた。
黄瀬としてはそれがまた新鮮で、逆にデレるテツナも見てみたいものだった。

体育館を出て行く小さな背中を見てからしばらくした後、黄瀬は自然と体が動き、テツナを追いかけた。

(…どこ行ったんだろ)

女子更衣室だったらさすがに入れないなあ、なんて思いながら部室の前を通ると、微妙に開いたドアの隙間から人影が見えた。

「くろこっ……」

黄瀬は反射的に名前を呼ぼうとしたが、隙間から見えた光景に声が詰まる。

「…っひ、く……っ…………」

泣いていた。部室の中で、テツナが泣いている。どんな時も表情を崩さない、あのテツナが。目を赤くして涙をポロポロ流していた。
それも、青峰のユニフォームを手に持って。
泣いている理由は、さすがに黄瀬でもわかった。

やっぱりテツナは青峰のことが好きなのか、とか。泣くほど青峰が部活に顔を出さないことかつらいのか、とか。慰めてあげたいけど何て声をかけてあげればいいのか、とか。思うことはたくさんあった。
が、それよりも黄瀬の目を惹きつけたのは、テツナの泣き顔だった。小さな肩を震わせて泣いている姿は、支えてあげないと壊れてしまいそうだった。
ゴクリ、と黄瀬の喉が鳴る。
黄瀬自身でも信じられなかったが、黄瀬はテツナの泣き顔に興奮していたのだ。
今まで経験したことのない、じんわりとした熱さが自身の体の奥から滲み出てきているように感じた。
見ているうちに、ハアハアと息までもが荒くなる。
テツナの泣き顔を、見ているだけなのに。

(………もっと、黒子っちに泣いてほしい)

そんな言葉が頭に浮かんでからハッと我に返る。そして黄瀬は恐る恐る自分の下半身に目をやった。

「………うわ、マジ………か…よ………、」

ひくり、と黄瀬の顔が引きつる。
黄瀬は、自身の性器から先走りしているのを感じていた。



***



その出来事があってから、黄瀬はどうにかまたテツナの泣き顔が見れないものかと、不謹慎ながら頭の片隅で期待していた。
が、テツナが人前で泣くことなどそう簡単にはなく、結局一度も泣き顔を見ないまま帝光中学を卒業した。
おまけにキセキの仲は最悪のまま、それぞれ異なる高校に進学した。
テツナは高校でもバスケのマネージャーをするのだろうか。そんなことさえも黄瀬にはわからない。毎日彼女に会えないことが、もどかしい。
テツナに会いたい。何故なら、自分が想いをよせる相手だからだ。こんなにも1人の女性を好きになったことはない。こんなにも1人の女性に会いたいと思ったことはない。自分の知らないところで、テツナが他の男と話しているのを想像しただけで嫉妬心がわき出てくる。
…それに。

(……泣いてるとこ、見てー…)

自分は女性の泣き顔が好きなんだろうかと、あの後色んなAVを見たものの全く何も感じなかったのだ。テツナの泣き顔でないと、意味がないらしい。
また、あのざわざわした熱い何かを感じたい。

(…どうにかして、早く自分のものにしないと。)





高校を入学してしばらくたった頃、黄?にとって喜ばしくない噂を耳にした。
テツナがいる誠凛のバスケ部に、カガミという帰国子女のとんでもない男が入部したらしい、と。あの情報通である桃井が言っていたのだから間違いない。
テツナもバスケ部のマネージャーになっていたら、もちろんその男と関わっているだろう。どんな男かは知らないが、テツナが手を出される前に自分が動かなければ。ただでさえ高校が違うのに、のんびりしてる暇はない。
…ということで、放課後早速来てしまった。…誠凛高校に。

(黒子っちどこだろ、会えるかな〜…)

黄?がチラチラと誠凛の門の外から校舎を見ていると、外にいた生徒が「あれキセリョじゃない?」とどんどんざわつき始めてしまった。
ああ、ちょっと面倒くさいことになりそうだと思った時にはもう遅い。気付けば黄?は女子達に囲まれていた。

「こないだ発売した雑誌見たよお〜!」
「黄?くんって海常高校なんだよね?」
「何で今日ここに来たの〜?」
「もしかして誠凛に彼女いるの!?」

女の子達が口々に質問を投げかけてくるが、黄?はその勢いに負けそうになる。何故女子達は集団になるとこうも強いのだろう。

「あー…、ごめんね、えっと、誰か黒子テツナっていう子知らないッスか…?」
「黒子?知らなーい」
「うん、聞いたことないよね〜」

入学して間もないのもあり、彼女達が知らないのも無理はない。というか、あの影が薄いテツナのことだ。クラスメイト以外存在を知らないまま終わる気もする。
とりあえずどうにかこの輪から逃げ出したい…と黄?が思っていた、その時。

「…黄?くん?」

ずっと聞きたかった声がした。

「…!黒子っ……ち…」

声の方を向くと、そこには誠凛の制服を着たテツナ…と、自分とほぼ同じ身長の男が立っていた。黄?はその男を目にした途端、ああ、コイツがカガミか。とすぐに察した。

「…何でここにいるんですか、黄?くん」

テツナは心底驚いた表情をして黄?を見上げた。黄?は相変わらず小さくて可愛いな、と久々の再会に勝手に感動していたが、今はそれどころではない。
邪魔者は、排除しないとならない。

「黒子っちに会いたくて来ちゃった。ね、これからちょっと付き合ってくれないッスか?」
「え…これから、ですか」

テツナは少し困ったような表情をして、隣にいる火神を見た。

「友達?だろ。俺はいいから行けよ」
「…でも、」
「マジバはいつでも行けんだろ」
「…すみません。ありがとうございます」

火神は黄?に特に敵対視を向けるわけでもなく、そう言い残すとじゃあまた明日な、と去っていった。

(…マジバに行く約束するような仲なんスね)

黄?は内心舌打ちをした。やはりもっと早く来ればよかったかもしれない。いや、いっそ自分も誠凛に来るべきだった。

「…あの、付き合うって何を…」

テツナは困惑した表情で黄瀬を見つめる。黄瀬はにっこりと微笑んでテツナの腕を掴んだ。

「…とりあえず、ちょっと歩こっか」



***



「じゃあやっぱり、誠凛でもバスケ部のマネージャーやってるんスね」

だいぶ薄暗くなってきた川沿いに2人並んで座り込み、テツナに先程マジバで買ってきたバニラシェイクを渡した。

「はい。さっきの人が火神くんっていうんですけど、彼もバスケ部で…アメリカでずっとバスケをしていて。彼はきっとすごいプレーヤーになると思います。そのうち黄?くんと闘うことになるかもしれません」
「…ふーん」

ずいぶんとまあ、嬉しそうに火神のことを話している。
…青峰と、重ねているんだろうか。

イキイキと火神の話をするテツナを見て、黄?はふと自分の欲望が頭に浮かんだ。


『黒子っちの、泣き顔が見たい。』


いや駄目だ、やめておけ、と黄瀬の脳内では激しくストップがかかっていた。

…それでも。

「…ね、黒子っち」
「はい?」
「火神だって、…どうせすぐ黒子っちの目の前からいなくなるッスよ」
「……え?」

テツナが大きな目を見開いて黄瀬を見つめた。

「だってアメリカでバスケしてたんでしょ?こっちのバスケなんてすぐつまらなくなるんじゃない?」
「…そん、なこと、」
「あるッスよ。そのうちさっさとバスケ部辞めちゃうんじゃないッスか?」
「……っ…」

黄瀬の冷たい物言いに、テツナは言葉に詰まる。

テツナにとって酷なことを言ってるのはもちろんわかっている。傷つけているのももちろんわかっている。
でもそれでも、黄瀬がこんなことを言ってしまうのは。

「…っなんで、そんなこと……、言うん…です…か」

じんわりと、テツナの目が潤み始めた。

(あ。泣きそう)

黄瀬の身体にゾクッとしたものが走る。

(…あともう少し……、)

「…どうせ火神も……、青峰っちと同じことになると思うんスけど」
「……っ」

ポロリ、とテツナの目から涙がこぼれた。
その表情は、弱々しくて、頼りなくて、壊れてしまいそうな、あの時見たテツナの泣き顔と同じものだった。

(…っそうそう…、その顔……、めっちゃゾクゾクする…)

もっと泣いてほしい。
もっと泣かせたい。
そう思えば思うほど、テツナに酷いことを言うしかないんだろうか。

(…でも、俺は別に…黒子っちを傷つけたいわけじゃ―…)

「…もう黄瀬くんなんて、嫌いです」
「えっ」

テツナは立ち上がると、黄瀬に背を向けてスタスタと歩き始めた。黄瀬は慌てて立ち上がり、テツナを追いかける。

「待って、ごめん!言い過ぎたッス!」
「嫌です嫌いですもう僕に近付かないでください」
「うわああああ、違う違う違うんだって!つい出来心というか…!嫉妬しちゃって…っ!」
「嫉妬?誰が誰にですか」
「…お、俺が、火神に………」
「はい?何で黄瀬くんが嫉妬なんて…、」

ピタリ、とテツナが歩き進めるのをやめて振り向くと、黄瀬が情けない顔をして立っていた。

「…好き」
「へ?」
「好き!!!!俺は、黒子っちが、好きなの!!!!!!!」
「えっ……」

真っ赤な顔でそう叫ぶ黄瀬を前に、今日はなんだか驚いてばかりだ、とテツナはぼんやり思う。

「…あの、からかうのはいい加減にしてくれませんか…」
「からかってなんかないッス!俺、中学の時から黒子っちのこと…っ」

こんなに余裕のなさそうな黄瀬を初めて見たテツナは、ポカンとした。

「…さっきのは、本当にごめん…好きな子を傷つけるなんて最低ッスね…」
「……はい。もうあんな酷いこと言わないって、約束してください」
「します!!!!」
「僕は、火神くんのバスケを…側で支えていたいだけなんです」
「…うん、」

…ちくしょう、俺も黒子っちにそんなこと言われたい…やっぱ火神うざいッス…と思ったのは口が避けても言えまい。

「だから!俺と付き合ってください!」
「…文脈おかしいですよ」
「ねえダメ?黒子っち今好きな人とかいないでしょ!?」
「いませんけど…」
「じゃあ俺と付き合おう?」
「え…いや…、僕は黄瀬くんをそんな対象で見たことないのですが…」
「これからそういう対象で見てもらえるように頑張るから!お願い、俺にチャンスください!」
「わ、わかりましたから、静かにしてください!」

通行人の目が気になるのと、黄瀬の押しに負けてつい折れてしまった。
黄瀬は大喜びしているが、自分と黄瀬が恋人同士なんて全くもって想像ができない。

(…僕が、黄瀬くんの恋人になんてなれるんでしょうか……)



***



最初は、テツナのあまりの淡白さに本当に俺の事を好きになってくれるだろうかとハラハラした。
が、毎日毎日連絡をしてこまめに会いに行ってお互いの部活が休みの日はデートしたりして、あの手この手で自分を好きになってもらえるようにテツナに尽くしまくった。

その努力の賜物だろうか。
今、黄瀬は幸せの絶頂にいる。





「…っい、た、…っ、きせ、く……っ、」
「…〜っごめ、んね……、でも、もうすぐ全部入るよ…?」

テツナがセックスを許してくれること自体、奇跡だと思った。同時に、7ヶ月も待った俺は本当によく我慢したと褒め称えてやりたい。
テツナが身体を重ねるのを許すくらいだ。無事、テツナは黄瀬のことを1人の男性として好きになったということになる。
何が嬉しいって、単純にテツナとセックスができるからというだけではない。情事中、テツナはよく泣くのだ。痛くても、気持ちよくても、涙をポロポロ流して黄瀬に抱きつく。それが黄瀬にはもうたまらなくて、よく理性をふっ飛ばしてしまう。

そしてそれは、今日も―…

「…ひっ、く、…っあ、ぁ、きせ、く、」
「ん、いいこ。テツナ、気持ちい…?」
「んっ、ぅん……っ…、」

こくこくと頷きながらぎゅうぎゅうと黄瀬の首に腕を回して抱きついてくる。まるで、自分には黄瀬しかいないのだとでも言うように。

(っあー…、…泣き顔、たまんねー…)

ゴクリ、と喉が鳴る。このまま、めちゃくちゃにしてしまいたい。

「…ね、もうイきたい…?」
「…っ、…」
「言わないと、イかせてあげないよ」
「…!ゃ、だぁ…っ……、」
「じゃあ言って。イかせてください、黄瀬くん、っておねだりして?」
「〜っ…!そんな、の…」

テツナはこの上なく恥ずかしそうにしているが、パクパクと何か言おうとしているあたり、今以上の快楽を求めているのは明白だった。

「…っぁ、…いか、せて、…くださ、ぃ…っ」
「誰にイかせてほしいの?」
「ん、ぁ、きせ、くん……っ、」
「…テツナの大好きなとこは?…どこ?」
「……ぁ、…っ…もっと…、おく………っ、」

(…あーもう……、)

かわいい、かわいい、かわいい、かわいい。
恥ずかしくて泣いている表情も、それだけで射精できそうなくらいに、ゾクゾクする。

「…好きだよ、テツナ」

その涙は俺以外なんかに、見せないでね?




***



(…黒子っちの、悲しい時の泣き顔と恥ずかしい時の泣き顔は見たことがあるわけだけど、)

嬉しい時の泣き顔…テツナが嬉し泣きしている瞬間を、見たことがないのだ。
そうそう嬉し泣きなんてする瞬間はないかと思うが、恋人として、テツナの泣き顔マニア(?)として、一目見たい。
…が。

(黒子っちって、俺が何をしたら喜んでくれるんだろ…?)






「黒子っち、何か欲しい物とかないッスか?」

放課後マジバに寄り道し、そろそろ帰ろうという時に黄瀬が唐突にそんなことを聞いてきた。

「…新しい文庫本ですかね」
「それ俺があげたら喜んでくれる?」
「嬉しいです、けど…何でですか」
「や…、黒子っちの喜ぶ顔が見たくて…」
「はい?」

でもいくらテツナの好きな文庫本をあげたからといって、泣いて喜ぶほどではないだろう。
そもそも、泣いて喜ぶほどのことって何だろうか。プロポーズ、とか?

(そりゃあ俺はいつだって黒子っちと結婚したいけど、今プロポーズなんかしても黒子っちは喜ばないだろうな〜…。むしろ学生の分際で何言ってるんですか君は、とか言われそう…。まあ、プロポーズはいつかするとして。どうしたら黒子っちが嬉し泣きするか考えないとッスね)

そう決めてからというもの、黄瀬はテツナに本だの服だの高級菓子などをプレゼントをしまくる他、今まで行ったことのない場所へと連れて行った。どれもテツナは喜んでくれたし、楽しそうにしてくれたが、やはり泣くほどではない。
もうどうすればいいんだ…と、必死になっていた黄瀬は焦りを覚えた。別に誰も急かしてないし頼んでいないのだが。

今日はたまたま部活の休みが被ったため、2人でとあるテーマパークへ行った。そこでも黄瀬はテツナにぬいぐるみだのお土産だのを買い与え、帰りにはかなりの大荷物になってしまっていた。

「黄瀬くん、僕も荷物持ちます。ていうかほとんど僕に買ってくれたものばかりですし…」
「いいっていいって、黒子っちの腕折れちゃうッス」
「このくらい持てますっ」
「いーの。俺が持ってあげたいの」

もう暗いし家まで送るね、と荷物を持っていない方の手でテツナの手をとった。

「…黄瀬くんは僕に甘すぎですよ」
「えー、そう?」
「そうです。このままじゃ僕がダメ人間になってしまいます」
「そしたらずっと俺といればいいんじゃないッスか?」
「………っ…」

軽くプロポーズともとれる台詞にテツナは顔を赤らめ、照れ隠しなのか「黄瀬くんちゃらいです」と言いつつ、つないでいた手を離してスタスタと早歩きで行ってしまった。

「え!?チャラくないッスよ!俺黒子っちひとす…」

黄瀬が慌ててテツナを追いかけようとすると、ガラガラという大きな音が上から聞こえた。テツナの頭上に、大きな鉄パイプが落ちてこようとしていた。小さめのビルに、工事中なのか足場が組まれている。鉄パイプはそこから落ちてきたようだった。

「っ!黒子っち、危ない!」
「えっ…」

黄瀬は持っていた荷物を放り投げて駆け出し、きょとんとした表情でこちらを振り向いたテツナを思い切り突き飛ばした。

「きゃっ……!」

テツナがよろけて転ぶと同時に、ガッシャーン!と大きな音をたてて鉄パイプがテツナの背後に落ちた。

「っ……………!」

テツナが振り返ると、自分より後ろにいたはずの黄瀬が額から血を流して倒れていた。

「…っ黄瀬くん…!!!!」

鉄パイプは黄瀬の周りに散らばっていたが、黄瀬の反応はない。

「黄瀬…くん、黄瀬くん、やだ、や…っ…!やだ…!黄瀬くん………っ!!!!」

涙で視界がぼやけていたテツナには、周りの雑音と救急車が近づいてくる音しか、耳に入ってこなかった。




***



『お前本当にいつも黒子黒子黒子、って感じだよな…』


…あれ?笠松先輩?


『まあそうッスねえ、笠松先輩も早く彼女作ったらど…っ痛てええええ!』
『うるせえよお前は!余計なお世話だ!』


ん?俺もいる?何だこれ、夢?
ていうかこの会話、つい最近学校でしてたやつ…。


『先輩聞いてくださいよ、最近黒子っちの嬉し泣きしてる姿見たくて色々やってみてるんスけど〜』
『何だそれ、相変わらず気持ち悪ィなお前…』
『そんなこと言わないでほしいッス!』
『…別に泣かさなくても、ただ喜んでくれればそれでよくねえか?』


…俺、何でこんな夢見てるんだろ?


『まあ確かに…、やっぱ黒子っちって、笑顔が1番可愛いんスよね!』
『おい、惚気なら聞かねえぞ』


…そういえば、黒子っちは?どこにいるっけ?


『…くん、せくん、黄瀬くん、』


…黒子っちの声?俺の事、呼んでる…?


「…せくん、黄瀬くん…!」
「っ!ん……?」

ゆっくり目を開くと、目の前には視界いっぱいにテツナの顔があった。

「…わ!黒子っち…?」
「…き…せ、くん……」
「あれ、俺寝てた?てか、あれ、今日って…えーと…」
「…っ黄瀬くん…!!」
「どぅわっっっ!」

ガバッ!とテツナに抱きつかれ、黄瀬はつい変な声を出した。

「よかっ…、よかったあああ……きせくん、よかった…、よかった…っ……」
「え?え?何?黒子っちってば積極的ッスね、嬉しいけど」
「ばか…!覚えてませんか?ここは病院です…、デートの帰り、工事中の足場からパイプが落っこちてきて、黄瀬くんが僕をかばって…っ」
「……あ!そう!そうだ!え、黒子っちケガはない!?大丈夫だった!?」
「僕は無傷です…でも黄瀬くんが額にケガしてしまって…でも、不幸中の幸いでそれだけで済んだそうです、パイプはほとんど黄瀬くん自身には当たってなかったみたいで…額のケガもすぐよくなるってお医者さんが……。今までは気を失ってたみたいですけど…」
「…そっか……、そうなんスね…」

そう言われてみれば、おでこがちょっと痛いような。でもまあそれだけで、他は特に痛くもかゆくもない。

「こんな軽傷ですむのは奇跡だってお医者さんが言ってました…」
「はは、確かに。てか俺が黒子っち残していなくなるわけないじゃないッスか〜!」

ケラケラ笑いながら、テツナの頭をわしゃわしゃ撫でると、テツナはくしゃり、と表情を崩して涙をボロボロ流した。

「えっ!何、どうしたんスか…!」
「っ…よかった…、本当に、黄瀬くんが無事で…っ、」
「黒子っち…、」
「…でも僕のせいで…ケガさせてしまって、本当にすみません…」
「黒子っちのせいなんかじゃないッスよ!黒子っちにケガがなくてよかったッス…」

そこで黄瀬は、ようやく気付いたことがあった。

(…あれ、黒子っちが今……泣いてるのって……、)

「…ねえ、」
「はい?」
「…黒子っちは今、何で泣いてるんスか…?」
「何でって、黄瀬くんが無事だったからに決まってるじゃないですか…!黄瀬くんが目を覚まさなかったらとか、バスケができなくなっちゃったらとか…色々考えちゃいましたけど、目が覚めたらいつもの黄瀬くんで、それが嬉しくて…泣いてるんです」

(黒子っちが、嬉しくて泣いてる―……)

「…あのね、変なこと聞いちゃうけど」
「?」
「黒子っちは、俺が元気なら嬉しいの?」
「……当たり前じゃないですか…、黄瀬くんが元気で、楽しくバスケをしてくれてたら……僕はそれだけで、嬉しいです」

眼から鱗だった。
テツナは、それだけで喜んでくれるのか。
特別なことなど何もしなくても、俺が元気でいれば、こうして泣いて喜んでくれる。

(…それに……、)

テツナが泣いて喜ぶ姿を見ても、いつものようなムラムラした気持ちやゾクゾクした感覚はなかった。

その代わりに、感じたのは。



「…これからもずっと、俺が黒子っちを守るからね」



変な作戦をたててテツナの泣き顔を見ようとするより、この先もずっと隣にいて、テツナを笑顔でいさせてあげたい。


(…何でこんな簡単なこと気付かなかったんスかね……)






どんな泣き顔より、笑ってる君のほうが、ずっとずっと、かわいかった。














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