キセリョには彼女がいた!前編 | ナノ

キセリョには、彼女がいた! 前編
黄黒♀/芸能人×一般人



※話の流れ的に少し黄瀬がかわいそうなこと言われています
※ちょーっとだけ赤→黒要素あります














『みんなおはよ〜♪───O(≧∇≦)O────♪今日は何の日だ!?そう!キセリョの3rdフォトブックの発売日ッスよ(*^_^*)ぜひぜひいろんな人に見てもらいたい♥♥発売イベントもやるからよろしくッス♪』

『今日のコーデ♪(v^_^)vもうすっかり冬だから、前に展示会で買ったロングコートにしてみたッス(^з^)-☆みんなも風邪には気をつけるッスよ〜>_<』

『美容院行ってきたッスo(`ω´ )o伸びっぱなしだったから結構切ってイメチェンしたッスよ(((o(*゚▽゚*)o)))』

『今日は朝から撮影ッス!眠いけどがんばるぞヾ(@⌒ー⌒@)ノあ!空き時間に最近気になってるカフェに行ってみよーかなー( *`ω´)』

『今月のam.amの表紙になったッスよー♥キセリョ特集もあるからみんなよろしくッス。+.゚ヽ(o´∀`)ノ゚.+。 』










「黄瀬のツイートがきもい」
「それを僕に言われても困るんですが」

久しぶりにキセキのメンバーが集合し、それぞれ社会人になった今の苦労話で盛り上がっていた。
ある1人の多忙な男を除いて。

「なんだこの…………女みてえな文章…ていうかフォトブックそんな出てんのかよ、まずそこから知らねえよ」
「まあでも黄瀬ちんは中学の時からずっとそんな感じだよね〜。まさか成人してもこのテンションとは思わなかったけど〜」
「全くなのだよ……まるで成長が見られないな」
「今じゃテレビで黄瀬を見かけない日はないからね。最近はあんまり会えていないんじゃないか?黒子」

ピーチミルクというアルコールが少なく可愛らしい酒をちびちびと飲んでいたテツナに、赤司が問いかけた。

「そうですね……、特に黄瀬くんは大学を卒業してから一気に仕事量が増えたので。1ヶ月半は会ってませんね。今日も1日中撮影で、この飲み会に参加できなくて寂しがっていました」
「よく我慢できてるな、あいつ。前だったら号泣しながらもう無理ッス黒子っちに会いたいッスう〜とか言ってるぞ」
「…いや、今もそんな感じです……電話とLINEで…連絡は結構マメにしてくるんです」
「空き時間はほとんど黒ちんの写真見て過ごしてそうだよね〜マジ重すぎ〜」

中学の時からモデル業をこなしていたのがどんどん延長し、大学に入ってからは授業がない時は全て仕事が入り、きっと事務所から将来を期待されているのだろうとテツナはぼんやり感じていた。
大学4年になり、テツナの就職活動が終わってようやく一息というところで、テツナは黄瀬から告白された。

『ずっとずっとずーっと好きでした!俺と付き合ってください!!』

普段は女の子達に騒がれている高身長のイケメンモデルが、顔を真っ赤にして震えた声でそんなことを言う姿にテツナはキュンとしてしまった。
それからは、黄瀬の空き時間はほとんどテツナは一緒にいた。卒業後芸能界の道に進むことに決めた黄瀬から、
「卒業したら今よりずっと忙しくなるってマネージャーに言われたから、今のうちに黒子っちとたくさん一緒にいたいッス!」
とお願いされてしまったからだ。
自分と一緒にいる時の黄瀬はとても優しく、いくら何でもやりすぎというくらい尽くしてくれた。このまま甘やかされていたら自分はダメ人間になってしまう…とテツナが思い始めた頃に、お互い大学を卒業した。
大学を卒業してからは、宣言通り一気に多忙になった黄瀬。テツナはテツナでずっとなりたかった図書館司書としての仕事にはげんでいたため、お互い自分のことだけで必死だった。
今はお互い社会人になって数ヶ月経つが、月に一度会えればいい方である。そのぶん電話での黄瀬は、いつも以上に甘えてくる。

『ねー黒子っち、ちょっと今から電話じゃなくてテレビ電話に切り替えよ?』
「…え……嫌です、まだ寝起きでボサボサですし…」
『そんなの気にしないって!黒子っちの顔見ないと俺今日の仕事頑張れないッス〜…』
「……………………」

何度も一緒に一晩過ごしたこともあり、今更寝起きを見られたくないというのもおかしな話かとは思うが、やはり好きな人の前ではなるべく身なりを整えた状態でいたい。そんなテツナの乙女心も虚しく、渋々とスマートフォンのテレビ電話に対応した。

『………!!!!』
「…なんですか」

画面の向こうには現場で用意された服を着て、ヘアメイクによってセットされた髪型の、仕事モードの黄瀬が自分の口を抑えた状態で映っていた。

『………っ……黒子っちだあ〜……本物だ…』
「……そりゃそうでしょう…………大袈裟な…」
『…は〜〜〜〜……………やっぱかわいい…』
「こんな腑抜け状態なのに、君の目を疑います」
『ガードゆるゆるな感じがかわいいんスよ〜……ふにゃーんみたいな………あー今すぐ抱きしめて舐めまわしたい……』
「気持ち悪いです」
『ひどっ!彼氏に向かってそれはないっしょ〜』

電話に出る度、相変わらずの黄瀬の反応にテツナは内心ホッとする。自分とは全く別の世界で生きている黄瀬が、いつ自分を見放してしまうのか…………そんな不安が、常にテツナの頭の片隅にあった。

「だーいじょうぶっしょ〜、黄瀬ちんは黒ちんにゾッコンだし」
「あいつツイッターで鍵付きのアカウント持ってんじゃん、俺らしか知らねえけど」
「えっ?そうなんですか…?」
「テツはSNSとかやらねえから知らなかったか。まあほとんどテツの惚気ツイートしかしてないけどな」
「え…………やめてほしいんですけど………」
「もうかなり有名になってきてるのにプライベートアカウントを持ってるのは何かと危険だと、俺からも何度も注意したんだけどね」
「そーそー、赤ちんが注意しても大丈夫ッスよ!とか言ってた〜。危機感ないよね〜」
「あいつはいつか痛い目見るのだよ」
「そのうちトラブル起こすよな」

キセキ達が次々に発する内容に、黄瀬のプライベート用アカウントのことを知らなかったテツナも少しばかり心配になった。
次に会った時に自分からも注意してみよう。

…テツナはそう思ったが、

それは少し、遅い心配だったかもしれない。



***



「黄瀬お疲れ。明日も早いし今日はもうホテル戻っていいぞ」
「はーい……」

ちょっとというよりかなり厳しめのマネージャー、笠松にそう言われた黄瀬は疲れ果てた様子で返事をした。
最近は家にも帰ってないな、と黄瀬はため息をつきながら腕時計を見ると午前2時を過ぎたところだった。

(…黒子っち寝ちゃったよね。あ、でも明日土曜日だし起きてたりするかなあ………いや、寝てるだろうな)

ようやく手に入れた、大好きな大好きな彼女。自分が芸能人として活躍をすればするほど、テツナと会う時間は削られていった。

(わかってはいたけど、きっついな〜…)

黄瀬は事務所に用意されたホテルの一室に入ると、スマホを取り出してカメラロールを開く。そこには何枚ものテツナの写真がズラリと並んでいた。

(…ほとんど一緒にいる時の盗撮だけど。黒子っちカメラ向けても嫌がるんだもんなー)

キセキのメンバーが見たら彼氏というよりストーカーだと騒がれそうな黄瀬のスマホの中身。しかしこれは黄瀬が生きるために無くてはならないと言っても過言ではない必須アイテムである。

(…はあ、黒子っち可愛い……あー会いたいなあ…、写真も最近のは少ないし……今まで普通の写真しか撮ってきてなかったけど正直もう黒子っちのハメ撮りとかほしいんスけど………なんて言ったらぶん殴られそう……………今度こっそり撮ろうかな………いやいや最低だな俺)

仕事が終わると、黄瀬の脳内はいつもテツナでいっぱいになる。日によってはテツナの写真をお供に抜くこともあり、後に罪悪感でいっぱいになる、というのを繰り返していた。

(…これとか、めっちゃ可愛いんスよね〜……超お気に入り)

それはテツナが黄瀬のマンションに来た時に、体育座りで文庫本を読んでいる写真だった。なんてことない写真だが、こじんまりとしたポーズで真剣に本を読んでる姿が可愛らしくてお気に入りの1枚であった。

「…あ、寝る前にツイッター更新しないと……」

というのは、モデルとして使用している公式ツイッターの方。今日マネージャーに撮ってもらった撮影風景を添付して、短いツイートを書いた。

『ようやく撮影おわりー!明日も早いし、これからお風呂入って寝るッス!V(^_^)V写真は今日の撮影風景★んじゃ、みんなおやすみ〜(=゚ω゚)ノ』

夜中にも関わらずツイートしてすぐにお気に入りやリツイート、おやすみなどの返信で通知欄が一気に埋まる。これがいつもの光景だ。ちなみにフォロワーは8割が女子である。
そんな内容のツイートをしておいて、黄瀬は風呂には向かわず再びカメラロールを見つめていた。

(…あ。この可愛い黒子っち、プライベートの方に載せよ)

先程の、体育座りをしたテツナの写真。プライベート用のアカウントはキセキのメンバーしか知らないため、たまにテツナの惚気や写真を載せたくなる。理由としては自己満足とキセキへの軽い自慢のためとしか言いようがない。

『あーもうめっちゃかわいい。すき』

という本音丸出しの文章と共に写真を添付してツイートし、スマホをテーブルに置くと、セミダブルのベッドへダイブした。

(…あー眠い。風呂は朝でいっかなー……)

ぼんやりとそんなことを考えているうちに、黄瀬は充電が切れたように寝息を立てた。

いつも以上の勢いでくるツイッターの通知には、全く気付かずに。



***



「………せ、黄瀬、」
「…ん〜……?」

遠くから聞こえる聞き慣れた声。自分を呼んでいる気がしたが、ハッキリと聞き取れない。

「黄瀬!!!!おい、起きろ!!」
「っわ!!!!」

肩を大きく揺らされたせいでさすがに目が覚めた黄瀬。目の前には、見るからに大激怒している笠松が息を切らして自分の顔を覗き込んでいた。

「お前……っ…なんであんなツイートしたんだよ!?今すぐ消せ!!」
「はっ?なに?意味わかんねーんスけど…」
「2時すぎにツイートしたやつ!女の子の写真添付されてあるやつだよ!」
「俺最後にツイートしたやつは今日の撮影風景の写真のやつッスけど!?」
「それのすぐ後のツイート!!これ!!!!!」

ずいっと差し出されたスマホの画面には、先程プライベート用アカウントに載せたはずのテツナの写真付きのツイートが。

「………え、何で笠松さんがこのツイート…!?えっ!?」
「何でってお前の公式アカウントにツイートされてたんだよ!!いいから消せ、早く!!」

確かに、公式のアカウントでツイートした後すぐにプライベートのアカウントでもツイートをしたが。

「…あれ、俺、アカウント変えないままツイートしちゃった感じッスか…?」
「あーいいから貸せっ!」

あたふたする黄瀬に痺れを切らした笠松は黄瀬からスマホを奪うと問題のツイートを即効削除した。

「…夜中とはいえもうかなりリツイートされてるからだいぶ広まってるし、スクショ撮られてるだろうから今更消したって遅いんだけどな…」
「……っ…すみ、ません…」
「芸能人がプライベートアカウントを持ってるくらい珍しいことじゃねえけどよ…、正直お前はただのメンズモデルの域じゃないのがきつい。女性ファンが圧倒的に多いんだし、今1番売り出し時期だからな…かなり話題になっちまうぞこれ」
「っ…………」
「とにかく、今日朝イチで入ってた雑誌インタビューは延期させてもらう。お前は俺が指示するまでここから一歩も出るな、しばらくはどこ行ってもマスコミが引っ付いてくるからな。あとSNS系は全部更新するなよ、今お前が何言ったって火に油だ。あとプライベートアカウントも消せ。とにかく騒ぎが鎮まるまでは何もするな、わかったな?」
「………わかったッス…、」
「俺はちょっと今から事務所行って上と話して来るから…昼には戻る」

笠松は早口でそう言うと慌ただしくホテルを後にした。
やらかしてしまった、という言葉が黄瀬の頭をぐるぐる回る。ツイッターの自分宛のリプライはいつも以上の勢いで次々と増えていった。

『これ誰!?黄瀬くん彼女いたの!?』
『えっ!間違えてツイートしたの??どういうこと?』
『すごいショックです。騙された気分…』
『キセリョってこういう子が好みなんだ。意外』
『黄瀬くんひどい。信じてたのに!』
『キセリョってやっぱ彼女いたんだね。そりゃまあいるよね』
『私は何があっても涼太くんの味方だよ!』
『すごい広まっちゃってるね。黄瀬くん大丈夫?』

否定的なものもあれば肯定的なものもあり、黄瀬は途中でツイッターを見るのをやめた。どう考えても自分のせいだ。何を言われても仕方が無い。

「……黒子っちに、謝らないと…」

自分だけの問題ならまだしも、テツナにまで迷惑がかかってしまった今回の事件。黄瀬のようなフォロワーが何万人といるアカウントは、影響力がかなり高く多くの人間が目にすることになる。片やテツナは一般人であるというのに、黄瀬のツイッターによって全国に自身の顔写真をばらまかれてしまったわけである。

(…怒る、よな……むしろ振られてもおかしくない………)

そう考えると背筋がゾッとした。黄瀬にとってテツナがいない人生なんて考えられない。長い間片想いをして、大人になってようやく手に入れることができた大事な大事な存在。

(………怖い…、)

テツナに何て言われるのか。謝りたいけど、嫌われるのが怖くて顔を合わせることができない。自分のしたことが情けなくて、申し訳なくて、合わす顔がない。
黄瀬はテツナに電話しようとした手を止め、ベッドに顔を埋めることしかできなかった。



***



『黄瀬がやらかしたね』
『昨日話してたのがそのまんま実現してんじゃねーか。ほんとアイツバカだな』
『ヤッホーニュースのトップに載ってしまっているのだよ…』
『掲示板でめっちゃ叩かれてるね〜あーあ、どうするんだろ。黒ちんいい迷惑だね〜』
『あの…黄瀬くんに何かあったんですか?』

休日のため、家でゆっくりしていたテツナがスマホをのぞくと、キセキのグループのLINEが次々とメンバーのトークで埋まっていた。

『黒ちん知らないの〜?まあネット見ないもんねえ。黒ちん一晩で有名人になっちゃったよ』
『テツ、とりあえず早くアイツと別れろ』
『念のため今日は家から出ない方がいいのだよ』
『黒子のことも心配だし俺から直接説明しよう。今から迎えに行くけどいいかい?』
『わ〜赤ちん略奪愛ってやつ〜?』
『まあそれもアリだね』

キセキ達が何を言ってるのかさっぱり分からないテツナだったが、黄瀬が何かしでかしたということだけはわかった。急遽赤司が迎えに来るということで、急いで出掛ける準備をしてアパートの下まで早足で出るとそこには既に高級車に乗った赤司の車が。

「赤司くん…早いですね」
「LINE送る前からこうするつもりだったからね。ほら乗って、とりあえず…そのへんを走るか」

普段じゃ乗ることではないであろう車に、テツナが遠慮がちに助手席に乗ると赤司は車を発車させた。

「…あの、それで黄瀬くんは一体何を?」
「簡単に言うと、公式ツイッターでテツナの写真を大公開したよ」
「…はい?」
「プライベート用のアカウントと間違えたんだろう。写真付きで公式の方にこういうツイートが…」

運転中の赤司が片手でipadをテツナに差し出すと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「こ、これを間違えてツイートしちゃったんですか…?」
「そう。もう消されているけど、ツイートしてから2時間後にようやく消えたからそれまでは気付かなかったんだろう。その間に随分広まってしまって、今ではヤッホーニュースのトップだ。今の所は黄瀬は何もアクションを起こしていない。事務所から止められてるんだろうね」

自分の写真と、いつも自分に言って来るような内容のツイートにテツナはため息を漏らした。間違えて公式の方にあげてしまったのはもちろん、プライベートの方にこれをあげようとしたこと自体に呆れていた。

「シャララ系とかいうよく分からないポジションで売り出していたけど、やっぱ軽くアイドルに近い存在になってしまってたからね。ファンのみんな大好き!的なキャラだし、今回のことで失望したファンもいればそんなの関係無いと言ってくれるファンもいるようだ。まとめサイトには色々書かれていたけど」
「まとめサイト………?」
「見るかい?彼氏の悪口もテツナのことまで書かれているけど」
「芸能人なんですからそういう意見もあって当たり前ですし、今回のことは黄瀬くんの自業自得ですから。大丈夫です」
「ははっ、強い恋人で何よりだな。これだよ」

信号待ちの際に赤司がipadを操作してテツナに渡す。画面には『【悲報】キセリョ、彼女発覚!』とでかでかと書かれていた。

『あーあ』
『黄瀬の女オタ涙目』
『黄瀬ざまあ』
『いや彼女くらいいるだろ、あんなイケメンなんだし。そんな騒ぐことかよ』
『彼女結構地味というか普通なんだね。ギャル系とか派手なのが好きそうなのに、そこが意外』
『キセリョとか嫌いだったからウケる。これでファンは離れていくわな』
『裏アカがあるってことだよなあ。私生活は彼女にぞっこんなのがよくわかった』
『黄瀬この調子で消えろ』
『好きだったのに、何かショックだわ』
『彼女素朴でかわいい』
『え、意外に真面目そうな子と付き合ってるみたいだから逆に好感度上がったんだけど』
『彼女おとなしそうな子だねー』

今回の件で様々な意見が遠慮なく書き込まれているのを見たテツナは、驚いた様子で口を開いた。

「だいぶ……広まってしまってるんですね」
「そりゃあ今はインターネットで何でもすぐ拡散されてしまうからね。黄瀬とは連絡とれたのか?」
「いえ……まだ何も、黄瀬くんからも特には」
「まあ今はバタバタしてるだろうしね。というか…黒子に合わす顔がないと思って、黒子に連絡もよこさないのかもね」
「…有り得ますね、黄瀬くんなら」
「ちょっと俺から連絡してみようか」
「…お願いします」

車を道の端に止めた赤司はスマホを取り出して黄瀬に電話をかけた。

全く何をしているんだろうか、あの人は。とはいえ、黄瀬と付き合う以上こういうトラブルはいつか起こるような気がしていた。彼はたまに周りが見えなくなるというか突っ走るというか、とにかくヘマをしやすい。
今回のことだって、恐らくしばらくゆっくり自分に会えてない寂しさからきたものなのだろう……と思うと、やらかしてもおかしくはないなとテツナは思う。彼氏に対してそう思ってしまうのもどうかとは思うが、相手はあの黄瀬である。

「…あ、もしもし?黄瀬、派手にやらかしたな。まさかその声泣いてるのか?ほんとに泣き虫だなお前は。……え?黒子?黒子なら俺の隣で寝てるけど」
「ちょちょちょっと適当なこと言わないでください」

テツナは赤司の悪ふざけを遮ってスマホを取り上げる。

「もしもし黄瀬く…」
『黒子っち!?!?赤司っちに何されたんスか!?』
「何言ってるんですか…赤司くんのいつもの冗談です」
『あ………なんだ、よかった…………』
「…それより黄瀬くん、」
『っ!あ、あの……黒子っち…!今回のこと、本当にごめんなさい…!俺、うっかりあんな…っ』
「落ち着いてください、大丈夫です分かってますから」
『…怒ってる、よね?』
「……まあ怒ってないって言ったら嘘になりますが…芸能人ならこういうこともあるでしょう。起こってしまったことは仕方ないです」
『…うう、黒子っちどこまでかっこいいんスか……』
「まあ詳しいことは会ってからです。黄瀬くん今どこにいるんですか?」
『…笠松さん…マネージャーが、事務所の上の人と色々相談中で、それまではホテルで待機で……今は身動きできなくて』
「そう、ですか…しばらくは会えなそうですね……」
『まだわかんないけど……笠松さんが戻ってきたら黒子っちと会える時間もらえるか聞いてみるッス!』
「わかりました。じゃあ連絡待ってます」
『あ!ごめん、もう1回赤司っちに変わって!』
「?はい……」

黄瀬に言われた通り、テツナは赤司にスマホを手渡した。

「もしもし?僕だ」
『………赤司っちに黒子っちのこと任せていいッスか?』
「…もちろん」
『あ、一時的にッスよ!?この騒動が収まるまでの話ッスよ!?』
「はは、わかってるよ」
『…ファンの人を疑いたくはないけど、俺のファンの中で黒子っちを良く思わない人もいるかもしれないから……俺、黒子っちに何かあったら…っ!』
「そんなの言われなくてもそうするつもりだったよ。有り得ない話じゃないからね。そっちはかなりバタバタしてるんだろう、こっちのことは任せてくれ」
『…うん、ごめん。頼んだッス……』

黄瀬が弱々しい声でそう言ったのを聞いてから通話を切った赤司は、隣に座っているテツナの方を振り向く。

「黄瀬くんなんて言ってたんですか?」
「………とりあえず。黒子はしばらく俺が匿うよ」
「…え、」
「今黒子を1人にするのは危険だから、」
「…僕が、ですか?」
「黄瀬の熱狂的なファンが黒子を恨んで黒子を探し出して何かするかもしれない。大袈裟でもそのくらい警戒しといた方がいいかもね。黄瀬の人気っぷりは最近本当に凄いから」
「…………………」

今回の件で自分の身が危ないかもしれないなんて、テツナは思いもしなかった。
黄瀬ほど女性ファンが多ければ中には盲目的な人もちょっと変わった人もいるだろう。その人の怒りがテツナに向かないとは言い切れない。

「俺の親族が経営してるホテルの部屋を貸すから、そこなら防犯もかなりしっかりしているから。今からそこに向かうよ」
「……なんだか、すみません…何から何まで…」
「そんな改まる中じゃないだろ、今更。気にする必要ないよ」

赤司は軽く笑うと再び車を発進させた。



先程より不安な表情をしたテツナには、気付かないまま。









to be continued.








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