赤司様の彼氏って。 | ナノ

赤司様の彼氏って。
虹赤♀/社会人×大学生/モブ視点



『うちの大学に、漫画に出てきそうなお嬢様がいるらしい』

なんて初めて耳にしたのは授業中だった。
必死こいて勉強して合格した難関大学に入学して1ヶ月。友達もできて、大学生活にも慣れ始めてきた1番楽しい時だ。

「お嬢様なあ…まあそりゃ結構いるだろうな、うちの大学なら」
「いやいやそれがただのお嬢様じゃねえんだって!名家の1人娘で、顔も可愛いし小柄で細くて、身振りそぶりもほんとお嬢様〜って感じでさ!」
「名家?そりゃ確かにすげーな」
「その名も!赤司様!!」
「…赤司様?」

うちの大学は、有名かつ難関ということもあり家が金持ちの奴はわさわさいる。もちろん俺のように普通の家庭の奴もいるが。
そのためお嬢様が在学してることくらい何も珍しくないが、その友達が言うにはもうレベルが違うらしい。

「とにかく可愛いんだって、お前も見ればすぐにわかるぜ、"赤司様"」
「へー、そんなに可愛いなら見てみてぇけど」
「今度新歓あんじゃん、それに赤司様を呼ぼうって密かに作戦たててる下心見え見えの男子共が既にいるらしいぞ」
「マジで?いやでも誘っても来ねえだろ、お嬢様がそのへんの居酒屋とか…」
「だよなー。でも来てくれたらなあ、なんて考えちゃうよな〜…」

赤司様が来たところでお前と仲良くしてくれるかはわかんねえぞと一蹴すると、友達はまあなと苦笑した。

「名家の1人娘なんてさあ、別世界だろ。地方から上京してバイトと仕送りでなんとか1人暮らししてる俺らとは違うって」
「わーかってるって。ちょっと夢見ただけだろ〜」

(…つーか、そんなにすごいのか?"赤司様"って……)

その時はまだ好奇心でしかなかったし、"下心"………なんてのは、少なくとも俺にはなかった。

…ないはずだったのだ。



***



「……やべ、もうこんな時間かよ…」

朝から夕方まで続いた講義が終わって、キャンパスの入口にあるベンチでちょっと昼寝していたつもりが、ふと目が覚めると20時を回っており、外は真っ暗になっていた。
夜間授業の生徒がいるのもあり、まだキャンパス内は電気もついてはいるものの人気はない。
さっさと帰ろうと立ち上がろうとするとすぐ隣のベンチでカバンを抱えてちょこんと座っている女性がおり、自分1人だと思っていた俺は驚いてつい変な声を出してしまった。
その女性も俺の声をびっくりしたようにこちらを見たが、俺はそこですぐにピンときた。

(…………この人、絶対…赤司様、だ…!)

特徴的な赤い髪はサラサラとしており、胸下までのロングヘア。全体的に小さくて細っこくて、とにかく………可愛い。美人。滲み出るお嬢様オーラは、隠したくても隠せないであろう。
名乗られていないのに、わかってしまった。…こんなことってあるのか。

「…あ、えっと…」

俺が変な声を出したせいで、気まずい空気が流れる。
しかし赤司様は、にこ、と聖母様のような微笑みを俺に返してくれた。やばい本物の天使だ。
1人で感動していると、赤司様は突然バッと自分の口元を手で覆った。が、少し顔を歪めたがすぐに手を離し、カバンから取り出した可愛らしい薄ピンクのハンカチを改めて口元に当てた。
よく見ると顔色が悪いし、涼しいのに少し汗をかいている。どこか具合が悪いようだ。

「…あの、平気…?体調悪いの?」
「あ……ちょっと、気持ち悪くて……。でも、大丈夫です」

透き通った声にも聞き惚れていると、へにゃ、と赤司様が笑う。
相当つらそうだが、無理に笑う赤司様に何だかキュンとしてしまった。

「早く家帰った方がいいんじゃない?よかったら駅まで付き添うよ」
「…あ、……えっと、迎えが来るから」
「そっか…なら、いいんだけど」
「ありがとうございます、優しいんですね」

赤司様の一言一言に何だかキュンキュンが止まらない。何だろう、この品のある口調は。こりゃ"赤司様"だわ。変な輩もわき出てくるわけだわ。
…てか、迎えって。やはりあれなんだろうか。すんごい高級車でじいやみたいなのが迎えに来るんだろうか。そんな光景ならちょっと見てみたい気もすー…
「赤司!!」

キャンパスの入口に息を切らして入ってきたのは、じいやなんかではなく。

「…あ、虹村さ……」
「お前大丈夫か…!?だから言っただろ今日は休めって!」
「すみません…、こんなひどくなるとは思わなくて」
「…ったくマジよかったわ、俺今日残業なくて……」

あの赤司様にズカズカ近付いて、あの赤司様の額に手を当て、あの赤司様に強めの口調で喋る、スーツを着た黒髪の長身サラリーマン。
自身が着ていた背広を脱いで赤司様に羽織らせると、車まで歩けるか?と問いかけ、赤司様の体を支えながら彼女を立たせる。
その一連の流れを唖然としながら見ていた俺に赤司様が、

「…あ、心配してくれて、ありがとうございました」

と、わざわざ言ってくれた。俺は「あっはい」としか言えず、特に良いことも言えなかった。せめてお大事にとか言えばよかった。
リーマン男も俺を見て軽く会釈してくれたが、明らかに誰だお前という顔をしていた。

(…えっと?今のはボディガードかなにか?)

でも喋りが馴れ馴れしい感じだったから違うか…………?兄貴とか?いやそしたら名字呼びはないだろう。

(…まさか、彼氏?)

…………いやいやいや。なんか、なんか違うな。イメージ?みたいなのが。赤司様に彼氏がいるなら、もっとこう…ザエリート!みたいな…や、さっきのリーマン男もイケメンだったけど、赤司様の彼氏となるとびっくりというかなんというか…。

(…まあ、さすが赤司様、謎が多い……ということにでもしておくか…)

なんて勝手に自己解決して、俺もようやく立ち上がり、狭いアパートへ帰ることにした。



***



あのちょっとした赤司様事件については、俺は誰にも話さなかった。
そりゃ喋りたいのは喋りたいが、何と無く、自分だけの思い出にしておこう…と思ったのだ。

「おい!大ニュース!!赤司様、今日の新歓に来てくれるらしいぞ!」

教室に飛び込んで来た友達がそう叫び、俺は飲んでいた烏龍茶を吹き出しかけた。

「…え?マジで言ってんの?」
「マジマジ!!最初は断られてたらしいんだけど何かさっきいきなりオーケー出たらしい!」

赤司様が新歓に来る???何故、何で、どうして。というか居酒屋にいる赤司様をあんまり想像できないんだが。

(……でも、赤司様に会える………)

…って言っても、彼女は俺のことなんて覚えてないかもしれないが。あの時なんて体調悪くて特に記憶危ういだろうな。

(…………まあ、あっちが俺を覚えてなくても赤司様がいれば目の保養になるし………)








「あ!君は、あの時の…………!」

19時。居酒屋の宴会会場で新歓がスタートし、赤司様は俺を見るなり隣に座ってきた。周りがざわついた。それはもうざわついた。俺の心もざわついた。
なんだ、何が起こってる?赤司様が俺のこと覚えてた?てか隣?隣に座ってる?え?めっちゃいい匂いすんだけど?え?なに?は?????

「こないだはありがとうございました。わざわざ声かけて頂いて……」
「えっ、あっ、いや、はい」
「お陰様で次の日には体調もすっかり良くなりました。私、季節の変わり目に体調崩しやすくて」
「あ、それはそれは、よかった…です」
「えっと、お名前は?」
「あ、山田です……」
「山田さんですね。私まだお酒は飲めない年齢なので、今日はノンアルコールカクテルでも飲もうと思うんですが…………あ、山田さんは何飲みますか?」

何だこの流れは。何だこのすばらしい流れは。隣に天使がいる。こんな広くて大人数の飲み会なのに、わざわざ俺の隣に来てくれている。え、俺のこと好きなのかな?脈アリなのかな?マジで?…あー、後日友達に質問攻めされるだろうな。
ていうか、やっぱりまだ酒飲んだことないんだな。まあ、赤司様だし…当たり前だよなあ。

俺は完全に浮かれた状態で、赤司様と話せることに喜びを感じていた。そりゃあもう、優越感みたいなものがあった。
…しかし、俺が赤司様の変化に気付いたのはそう遅くなかった。

「へえ〜じゃあ、山田さんは福岡から1人で上京してきたんれすねえ〜!すごいです、えらいです!」
「…あれ?えっと…赤司様…じゃなくて赤司さん?酔ってる…?」
「酔ってるわけないです!だって、これノンアルコールカクテル…」
「いやこれめっちゃアルコール入りのカクテルじゃん!カシスオレンジ!?メニュー見間違えて頼んでたんじゃ…赤司さん、これ何杯目!?」
「えっと〜〜〜〜5杯目です!すごいおいしくて、つい!」

カシオレ5杯でべろべろに酔うこともないだろうが、初めて飲んだこともあり恐らく酒はあまり強くないのだろう。赤司様は明らかにぼーっとしてきている。

「あ、もう22時半…?…あ…怒られちゃいますねえー…」
「怒られる?門限あるの?」

赤司様が辿々しい口調でそんなことを言う。まあ別に赤司様なら門限があっても驚かないけど。

「ん、…門限というか………」
「…まあいいや、赤司さんが帰るなら俺も帰ろうかな」

…正直言うと、この時点で下心がムクムクとわいてきていた。男はバカだ。バカで単純だ。
今の赤司様の酔い方ならいける。ちょっと押せば、平気だろう。

「本当ですか?ありがとうございます」

赤司様は俺を疑うどころか、へらっと笑って、よろけながらも俺の後をついて居酒屋を出た。
他の生徒は生徒で盛り上がっていて、誰も突っこんでくる人間はいなかった。

(…さてと)

このへんにホテルなかったっけ?あ、確かもうちょい奥がホテル街だったか。

「…赤司さん、ちょっと休憩してから帰らない?」
「……きゅうけい?」
「そ、ちょっと酔い冷ましてから帰ろうよ」
「…そ、ですね……」

こくり、と素直に頷く赤司様を見て俺は内心ガッツポーズ。俺が言うのもあれだがちょっと世間知らずすぎというか危なっかしいというか、こんなあっさりついてきちゃって大丈夫なんだろうか。
フラフラしている赤司様の腰を引き寄せて、思い切り体を寄せた。やばいほっそい。でも柔らかい。胸はそこまでなさそうだが、そんなのなくてもいける。関係ない。

(…ま、ホテルに入っちゃえばこっちのもんだしな)

俺がすっかり調子に乗り、かなり強気でいた。あの赤司様をお持ち帰りできる、と。あの赤司様を誑かせた、と。
処女かな、処女だろうなあ。なんてったってお嬢様だから。ああ、楽しみ。

「赤司さん、こっちだよ」
「ん……、」

ホテル街の方を指さすと、赤司様は頷きつつもごそごそとカバンからスマートフォンを取り出した。

「…連絡だけ、しておきまひゅ」
「へ?連絡?誰に?」
「虹村さん、に……休憩したら、帰りますって、」
「にじむらさん???」

”にじむらさん”。
…確か。確か、以前赤司様を迎えに来たリーマン男、赤司様に虹村さんって呼ばれてたような……。

「…え、ちょっと待って、虹村さんって、」
「おいてめえ!!!!!」

虹村さんって誰なのと言おうとした途端、背後から誰かに思い切り肩を掴まれて赤司様と引き離された。そして物凄い力で胸ぐらを掴まれる。
ちょっと待って足浮いてる、俺の足浮いちゃってる。

「っ…!!?ぅ、」
「てんめえ誰の許可得て赤司にベッタベタ汚ねえ手で触ってんだよ!!ああ!?」
「っひ!す、すみませ、ちょ、ま、首しまる、」
「おい今どこ行こうとしてた?え?こっち側はホテル街だよな?なあ赤司に何しようとしたんだよ?あ?」

俺の胸ぐら掴んでヤンキーみたいな形相で罵倒してくるのは、間違いなく前に赤司様を迎えに来たリーマン男だった。
なになにめっちゃ怖い、ちびる。ていうか死ぬ、このままじゃやばい。

「ちょっと虹村さんやめてください、山田さんを離してください!彼は僕を休憩させようとしてくれただけです!」
「バッカお前男が言う休憩なんて厭らしいことに決まってんだろうがァ!アホか!!」

虹村という男は盛大な舌打ちをすると乱暴に俺から手を離した。俺はその瞬間ゲホゲホと咳き込んで地面に倒れた。マジで死ぬ所だった。

「……今日は1億万歩譲って許してやるけどよ、今後赤司に手ェ出したらどうなるかわかってるよな?」
「は、はい、わかります…!!」
「大学にいる赤司狙いのバカ共にもよーーーーーーく伝えておけ、赤司に手出したらどうなるかっつーのを」
「はい、はい、伝えておきます。喜んで伝えさせて頂きます」

何だコレすげえ格好悪いんだけど。でも無理、この虹村って人怖すぎ。赤司に関して熱血すぎる。俺まだ死にたくないし、こうするしかないだろ。
虹村という男はもう一度舌打ちをすると、赤司を連れて夜の街を去って行った。赤司様はこれまたご丁寧に俺にお辞儀をしていた。酔ってるのもあるだろうが、仮にも襲われそうになった相手だというのに。本当にこういうことに疎いんだな…。

(……てか、やっぱ、あの人彼氏だったんか………)

ああ、あと少しだったのに。一体どうやってあの赤司様を落としたんだろう。意外だ、あんなガサツな感じの男と付き合うなんて。まあ確かにかなりイケメンだけどさあ。ちくしょう虹村め。心底羨ましい。
よく考えたら、赤司様が俺の隣に座って来たのは顔見知りが俺しかいなかったからとか?あんだけ高嶺の花扱いされてれば、誰も容易に近寄らないだろうから有り得るな。何だそういうことか。
何が脈アリかも、だよ。社会人の彼氏いんのかよ。じゃあ処女じゃねえじゃん。あのリーマン男が赤司様の処女もらったのか。ちくしょう。ちくしょうったらちくしょう。


「………俺、失恋すんの早すぎ…」





***



朝からつまらないことで喧嘩をした。
そしたら、赤司が前から誘われていた新歓に行ってくるから帰り遅くなります!とぷりぷりしながら言ってきたため、それだけは絶対に絶対に行くなと釘をさした。だというのにそれを無視して行きやがって。念のため半ば強制的に新歓の会場を聞いておいて本当によかった。
そして今日に限って俺は残業で、22時頃アパートに帰っても赤司がいなかったので青ざめた。
頭はいいのにこういった常識がないのだから、ぜっっっっっったいに盛ってる大学生のクソガキに食われると思い、必死で新歓の会場の近くまでやってきた。
そしたら案の定、チャラそうな大学生に連れられてホテル街に向かっているの赤司が見えたのだ。しかも相手の男は、多分前に体調悪かった赤司を大学まで迎えに行った時に隣にいた野郎だった。あの時から赤司を狙ってたんだな…クソが。

…当の本人は今、車の助手席ですやすやと熟睡しているが。
エンジンをかける前に、俺は熟睡中の赤司の髪を撫でてから額に口付けた。

「……お前、酔いが冷めたら覚悟しろよ。……………お 仕 置 き、だからな」

夢の中で聞こえていないだろう赤司は、ちょっと嬉しそうに「にじむらひゃん…」とむにゃむにゃ呟いた。

「…ったく、お前と付き合うのも一苦労だよ」





それでも、ずっと、永遠に、手放す気はないけれど。








end.



!!!!!!!補足!!!!!!!

虹村→27歳くらい、会社員。
赤司→18歳、大学1年生。
虹村先輩、血の気が多いとのことで赤司のことになるとこうしてぶち切れちゃうとかいいなって……^^
虹村先輩は赤司の高校卒業と同時に赤司パピーに何十回も説得しに行ってようやく結婚前提のお付き合いと同棲の許可を得ていた…とかだと私が喜びます
最初は赤司パピーが持ってる高層マンションの一室に住めば良いって赤司から提案されたんだけど「いや、気持ちは嬉しいけど俺の力で赤司をしっかり養えるっていうのを親父さんに伝えるためにも俺の稼ぎで借りれるところを探す。俺が責任持って赤司を守る」とか言ってればいいんだよ^^
包容力ううぅぅぅぅぅぅぅぅううう!!!!!!!!!!!!
という妄想でした…お付き合いくださり有難うございました!






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