お前以外どうでもいいってこと 番外編 | ナノ

お前以外どうでもいいってこと 番外編
青黒♀/宅配ドライバー×本屋店員




「よくうちの店に集荷に来る青峰さんってかっこいいよねえ」

バイトの休憩中、休憩室でテツナがパックジュースを啜っていると近くに座っていた女性スタッフ2人がそんなことを言うので、テツナはついむせた。

「やっぱり思う!?私もかっこいいなって思ってた〜」
「最初は背大きいし黒いし目付き悪いから怖いなーって思ってたけど、すごい顔整ってるよね!」
「態度も淡々としてるけど、重い荷物は店の裏まで自ら取りに来てくれるし意外に優しいし〜」
「こないだの日曜日なんて、店が混雑しててスタッフも全員接客中の時にたまたま青峰さんが集荷来ちゃってさ。他のドライバーだったら空気読まずにとにかく集荷あるならよこせオーラ出して店の目の前で立ってこっち見てんだけど、青峰さんは違うの〜!今スタッフ誰も対応できないって察して他の店先に行って、うちの店はすいてきてから改めて来てくれて〜!!」
「あーいいね、めっちゃ空気読めてる!その簡単なことができないドライバーが多いんだよねえ。まあ集荷さっさと終わらせたいしまた後で来るのが面倒なのはわかるけど、あのでかい台車押して店の前にいられても正直邪魔なんだよね〜…そこは店の状況も理解して臨機応変にしてほしいし」
「かっこいいドライバーは他にもいるけど、そういうのできるドライバーって青峰さんくらい?あ、火神さんも好きだな〜私!」
「あー火神さんもかっこいいよねえ!彼女っているのかな?」
「青峰さんはいるらしいよ!しかもこのショッピングモール内の店舗スタッフらしいの。どこのお店の人か知らないけど」
「うっそ!?やっぱアパレルとかの可愛い人だろうな。いいなあ〜」

残念ながら青峰くんの彼女はこんなに地味な本屋店員です、ごめんなさい……とテツナは心の内で呟き、空になったパックジュースを潰してゴミ箱に入れた。
こうやってテツナがバイトの合間に休憩している時、他の店舗スタッフが青峰の話題を出しているのは珍しくない。あの長身じゃとにかく目立つし、初めて見た人にも印象に残りやすいだろう。最初こそ「何かめっちゃでかいドライバーの人いるよね」としか言ってなかったスタッフが、時が経つと今の彼女達のようにかっこいいと騒ぎ始めることが多い。
青峰のさりげなさすぎる気遣いみたいなものが女性店員のドツボらしく、じわじわと青峰ファンが増えていくことをテツナは密かに複雑に思っていた。

テツナが店に戻ろうと1人でエレベーターを待っていると背後に気配を感じ、嫌な予感が過ったが気付いた時にはもう遅かった。

「カンチョー」
「………………」

さすがに軽くではあるが、その背後に立った人間が指をテツナの尻に当てて来た。既に犯人がわかっていたテツナはものすごい形相で振り返り、というより見上げた。

「顔めっちゃ怖えーぞテツ」
「…誰のせいですか」
「火神」
「何でそこで火神くんなんですか。カンチョーなんて小学生みたいなことする人は君しかいませんから」
「いやーテツのケツ小さくて可愛いなって思グホッ」

仮にも他のスタッフが近くにいるかもしれないここで青峰がとんでもないことを口走ったため、テツナは青峰の腹部に肘鉄をお見舞いした。

「ここでそういうこと言うのやめてくださいって何回言えばわかるんですか?」
「仕方ねえだろ、最近テツと全然ヤれてないん」
「何か言いました??????」
「何でもありません」
「女性スタッフの皆さんがかっこいいと騒いでいる青峰大輝はこんなにも変態でスケベだということを館内放送してあげたいですねえ」
「本当にすみませんでした」
「青峰くん」
「はい…」
「これから2週間、こうやって仕事中に僕と遭遇しても話しかけたりしないで赤の他人でいてください」
「はっ???」

青峰に、バイト中にちょっかい出さないでほしいと心の底から思ったことなどない。
正直言うと、他の女性からの青峰の人気ぶりにテツナは嫉妬をしていた。つまりこれは、ちょっとした意地悪である。

「君は仕事中にふざけすぎだと思います。ちょっと頭冷やしてください」
「…だからって何でそうなるんだよ、」
「2週間だけ、です。じゃあ」

我ながら可愛くない女だとテツナはため息をついて、エレベーターを待たずに階段をかけ降りた。
青峰の人気に嫉妬しているのに、あえて青峰を突き放すような対応をしてしまっているのはテツナが拗ねている証拠だ。
どうせ僕なんて、という自虐的な考えから生まれてしまった提案。

それから数日間はテツナのバイトの時間帯と青峰が遭遇することはたまたまなかったが、青峰とは普段の連絡も途絶えてしまった。
ああやって言ってしまったからには、テツナから何かメッセージを送るのもやりづらく、青峰からも特にこなかった。

(…いきなりあんなこと言われて、青峰くん怒ってるかもしれませんね)

冷却期間みたいなものだ。テツナも自分自身の頭を冷やすのには丁度いいかもしれないと思った。


(…小学生みたいなのは、僕の方だ)


本当はもっと、素直になりたいのに。



***



そんな状態が続いて1週間後の朝。青峰と同じドライバーである火神が朝の納品を終えてトラックに戻ろうとすると、エレベーターから空の台車を押した青峰が心ここにあらずといった顔でフラフラと出てきた。

「おー青峰、はよ。何かすげえ死にそうな顔だな」
「完璧テツに嫌われた…………」
「あ?」
「2週間、仕事中に話しかけるなって…赤の他人でいろって…何かメールもくれねえし…もう1週間会話してねえ」
「そりゃお前、お互い仕事中ばったり会う度にセクハラまがいなことばっかしてるからだろ。お前のせいだな」
「あんなのちょっとしたスキンシップだろ!大体今までずっとやってきたことだっつうに何で今更、」
「ずっとやってきたのがいけなかったんだろ…」

青峰の落ち込みっぷりに、ここまでどんよりしてるのは珍しいなと思った火神は、いつものような茶化した雰囲気ではいけないと感じた。

「…まあ何か理由でもあんじゃねえの?何の理由も無くそういうことするとは考えにくいっつか…」
「マジで!?俺を避ける理由が何かあるのか!?」
「いやそれは俺もわかんねーけど。黒子にも色々あんだろ…もう少し様子見てみろよ。2週間たてば何かわかるんじゃねえの」
「……はー…そうだな…」

(このカップルもお互い不器用というかなんというか…)

まあこんなことでダメになる2人ではないだろう、と火神は何となくそこまで心配していなかった。



***



「ごめん黒子さん、これさっき集荷きたのに渡しそびれた荷物なんだ。まだ裏にいるはずだから急いで持ってってもらえる?」
「わかりました、急いで行ってきます」
「あ、ちなみに今日うちに来てたのは青峰くんだからよろしくね」
「…はい、」

荷物を渡さなければならない相手が青峰と聞いた途端、げ、と思ったのが本音だ。しかし店長の頼みを断る訳にもいかない。
テツナは急いでフロアのバックヤードに向かいドアを開けると、そこに丁度青峰が集荷の荷物がたくさん乗った台車の前で、仕事用の携帯で電話をしていた。
電話が終わるまで待とう、とテツナが近くで待っていると、青峰はテツナに気付いて少し驚いた表情を見せた。

「…ん、じゃー後で届けるわ。へい。お疲れ」

電話は仕事仲間にかけていたらしい。青峰は携帯を切って胸ポケットにしまうと、テツナの方を見た。

「どーしたテツ」
「………っ……」

もっと冷たくされるかと思ったテツナは、青峰の優しい口調に胸が痛んだ。

「…すみません、これ。さっき集荷に出し忘れたものなので…」
「ん?ああ、りょーかい」

テツナは小さい段ボールを青峰に差し出す。
青峰はそれを受け取って、伝票の控えをテツナに渡した。

「ほい」
「…ありがとうございます。お願いします」

ぺこり、とテツナは軽く会釈をしてバックヤードの出入口に向かう。

(…いつもだったら………、)

いつもなら、青峰のテンションがもっと高いのはもちろん、くしゃくしゃとテツナの頭を撫で、早くテツとイチャイチャしたいだのふざけたことを言ってテツナが軽く怒る…というのが恒例の光景だ。
自分から無駄な絡みをするなと言ったせいで、どうしても事務的な会話…ただのドライバーと店員の会話になっていた。
それでも、青峰の普段通りの口調にテツナは胸がきゅうっとなった。
と、テツナと入れ違いでバックヤードに入って来た綺麗な女性が、青峰を見るなり嬉しそうに駆け寄った。スタイルの良さとオシャレな雰囲気からアパレル系のスタッフだとすぐにわかる。

「青峰さん!お疲れ様です!」
「…あーお疲れ」
「今日はもう終わりですか?…あ、青峰さんこれいります?カロリーメイト」
「いらねえんなら貰う」
「いいですよ〜!食べようと思って買ったんですけど、何かお腹いっぱいになっちゃったので!」
「おーサンキュ」

そんな会話を耳にしながらテツナは逃げるようにその場を去った。あの綺麗な女性スタッフが青峰に好意があることは明らかだ。

(…僕は何してるんだろう)

こんな無意味なことして、青峰くんに気を遣わせているだけじゃないかと自分勝手さに嫌気がさす。

(でも今更、何て言えばいいかわからない)

…先程の女性スタッフみたいに、自分もあんな風に可愛らしくできたらよかったのに。


(…青峰くんは、)



何で僕なんかと、付き合ってるんでしょうか。




***



「黒子さん今日はもう上がりだよね。あとは引き継ぐからいいよ」
「あ、すみません。お願いします」

翌日、午前中のみバイトを入れていたテツナは午後から大学へ行くため昼前にバイトをあがった。
バックヤードで誰も乗っていない従業員用エレベーターに乗り込むと、すぐ下の階で停まる。誰か乗って来ると思ったテツナはエレベーターの端っこに寄った。

「台車入りまー…」
「!」

空の台車を押して乗り込んで来たのは、青峰だった。青峰以外に乗って来る従業員は他にいなく、どうしても2人きりになってしまうとお互い察する。
青峰はテツナを見るなり「…お疲れ」と一言言ってテツナに背を向けて立った。

「…お疲れ様です」

ガシャンと、無機質な音を立てて閉まるエレベーター。狭いエレベーター内はシーンと静まり返り、エレベーターが下の階へ下がって行く鈍い音だけが鳴り響いた。
2日連続でこの状況はきつい、と思いながらテツナは目の前の青峰の背中を見る。

(…大きい背中だなあ)

青峰は平均の男性の体格よりがっしりしているし、おまけに身長が高い。改めて見ると、ああ男の人だなあと思う。
着古したユニフォームはだいぶ黒ずんでおり、最近ちゃんと洗濯しているのかテツナは気になった。

(僕が言わないと面倒くさがって定期的に洗濯しませんからね…)

更にそのユフォームから伸びている、筋肉質な腕に見たことの無いかすり傷を見つける。大きな怪我ではないが、赤くなっており少し痛そうだ。
職業柄、青峰がこういった傷をよく作ってくるのは知っていたが、この腕の傷は今初めて知った。
ちゃんと消毒したのか、そこもテツナにとって気になる部分である。

(…ちょっと喋らないだけで、分からない事が増えるものなんですね)

分からない事と言ってもそういったかすり傷やユニフォームの汚れ具合などの小さなことばかりだが、テツナはそれさえも青峰が遠くにいるような感覚に陥った。
そんなことを思っているうちにエレベーターは青峰が降りる階につき、ドアが開いた。青峰がエレベーターから降りようと再び台車を押そうとし始める。

(あ、)


行っちゃう。


テツナは反射的にそう思って、青峰の着ているユニフォームの背中部分を掴んだ。当然、後ろに引っ張られる形になる青峰は前に進めなくなる。

「………へ?」
「……あ」

テツナは咄嗟に出てしまった手を引っ込めたが、もう遅い。青峰はキョトンとした顔で振り返った。

「……っ…あ、ごめ、なさ……」

テツナはやってしまったと思い、謝罪の言葉を口に出したが同時に涙もぼろぼろと出てきた。
青峰がいつまでも降りなかったため、エレベーターのドアは自動的に閉まってしまった。

「…テツ?何で泣いてんだ…?」

再びシーンとした狭い空間で2人きりになってしまい、青峰は驚いたような声で、顔を手で覆い泣いているテツナを覗き込むようにして屈んだ。

「…っごめ、なさい……ごめん、なさ、…い…っ」
「…どうした、泣くなよ……」
「…っ…ぅ、…ふっ……」

ひたすら泣きながら謝るテツナを青峰は引き寄せて抱きしめた。
久しぶりの青峰の温もりにテツナはホッとし、同時にまだ優しくしてくれる青峰を目の当たりにして心の中で自分を責めた。

(いきなり仕事中に話しかけるなと言って困らせて、いざそうしたら泣き出して。こんな自己中心的な彼女、僕以外にいるでしょうか……)

「……僕、嫉妬…してたんです……、」
「…嫉妬?」
「…あ、青峰くんが、他のスタッフさんにモテてるから……だから、…恥ずかしい話ですけど、す、拗ねて…で、つい突き放すようなこ…っん、んぅ…!?」

泣き顔を隠すように青峰の胸板に顔を埋めながら話していたテツナだったが、青峰に無理矢理上を向かされて隠すどころではなくなった。

「っん、…ふ、…ん、ぁ、あっ」

くちゅ、ぴちゃ、と恥ずかしすぎる音がエレベーターに響き、テツナは自分の顎を掴んでいる青峰の大きい手を叩いたがビクともしない。
結局、散々口内を弄られてからようやく解放され、再び強く抱きしめられた。

「…っふ、あ…ぅ……、」
「…くっそ、……何でそれを最初に言わねえんだよバカ…!」
「…ごめんなさい…、」
「……嫉妬して突き放したとか……可愛すぎるだろ……どんだけツンデレだよ……はーちんこ勃ってきた」
「!うわちょっと……!押し付けないで下さい最低です!!」
「最低ってお前、いつもこれ突っ込まれて気持ち良さそうにしてるくせに」
「………変態親父……」
「あーごめんごめんって……、…とにかくここじゃあれだしな…、今夜俺んち泊まりに来…」

青峰がそう言いかけた途端、誰かが外からボタンを押したのかエレベーターが突然開き、テツナは一瞬にして自分を抱きしめていた青峰を突き飛ばした。

「……え………何してんだお前ら……」

ドアが開いた先にいたのは火神で、突き飛ばされて壁にのめり込み気味の青峰と何事もなかったかのように垂直で立っているテツナを見て「これは仲直り…………したのか?」と判断のしようがない光景を目にした。





…後日、エレベーター内には防犯カメラがついており、青峰との一連の流れは防犯センターの監視カメラで大公開状態であったと知ったテツナが顔面蒼白になったのは、言うまでもない。












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