キセリョには彼女がいた!後編 | ナノ

キセリョには、彼女がいた! 後編
黄黒♀/芸能人×一般人



『黄瀬はだんまりだね』
『さっさと謝罪しろよ』
『謝罪も何も……ただのモデルでしょ?彼女がいたからってそんな責め立てること?キセリョのことはよく知らないけど』
『アイドルでも誠実派俳優とかでもないし、大騒ぎしすぎ』
『アイドルみたいなもんだろ。ほとんど女ファンなんだから』
『騒ぎがおさまったら何事もなかったかのように浮上しそう』
『てか彼女が1番の被害者だろ、一般人でしょ?写真大公開されちゃってさ、かわいそうに』
『今回のことで別れるかな。別れるよな普通、彼氏にあんなバカなことされたら』
『うん、普通は別れる』












騒ぎから1日経ち、毎日更新されていた黄瀬のSNSがピタリと止まってしまったことから、より一層世間の指摘が厳しくなっていった。
というのも、黄瀬が所属する事務所の指示で、黄瀬は何もできずにいたのだ。
昨日、事務所から戻って来たマネージャーの笠松の話はこうだ。

「騒ぎが沈静化するまで、公に出なければならない仕事は全てキャンセルする。今一般人の目に触れても何言われるかわかんないからな。SNSも何も更新するな。ツイッターもブログもインスタグラムとかいうやつも全部−…」
「ちょちょちょっと!!」
「なんだよ」
「な…なんで!?俺、早くどっかで謝った方がいいんじゃないッスか!?」
「…こういうのは時間が経つのを待つしかねえんだよ」
「や………そうかもしれないけど、迷惑かけてすみませんでしたくらい言った方がいいに決まって」
「黄瀬」

笠松の目つきが鋭くなり、黄瀬はビクッと肩を震わせた。

「お前が謝ったら彼女の写真を間違えてアップしたことを認めることになるだろ」
「?だって、事実だし……」
「何も言わなければ"あの写真の女性は彼女でした"とお前が認めなくてすむ。あくまで世間で囁かれてる"噂"に過ぎない。あれはどう考えても彼女だろと思うだろうが………噂でおさまってるのと本人が認めたとじゃ全然違う」
「は!?何…それじゃ逃げてるだけじゃないッスか!」

これだけ大騒ぎされているのに、今まで自分を応援してくれていた人に何も言わないまま、騒ぎがおさまったら普通に振る舞えと言うのか。
そんなのずるい。周りに迷惑をかけて謝りもせずに逃げてしまうほど、黄瀬も常識がないわけではない。

「………これはお前だけの問題じゃねえんだよ。うちの事務所に所属している以上、事務所の立場も考えろ。肩書きはモデルだが、アイドル的な売り方をしていたお前に実は彼女がいましたって認めたことで、もしかしたらお前のキャラに合った仕事を頼もうとしていた企業が、今までのキセリョとイメージが違くなるなって思ったりして、今後の仕事に影響する。わかるだろ?芸能人には"イメージ"とか"キャラ作り"が大事なんだよ」
「………わかるけど、でも…!」
「私情を挟みたくはないけどよ…お前の気持ちはわかるよ。どっちかと言うと俺もお前の意見が正しいと思う。多くの人間に迷惑かけてガッカリさせたのは事実だ、謝った方がいいに決まってる。でもこれは仕事上で起きたことだ。何でもお前のしたい通りにはできない。こういう時は上の指示に従うしかねえんだ」

笠松の台詞がグサグサと黄瀬の心に刺さる。昔からわかってはいたが、この世界は当たり前のことが許されない。横の繋がりがあってこその世界。その繋がりが途絶えれば、あとはどんどん落ちていくのみ。黄瀬もそうなっていく仕事仲間を幾度となく見てきた。芸能界で生き残るには、多少のずる賢い考えを持つのは当たり前だ。
蓋を開けてみれば、華やかなイメージとはかなり異なる。そんなのはとっくにわかっていたはずなのに、いざ自分に降りかかるとつらいものがあった。

「…とにかく、もう少し様子を……」
「…黒子っち……彼女に会う時間は、もらえないッスか」
「…ああ………どっかで時間やるよ。夜とかになると思うけど」
「……ありがとうございます」

どうすれば良いのだろう。
彼女を傷付け、ファンを傷付け、周りに迷惑をかけ、これほどまで自分を情けなく思ったことはない。

(………黒子っち、大丈夫かな)

一応は信頼を置ける赤司に全てを託したものの、テツナは『黄瀬涼太の彼女』として全国的に広まってしまった。
確実にテツナのことを悪く言う人間もいる。黄瀬自身は芸能人という自覚があるしどんなに叩かれてもへこまない自信があるが、テツナはただの一般人である。理不尽な自分の誹謗中傷なんて目にしたらかなりショックなのではないか。

(……ああもう、)

自分で自分の大切な人を傷つけて、どうするんだ。



***



「本当にここで平気なのか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」

そう言って助手席のシートベルトを外したテツナは、外に出ようと車のドアに手をかける。

「仕事終わる頃にまた迎えに来るから、一人で帰ったりしないようにね」
「…というか、いくら何でも仕事の送迎までしてもらわなくても平気ですよ…赤司くんだってお仕事があるでしょう、悪いです」
「黄瀬から頼まれてるんだ。俺も心配だしね。それに黒子は危機感がなさすぎる」
「はあ…」
「まあいいから、行っておいで」

テツナは赤司に促され車から降りると、すぐそこにある職場へと足を運ぶ。

(…危機感……)

確かに、今回のネット上の大騒ぎを見て、やはり自分はすごい人と付き合っているんだなと改めて感じた。
自分の存在を憎く想う黄瀬のファンがいるのも事実。しかし、今の時点では赤司のおかげもあってか自分の身に何も起きていないため、実感はない。

(僕は自分のことより、やっぱり黄瀬くんのことが心配ですし…)

彼は一度落ち込むとどん底までいってしまうから。今回だってかなり自分を責めているだろう。黄瀬くんが心配しているほど、僕はそんなにヤワじゃないのだけれど。

とにかく早く黄瀬と顔を合わせたいというそわそわした気持ちを抑えてから、テツナは渋々仕事モードに切り替えた。



***



テツナを見送り、再び車を発車させた瞬間赤司のスマートフォンに着信が入る。赤司はスピーカーモードにしてそのまま電話に出た。

「もしもし」
『赤司か?俺だけど…テツは結局どうした?』
「青峰か。黒子は俺の親族が経営しているホテルで過ごしてて、今職場まで送ったところだ。帰りも俺が迎えに行く」
『……ああ、やっぱそこまで赤司が世話してやってんだな。ならいいんだけどよ』
「何だ?お前が電話までしてくるなんて、何か引っかかることがあるんだろ」
『………いや…俺さあ………てっきり、テツは黄瀬のファンに恨まれる形になるんだと思ってたんだけど。…色々ネット見てたら逆もあるのな』
「逆……?」
『一部の輩達がかなりテツのこと気に入っててビックリしたわ。黄瀬が見たら間違いなくブチ切れそうなやつ…URL送っておくから後で見とけよ』









【例のキセリョの彼女めっちゃ可愛くね?】


『世間的には地味とかパッとしないとか言われてるけど俺は好き』
『色白で化粧っ気ないのがいいな。チラッと見えてる鎖骨がエロい』
『黄瀬が選びそうにないタイプだけどなー、ほんと意外』
『処女っぽいのがいい』
『処女なわけねーだろ黄瀬が貫通済みだよ!』
『黄瀬って付き合ったその日に手出してそう』
『むしろ付き合う前から』
『いいなあこういう清純そうな子とヤりたい』
『黄瀬はすげーテクニシャンなんだろうなと勝手に思ってる』
『彼女、エロいことなんて何も知りませんみたいな顔してキセリョとはヤッてるのか。それはそれでたまらん』
『こういう控え目な子を彼女にしたい。今回の件で黄瀬とケンカ別れして俺のとこに嫁にきてほしい』
『華奢だし色白で貧乳そう。あー黄瀬うらやま』
『は?全然可愛くなくね』
『お前は何もわかってない。このスレから出てけ』
『この子も黄瀬を選んだのが意外だよなあ。イケメンは得だな』
『キセリョに彼女いるって噂は前から聞いたことあったけど、キセリョが死ぬほど猛アタックしてやっと付き合えたって聞いたけど』
『黄瀬しつこそうだもんな。束縛も凄そう。彼女は情が出てきたのかな』
『彼女の情報もっとないの』
『特定班はよ』
『一般人なんだからそっとしといてやれよ…』
『とりあえず黄瀬と別れるかどうかが見ものだよな』





(……ああ…なるほどね…)

車を停めてすぐに赤司は青峰から送られて来たURLをチェックした。全国の様々な人間が今回の騒動を知ってるわけだ、テツナのことを恨むどころか気に入る人間が出て来てもおかしくないかもしれない。
しかし、このネタが黄瀬の目に入るとかなり厄介だ。いや、もう見てしまっているかもしれない。テツナのことになると途端に暴走しやすいため、更なるバカな行動に出るかもしれない。

「…これは止めてあげないと」

ここまでくると俺もお人好しすぎるかな、と思いながらも、赤司はフッと笑った。




***




(……だめだ、何のやる気もでない…)

と言っても、正しくは何もやることがない、か。SNSで自分から何か発信することは禁止されているし、公の場に出なければならない仕事は全てキャンセルしているからいつもより1人の時間が多く、気付けばテツナのことばかり考えている。

(…ツイッターはどうなってんだろ……)

更新を止めている今も黄瀬へのリプライは止まらない。それは中傷もあれば応援のコメントも、色々な意見が混ざったものがズラリと並んでいた。

「…ん?」

そんな自分へのリプライを流し見していた黄瀬はあるアカウントからのリプライに目を止めた。

『彼女、人気者になってるね

そんなコメントの後に、どこかのサイトのURLがくっついており、黄瀬はそのサイトに飛んだ。
所謂、青峰が赤司に教えたテツナファンによるスレが載っているまとめサイトだ。

「……………は?」

そのまとめサイトを読み進めていくに連れて黄瀬の表情がどんどん変わっていく。
自分が大事に大事にしているテツナのことを可愛いと言っている見知らぬ人間達が、ネット上にはたんまりといたのだ。
中にはヤリたいだの、処女っぽいだの、明らかに厭らしい目線で見られているのがわかるコメントも。

「……っふざけんな…!」

彼女は、テツナは、自分だけが触れていい存在。他の誰にも渡さない、渡すわけがない。何があったって、テツナが何を言おうと手放すつもりは毛頭もない。できることならば、自分だけの傍にテツナを常に置いておきたい。他の誰の前にもさらしたくない…。

そんな、軽く狂気めいた黄瀬の本音がぐるぐると脳内を駆け巡る。
黄瀬はふらりとホテルの部屋を出て、ロビーへと向かった。
今すぐ黒子っちの元に行かなければ。世の中にはこんな危ない奴等がうじゃうじゃといる。俺が守らないと。黒子っちには俺がいないと………。

「…黄瀬!?ちょっ……何してんだ、1人で部屋から出るなってあれほど…!」

丁度外から戻り、黄瀬の部屋に向かおうとしていた笠松が、ロビーに出て来た黄瀬に慌てて駆け寄った。

「…俺、黒子っちに会いにいかないと………」
「…彼女か?わかったから落ち着け、とにかく部屋に戻れ」
「っ離せよ…離せ!!」
「いい加減にしろ黄瀬!お前がそんなんでどうすんだよ!いつまでも甘えてんじゃねえ!」
「甘えてなんか……っ!」
「甘えてんだろうが!!自分の欲求ばっかり優先させてんじゃねーぞ!」
「黄瀬………?」

笠松と黄瀬の口論の中に飛び込んできた、聞き慣れた声。
声の方に向くと、そこには。

「…赤司っち……?」

少し驚いた様子で黄瀬達を見る赤司が立っていた。
笠松は小さくため息をついてから口を開く。

「…今からお前の友人が会いに来るって伝えに行こうとしたんだよ。昨日連絡があって…それなのにお前は……、まあいい。とにかく部屋に戻ってからだ。ここじゃ目立ちすぎる」

黄瀬は笠松に乱暴に腕を引かれ、赤司もその後に続いた。



***



「黄瀬が暴走する前に来たかったんだがちょっと遅かったようだな」

気を利かせた笠松が部屋から出ると、赤司はクスクスと笑いながら黄瀬の部屋のソファに腰掛けた。

「すぐカッとなって周りが見えなくなるのは相変わらずだな。そんな状態で黒子と会うのはやめた方がいいぞ」
「…何スか、それ」
「今のテンパり気味のお前に黒子が会ったって黒子が更に不安になるだけだ」
「…………………」
「ネット上の世間の黒子への反応を見たんだろ?確かにあれはとても下世話だしお前が見たら不快に思うのもわかるよ」
「…っ、」
「でも忘れるな、こうなった原因は全てお前だ」

柔らかかった赤司の表情が固くなる。

「今のお前がまずすべきことは、…わかるよな?」
「………わかってるッス……」
「黒子はお前が思うほど弱くないしお前を簡単に見捨てたりしないと思うぞ」
「…………………」
「とりあえずお前がやらなきゃいけないことを整理してみろ。…明日、ここに黒子を連れてきてやる。笠松さんには俺から話しといてやる」

赤司は立ち上がって、ポンと黄瀬の肩を叩くと部屋を出て行った。

(………俺の、やるべきこと……)

確かに、今のままの自分が動けば更に余計な混乱を招くことになるだろう。
もっと周りを信じなければ。
もっと自分を信じなければ。
今の状況から逃げたくない、ケジメをつけたい、何を言われても自分を貫き通したい。



冷静になれ、黄瀬涼太。






***



【よく考えたらキセリョっていい彼氏なんじゃね?】

『最初はうわーと思ったけど一周回って好きになった』
『え?まだ何もアクション起こしてないんだから一周回るどころかスタート地点だろ』
『彼女が好きすぎてプライベート垢にああいう写真あげちゃったんだと思うとちょっとかわいいとこあるよな』
『どこがかわいいんだ、あんなデカイ身長で』
『一回キセリョ生で見たことあるけどまじでかい。更にイケメンだからありゃ目立つよ』
『ぶりっこ系男子とかごめんだわ』
『黄瀬って外見は本当にイケメンなんだからさあ、あのわけわからないシャララ系キャラやめた方がいいよな』
『確かに、かっこいい感じのクールな表情とかのが好み』
『あのシャララ系が女子にはウケてんだよ』
『もうこれを機にキャラ変していけばいい』
『炎上キャラでいいよもう』
『てか彼女のファンスレできててわろた』
『何だそれ書き込んだ人間は黄瀬に刺されるんじゃねえのか』
『ああ、何か彼女に手出したら怖そうだもんな』
『あー早く動きねえかなー』



***



「黄瀬くんに、これから会えるんですか…?」

黄瀬のツイッター炎上事件が起きてから4日が経ち、今日もテツナは赤司に職場まで迎えに来てもらっていた。

「ああ、俺は昨日一足先に会ったんだが…………」
「えっ、そうだったんですか?黄瀬くんどうでした?」
「…黒子に会えば一気に元気出ると思うよ。……まあ…大丈夫だろう」
「…そう…ですか」
「だからこのまま黄瀬のいるホテルに向かうよ。表から入るとマスコミがまだちらほらいるから、裏から入るけど」
「ありがとうございます…」

今も尚、黄瀬は世間からバッシングを受けているし、ワイドショーにも面白おかしく取り上げられてしまっている。黄瀬の精神状態は大丈夫なんだろうか。
いくら自業自得とはいえ、やはり自分の恋人には変わりないのだ。

「ここだよ」
「…でっかいですね……」
「都内でも有名な高級ホテルだ。黄瀬くらいのレベルならまあ普通だろう」
「はあ……」

テツナは赤司と共にロビーまで来ると、そこには笠松が待っていた。

「昨日はどうも」
「こちらこそ…、と、」
「あ…初めまして、黒子テツナです。…あの、この度は黄瀬くんが」
「黄瀬のマネージャーの笠松です。今回の件は本当に申し訳なかった。あのバカのせいで」
「えっ、いえ、こちらの台詞です…!」
「あいつには何度も説教したので………とりあえず、部屋に」
「じゃあ俺はロビーで待ってるよ」

そう言った赤司を残して、テツナは笠松と共にエレベーターに乗り込んだ。

「……………」
「……………」
「…黄瀬から告白したんだってな」
「えっ!あ、はい…」

エレベーター内の気まずい沈黙を破ったのは笠松だった。

「黄瀬に彼女がいるのは前から知ってたんだ。たまにスマホ見ながらニヤニヤしてるしロック画面があんたっぽい写真だったし」
「……何かすみません…」
「わかってるだろうが、黄瀬は一応女性ファンを意識して売り出してる。かと言ってやっぱりアイドルではないからな……プライベートの恋愛にまではうるさく言わなかった。けどまあ、いつかは起こってもおかしくないとは思ってたんだよ、こういうの……あいつ本当に考えなしの所多いからな」
「…仰るとおりです……」
「…でも、」
「……?」
「…バカだけど、めっちゃ負けず嫌いでメラメラしてんだよな。なよなよしてるかと思えばいきなり男らしくなったりして、いつも驚かされてる。クソ生意気な所もたくさんあるけど…憎めないんだよ」
「……笠松さん、」
「…だから、俺が言うのもおかしいけど……あんまり怒らないであげてくれ。アイツはアイツでかなり反省してる」
「…はい。大丈夫です、わかってます」

エレベーターを降り、黄瀬の部屋の前まで行くと、笠松はドアをノックした。

「黄瀬、黒子さんが来たぞ。……じゃあ、俺は1時間後にまた来るから」
「あっ、はい…ありがとうございます」

笠松がそう言って立ち去ると、中からはドタスタ音がした後に勢い良くドアが開いた。

「…!くろ、こっ…ち…!!」

部屋の中から出てきた黄瀬は、少しばかり痩せただろうか。髪も伸びた。でも、涙をぼろぼろと流しながらぐしゃりと泣き顔に変わった瞬間を見て、ああいつもの黄瀬くんだとテツナは思った。

「…っ会いたかった………っ…!!!!!」
「っぶ、ちょ、バカ、せめて部屋の中で…!」
「黒子っち、黒子っち、黒子っちだああああ……、うう…っ…いいにおい…」
「ああもう分かったからほら早く中入ってください!!」

でかい身体でぎゅうぎゅうと抱きしめられて、テツナはどうにか抵抗しながらも部屋の中に入った。

「…あ…黒子っち…、まずは……本当にごめんなさい…!」

黄瀬はハッとしたようにテツナから離れると、深々と頭を下げた。

「…俺の軽率な行動で……大事な大事な黒子っちにすごい迷惑かけた…本当に、ごめん…!」
「わ、わかりましたから、顔上げてください……もう怒ったりしてませんから」
「…ほんと、に…?」
「…そりゃあ、だいぶ呆れましたけど。でもこんなことくらいでじゃあ別れましょうなんて言いませんよ。黄瀬くんがバカなことは中学の時から知ってるので」
「…っ黒子っち……!」
「……よかった、いつもの黄瀬くんで…ちょっと安心しました」
「…俺も、黒子っちの顔見て安心したッス…!ネットで黒子っちのことまで色々言われてるから心配で心配で…!」
「赤司くんが徹底的にガードしてくれていたので、僕は全然何とも。…で、黄瀬くん…、これからどうするんですか?事務所からの指示を待つ感じでしょうか…?」
「……うん……本当はそうなんだけど。俺、決めたッス」

黄瀬はテツナの手を取るときゅ、と軽く握った。

「テレビで、ファンや今回迷惑をかけた人達に謝る。事務所は俺の今後のモデル人生を考えてそういうのは望んでないんだけど……俺はこのまま逃げたくない。自分で犯した過ちは、しっかり謝りたい。それで仕事が減ろうがファンが減ろうがバッシングされようが構わない。それが俺の出した答えだから」

真っ直ぐとした視線で真剣に語る黄瀬に、テツナは自然と微笑んだ。

「…そうですね。僕も……賛成です。その方が、ずっと黄瀬くんらしいです」
「……へへ、ありがとッス」

大丈夫、大丈夫だ。
今の君なら、大丈夫。

自分の意志を貫き通すと決めた黄瀬の気持ちは、テツナに真っ直ぐと届いた。




***



翌日。
笠松がいつものように黄瀬を迎えに部屋まで行くと、いつもは寝起きでぼんやりしている黄瀬が今日は準備を終えてヘアスタイルも服装もビシッと決めていた。

「あ、笠松さんおはよッス!」
「…え。なに………」
「マスコミってまだホテルの前にいるッスか?」
「…いるけど……」
「俺、これからテレビの前で謝罪してくるんで!」
「…は!?」
「ごめん笠松さん!事務所の立場とか…考えたいところだけど…大丈夫!これで俺の人気がガタ落ちしても自分でどうにか取り戻すから!仕事減っても文句言わない!俺はとにかくみんなに謝りたい!!」
「…な……、」
「自分勝手なのはわかってるッス!でも……俺、大人の都合とかよくわかんない!…バカだから!!」

黄瀬の主張に、笠松はポカンとしてから大きなため息をつく。…そして、

「…あー!わかった!!謝って来い!上はうるさいだろうけど責任は全部俺が持ってやる!その代わりヘマすんなよ!男らしく決めて来ないと承知しねえからな!!!」
「…っ……、笠松さあああん……!!!!」
「うっわ抱きつくんじゃねーよ!クソ重い!離れろバカ!!」

もうなるようになれ、俺はお前を信じる。

笠松はそう思いながら、小さく笑った。



***


黄瀬と笠松は部屋を出て、ホテルのロビーから表の出口へと向かった。
自動ドアの向こうには、まさか今黄瀬が出て来るとは思ってもいなかったであろうマスコミ達が驚いた様子で、慌てながらもあっという間に黄瀬を囲んだ。

「黄瀬さん!今回の件で一言ください!!」
「あの写真はやっぱり彼女さんなんでしょうか!?」
「どのくらいお付き合いされてるんでしょうか!!」
「…あー、っと、えっと。ごめんね、質問は後で……、まずは、今回の件で多くの方に迷惑をかけてしまって…本当に申し訳ございませんでした」

黄瀬はテツナに向けて謝った時のように、深々とお辞儀をした。その瞬間を複数のカメラがバシャバシャとシャッターを切る。

「…ツイッターにあげた写真は…皆さんが思っている通り、今お付き合いしている彼女です。プライベート用のアカウントがあったんで、そっちにあげようとして…間違えて公式にあげてしまったのが、今回の騒動の原因です」

黄瀬の口から次々と出て来る言葉にマスコミ達もざわめきだす。

「…自分には女性のファンが多いのも分かっています。多くの方をがっかりさせてしまったと思います。でも……俺は、彼女のことが大好きなんです。こればっかりは、嘘をつけません。…こんなことを言ったら、また反感を買ってしまうかもしれませんが……俺のことを悪く言うのは構いません。でも…、彼女が傷つくようなことだけは今後やめてください!俺が言えたもんじゃないッスけど!」

人気モデルによる突然の彼女大好きアピールに、マスコミのざわめきは止まらない。どの記者も、面白いことになりそうだと思ったに違いなかった。

それまで一応低姿勢に、愛想良く振る舞っていた黄瀬だったが、記者からのとある質問がいけなかった。

「ネット上の一部では、彼女さんのファンまでできたみたいですそれはどうお考えでしょうか?」
「いや俺のだから。ファンとか認めねーから。人の彼女厭らしい目で見ないでくれないッスか」
「………………」
「………………」
「………………」

ガヤガヤしていたその場が一瞬にして凍り付くほどの低い声。
その時の黄瀬の冷ややかな表情は、今まで世間が目にしていたシャララ系のさわやかモデルとは、それはそれはかけ離れていたと言う。








【[ツイッター炎上問題]腹黒黄瀬キターーーー[謝罪]】

『何か素直に謝ったからいい奴じゃんと思いきや最後の腹黒顔何あれこわい』
『やーあれかっこよかったよ』
『ぶりっこ黄瀬とゲス黄瀬か……逆にファンが増えそうだな…』
『許した』
『彼女のこと本当に大事にしてるんだな。怖いけど』
『もうこれ誰も黄瀬の彼女に手出しなんてできねえな…テレビで最後のゲス顔見たとき本気で刺されると確信した』
『あれが本性なんだろ…ゾクッとしたわ』
『もういいんじゃね謝ったんだし』
『逃げるよりマシだよな』
『ほんとほんと、てっきり謝罪はナシでそのまま突っ走るのかと思ってたよ』
『意外とまともじゃんキセリョって』
『え、あの最後のあかんかったの?何か素が出ててよかったけど』
『あれで許すのかよみんな優しいね』
『いやー逆に怒り狂ってる女ファンもいるだろ』
『でもゲスキャラが増えたことで今後仕事増えそう…炎上はしたけどいい具合に使えそうな人材じゃん』
『結局勝ち組になるな、こいつは』
『彼女許してくれたってことかな。すごい理解ある彼女なんだな』
『俺、黄瀬になら抱かれてもいい』
『ホモ…』
『いいじゃんいいじゃん、あの謝罪は色々伝わって来るものがあったよ』

『彼女とどうぞ、お幸せに。』










end.




どうでもいい補足!
全国放送のテレビでゲスな一面を見せてしまった黄瀬くんはその点だけ笠松さんに叱られますが、ギャップが面白い!と、その後の仕事は前より増えたという。笑
彼女溺愛モデルとして有名になって、何年後かに結婚した時はそういや炎上してたよなと思われつつも周りに祝福されてるといいな…笑

ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました!^^






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