隣の席の青峰くん | ナノ

隣の席の青峰くん
青黒♀/ピュア峰×優等生



学校のクラスの中では必ずと言っていいほど、正反対の人間が共存する。
クラスでムードメーカーな生徒と、とても大人しくてほとんど1人で行動しているような生徒。
それは、産まれた時からの運命みたいなもので。
黒子テツナもまた、後者の人間だった。
昔から大人しくて引っ込み思案。本を読んでいる時が彼女にとって1番楽しい時間である。友達という存在も、数人いるかいないか。
今年の春に中学に入学したが、そこでもテツナは相変わらずだった。元々影が薄く、地味で目立たない。制服も着崩したりせずきっちり着ているような真面目な生徒だ。
そして、やはりテツナのクラスにテツナとは正反対の生徒がいる。
青峰大輝という、中1のわりにかなり身長が高く、スポーツ万能で明るい性格の少年だ。青峰はいつも誰かしらに囲まれており、テツナにとって別世界の人間であった。
が、夏休みが終わり新学期を迎えた今日。

テツナの小さく狭かった世界は、変わった。



***



「みんなクジ引き終わったか?じゃあ席移動して〜」

この教室は、隣の席とはぴったりくっついてはおらず、1列ずつ通路としてわずかな通り道が挟まれている形式である。
テツナの新しい席は窓際の1番後ろ。どこよりも目立たない、誰もが羨む席に当たった。

(…でも、隣が…………)

テツナは教科書やノートを持って新しい席に移動し座っていると、同じく隣の席にドサッと教科書を置いて席についた少年がいた。テツナは驚いてついビクッと肩をあげる。

「1番後ろとかラッキー、授業中居眠りし放題じゃん」

テツナの隣の席の少年は、例の青峰だった。
もちろんテツナは彼と一言も喋ったことがなく、中学生らしくない大きい体型と普段のやんちゃな様子から何となく怖いイメージを持っていた。
テツナはなるべく目を合わせないよう下を俯いていたが、青峰がいる方から思いきり視線を感じる。もしかしなくても、ガン見されている。

(こ、こわい…………。やっぱ僕が隣なんて嫌だったんだろうな…きっと一緒に悪ふざけできるような子の方がいいですよね…)

隣から強烈な視線を感じながらテツナはどうしようと思っていると、

「黒子」

名前を呼ばれてテツナはついそちらを振り返ると、やはり青峰が自分をジッと見ていた。

「くーろーこ」
「っはい!」
「よろしく」
「えっ…」
「?だから、よろしく。隣だから」
「あ………は、い……よ、よろしくお願いしますっ…」
「何で敬語なんだよ?ウケる」

青峰はハハッと笑うと、机の上に置いたままだった教科書を整理し始めた。

(…青峰くん、僕の名前知ってるんだ………)

絶対名前さえも知られてないと思っていたし、隣の席になった挨拶をされるなんて思っていなかった。
青峰にとっては普通なことなのかもしれないが、テツナは礼儀正しいなあと感心してしまった。
意外と青峰くんは怖くなかった…ということに、とりあえず安心して新学期を送れる、とテツナはホッとした。



***



「これ黒子の」

国語の授業中に前回やった漢字テストを返されている中で、青峰がテツナにプリントを差し出して来た。

「えっ」
「テスト。黒子のが混ざってた」
「あ………!ありがとうございます」
「ふ、だから何で敬語?」
「あ、えっと、癖なんです…っ」
「そうなのか?おもしれー。ていうかそのテスト100点ってすごくね?」
「え、あ…国語は好き、なので…」
「へー、今度教えて。俺全然できねえ」
「お、教えるほどでは……というか、漢字は覚えるものです…」
「ぶっは、確かにそうだな」
「はい…」
「あと黒子の下の名前ってテツナっていうんだな」
「あ、はい」
「じゃあテツ」
「へっ?」
「テツって呼ぶ。その方が呼びやすいし」

そう言って無邪気な笑顔を見せる青峰に、テツナは驚きを隠せなかった。
今まで誰かにあだ名をつけてもらってあだ名で呼ばれたことがなかった。それを、あの青峰が。自分とは別世界にいるような青峰が、あっさりとやってのけてくれた。

そうして青峰と隣の席になってから、テツナは気付いたことがある。

(…青峰くんって、寝るか食べるか運動しかしてない…)

授業中はほとんど寝てるし、昼休みは昼食を高速で食べた後にすぐバスケをしに体育館へ行く。テツナが見ていると、毎日それの繰り返しである。休み時間になるとすぐにクラスメイトが誰かしら青峰の席に寄って来るし、テツナとは特別喋ることはない。
みんなに人気者の、明るくて活発な男子。そんな言葉がぴったりの青峰は、やはりテツナにとって違う世界の人だなあと薄々感じていた。

今日は、青峰が珍しく数学の授業で起きている。何やら懸命にノートに何か書いており、テツナは内心不思議に思っていた。

「テツ」

ぼそりと、囁くような声で青峰がテツナを呼ぶ。
青峰の方を見ると、ノートを広げてドヤ顔でこちらに向けている。そこには、今正に授業を行っている数学の教師の似顔絵が描かれていた。その教師は髪が薄く太っており、青峰の画力の無さも手伝って余計に酷い有様な似顔絵になっている。

「ぷは……っ!」

青峰の不意打ちな行動にテツナはつい吹き出したが、すぐさまその教師にギロリと睨まれた。

「そこ、静かに」
「あ、す、すみません…」

普段真面目なテツナが教師に注意されている図が面白かったのか、青峰はフッと笑った。そして小声で、

「怒られてやんの」
「だ、誰のせいだと…」
「俺だな。悪ィ」

と、言いつつも青峰はいつまでも笑いを堪えているようだった。

「てかこれやばくね?上手くね?超そっくりだよな」
「全然似てません…いきなり笑わさないでください」
「テツっていつも表情変わらないイメージだけど、こういうので笑ったりするんだな」
「え」
「レアだよな。俺すげー」

確かに、テツナは表情が元々豊かではない。学校でも誰かと笑って話す機会がないので、もちろん青峰もテツナの笑顔を見たことはなかった。
だが青峰は、テツナのように大人しいタイプの人間でも壁を作らず接してくれる。そんな青峰を、テツナは単純にすごいと思った。
元々そういう性格なんだろう。テツナにちょこちょここうして絡んで来るのだって、何か特別意味があるわけではなく”隣の席のクラスメイト”だから。
テツナはそれでも嬉しかった。自分のようなタイプにも、普通に接してくれることが。今までは絡まれる訳でもなく、除け者にされるでもなくといった感じで、青峰のようなクラスメイトはいなかったからだ。
学校での小さな小さな幸せ。テツナにとって、それはかけがえのないものになった。



***



(あ、もうすぐ文芸コンクールの結果が出る頃ですね…)

テツナは教室のカレンダーを見て、ふと先月に自分が応募したコンクールのことを思い出す。
そのコンクールはイラスト部門や小説部門があり、更に『中学生の部』というものがあったため、テツナはちょっとした挑戦として中学生の部の小説部門に応募してみたのだ。
昔から様々な小説を読んでいるうちに、自分でも書きたくなって書き始めたのが小5の頃。最初こそ絵本のような内容だったが、最近はもう少し大人らしい文章も書けるようになってきた。そこでたまたま目にした、文芸コンクール。これに応募したことは誰にも言っていない。何となく恥ずかしいという気持ちがあったし、正直学校では報告するほど仲がいい人もいないからだ。
それでもお話を考えている時はとても楽しいと思っているし、テツナの楽しみのひとつだった。

(…まあ賞をもらえるとは思ってないですが…、)

何事も経験だし、とテツナは結果に期待はしていなかった。

「なあテツ」
「っ、はい?」

ぼーっとそんなことを考えていると、突然青峰に声をかけられた。
席替えをしてだいぶ経ったが、いまだに青峰から呼ばれると何だかドキッとしてしまうし、緊張する。

「あんさー、もしかして明日って何か提出物あったりする?」
「えっと……理科の実験内容レポートくらいですかね」
「あーそれだ!やべ、前回も出してなかったから今回こそピンチ…実験内容覚えてねえし」
「……よかったら、僕のノート見ますか…?レポート丸写しはできないですから、ノート見ながらならレポート書きやすいかと思うんですが…」
「…マジで?」
「え、あ、青峰くんがよかったらですけ」
「めっっっっっちゃ助かる!頼む!」
「あ、はい。どうぞ」
「サンキュー!今度何か奢るから!」
「え!?そんな、気にしないで下さい」
「明日絶対返すから!ありがとな」

ノートを貸したくらいで青峰がこんな喜んでくれるとは思わず、その様子を見たテツナも少し嬉しくなる。

(…僕は何も面白いこと言えないから、こういうことくらいしか出来ないけれど)

青峰のおかげでいつも元気をもらってると言っても過言ではない、ほんの手助けになれるだけでもテツナは嬉しかった。

…そんな2人の様子を、面白くないと思っている生徒がいた。

「…何か最近、青峰くんと黒子さんって仲良いよね?」
「ねー。青峰くんには釣り合わないよね、黒子さんみたいな地味な子」
「青峰くん優しいから、黒子さんに声かけてあげてるだけだよねえ。黒子さん何か勘違いしてそう」



「…気付かせてあげようよ。青峰くんは………黒子さんにだけ優しいってわけじゃないってことを」



***



翌日、担任が出席を取り始める寸前に、青峰は全速力で教室にかけこんできた。
大量の汗をかいて息を切らしながら「セーフッ!」と席につくと、教室に笑いが起こる。

「青峰お前出席番号1番だから俺があと数秒でも早く呼んでれば遅刻だったな。有り難く思え〜」
「へーい」

もう9月ではあるがまだまだ暑い上に走って来たせいか青峰はかなり汗だくで、急いで家を出てきたのかいつもしているネクタイもしていなかった。そのほんの些細なことがテツナにはとても格好よく見え、いつも以上にドキドキしてしまっていた。

「はよーテツ」
「っ!おあ、おはようございます…っ」
「おあって何だよ」

テツナが思い切り噛むと、青峰は汗を拭いながら笑う。

「昨日遅くまでレポート必死に書いてたら寝坊しちまってさー、ノートありがとな!」
「いえ、無事に終わりました…?」
「おー、何とか!あと、これノートに挟まってたんだけど、」
「?」

青峰が差し出したのは、ズラッと文章が書かれている数枚の紙。その紙に、テツナには見覚えがあった。何故ならー…

「っ!?そ、それ……!」
「これ何かの小説っぽいけど、何だ?テツが書いたのか?」

それは、文芸コンクールに応募した小説の下書きの一部。だいぶ前にノートに挟んだまま、うっかりそのままにしたのを忘れていた。
テツナは慌てて青峰からそれを受け取るが、何て言えばいいのかわからなかった。やはり恥ずかしいという気持ちがあったし、自分で書いたということがバレたくなかったのだ。
でも、良い言い訳も見当たらない。テツナが俯いたままでいると、青峰は不思議そうに首を傾げた。

「…テツ、小説書けるのか?」
「………っ…、…えっと…それは、…コンクール…の、」
「コンクール!?何の?」
「……文芸コンクールの…小説部門に…」
「すっげえ!じゃあ本当にそれテツが考えて書いたんだな?すげー、プロの小説家みてえ」
「え…へ、変だと思わないんですか…?」
「変って何がだよ?これから出すのか?」
「……もう出して、まだ結果待ちで………」
「それって何か優勝とかあんのか?」
「…一応、金賞とか銀賞とか…」
「へー、賞とれるといいな!」

青峰の予想外の反応に、テツナはポカンとしてしまった。自分が恥ずかしいと思って口にしなかったことを、青峰はすごいと言ってくれる。
青峰の言動や行動には本当に驚かされてばかりだ。

「…ありがとうございます」

恥ずかしいと思っていたことが、くだらなくなるくらい。

(…まぶしい)

青峰くんは太陽みたいな人だと、テツナはひっそり思った。



***



それから数日経ち、4限目が終わり昼休みに入ると、教室へ来た担任がテツナを呼んだ。

「黒子、文芸コンクール金賞だってな!すごいじゃないか」
「へっ?」
「あれ、まだ家に通知来てないか?今日にでも来ると思うぞ」
「えっ…、何で先生知って…?」
「コンクール側から学校にも連絡きたぞー、すごい大きいコンクールだしな。学校名記入する部分もあったろ」
「あ…………」
「いやー本当にすごいよ。学校にとっても誇らしいことだから、掲示板にも貼らせてもらったぞ」
「え…!?」

自分が金賞をとったということも信じられないし、更にそれが学校にも知られていて挙げ句の果てには学校の掲示板に貼られるという、予想もしないことが起こっている現状にテツナは戸惑いを隠せなかった。

(嬉しい、けど………)

先生や青峰だけならまだしも、他の生徒に知られるとは。テツナは自分1人でひっそり楽しむ気でいたし、正直動揺してしまっていた。
…いや、そんなことにみんな注目しないかもしれない。ふーん、くらいで終わるかもしれない。そうだ、深く考え過ぎだー…。

テツナは複雑な思いのまま、廊下にある掲示板を見ようとすると、掲示板の前にはクラスメイトの女子生徒が3人ほど立っていた。

「…ーあ、黒子さんだ〜」

その内の1人がテツナに気付くと、新しいおもちゃを見つけた子供のように、満面の笑みでテツナに近付いて来た。もちろん、テツナとは一度も喋ったことがない。

「文芸コンクールの小説部門で金賞なんだってね!」
「すっご〜い!」
「私達にはマネできないよねえ〜」

かなりわざとらしくテツナを褒めちぎる3人に、テツナは嫌な予感がした。

「…でもさあ、どんな小説書いたの〜?」
「恋愛小説じゃない?ほら、黒子さんって…青峰くんのこと好きだもんね?」
「…っ!?」

何故かコンクールとは関係のない青峰の名前を出され、テツナは硬直した。

「あー…最近仲いいもんねえ」
「自分を主人公にして、相手を青峰くんに見立てて〜とか?そんなお話かなあ?」
「違っ…、」

テツナが書いた小説はミステリー系の話であり、恋愛要素は全くなかった。
完全に、この女子生徒達の勝手な作り話だ。

「ていうかさ…生意気だよね。隣の席になったくらいで」
「キモイんだよ。地味子のくせに」
「小説なんて書いちゃってさ、何かだっさーい」
「青峰くんは優しいから、あんたにも声かけてくれてるんだよ。隣の席だから仕方なく」
「本当は青峰くんだってあんたのこときもいと思ってるんだから、さっさと諦めなって」



(………あ……、)



…そうなのかな。

青峰くん、本当は、僕のことなんて気持ち悪いって、思ってるのかな。

僕なんかの隣じゃ、嫌だったかな。

小説のことも、ほんとはださいって思ってたかな。

やっぱり、僕みたいな地味な子は青峰くんの近くにいたらダメなのかな。

あの優しさも、あの笑顔も、全部…………



(…嘘、だったら………)




「だから黒子さん、勘違いしない方がー」
「勘違いしてるのはどっちだよ」



テツナの背後から、聞き慣れた声。


「…!あ、青峰くん…!?」
「テツの何が悪いんだよ。小説書くことのどこがだせえんだ。ねちねち文句垂れてるお前等の方がだせえっつの」
「……っ…だ、だって…!」
「だって何だよ?」
「……っ………」
「……いいから謝れよテツに。謝れ!!!」
「っ青峰くん!」

これ以上放っておくと大変なことになってしまうと思ったテツナは痺れを切らし、つい大きな声を出した。

「…も、大丈夫ですから…っ…やめ、て…」
「……………」

青峰はチッと舌打ちすると、女子生徒達は泣きそうな表情で逃げるようにその場を去ってしまった。

「………おいテツ」
「…っはい、」
「もっと自分に自信持てよ」
「え…」
「これだよ、これ」

青峰は掲示板に貼ってある文芸コンクールの結果を指さした。

「金賞とったんだろ?すげえことじゃん。自慢すべきだろ」
「…………」
「こないだも、小説書いてることが変じゃないかとか言ってたけど。テツは好きで小説書いてるんだろ。好きでコンクールに出したんだろ」
「…はい」
「じゃあもっと胸張ってやりゃあいいじゃん。誰に何言われたって恥ずかしがる必要ねえよ。そう思わねえ?」

青峰の一言一言が、テツナの身に染みる。

「…………っ…ぼく、」
「ん?」
「…ずっと、人に知られるのは恥ずかしいって…思ってました」
「うん」
「…もしかしたら、本当は青峰くんもださいって…そう思ってるのかもしれないとか…、」
「…思うわけねえだろ」
「でも…っ、もう…やめます、びくびくするの……僕も、青峰くんみたいに、なりたいから…っ…」
「…ん?俺?」
「はいっ…青峰くんみたいに、いつも前向きで…誰かを笑顔にできるくらい…っ!」

青峰はハハッと笑うと、テツナの小さな頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ん、上出来」

その瞬間、テツナは自分の心臓がドクンと波打つのがはっきりわかった。




(…ああ……、僕……)





…青峰くんのことが、好きだ。





***




「今日の日直は〜…席順で青峰と黒子か。ちゃんと日誌出してから帰れよー」
「へいへーい」

テツナが青峰を意識し出してから、1ヶ月ほど経つ。あの日以来、前よりもっと話すようになった。
青峰と日直をするのは今日が初めてだが、テツナが日誌を書き、青峰は黒板消しや花瓶の水替えを担当していた。

「うっし、こっち終わった。日誌終わりそうか?」
「あ、はい。もうすぐで終わります」

放課後ということで他の生徒はすっかりいなくなり、いつもは賑やかな教室がシーンとしている。それも青峰と2人きりなため、正直テツナの心臓は爆発しそうになっていた。
青峰は暇なのか、テツナの席の目の前に椅子を持って来てそこに跨がり、頬杖をつきながらテツナが書いている日誌を覗き込む。これがまた顔の距離が近く、テツナの顔はみるみる赤くなった。

「…さ、先帰ってても大丈夫ですよ?日誌は僕が出しておきます」
「んー?…いや……」
「?」
「……あのさーテツ」
「はい?」




「俺明日転校するんだ」





カシャン。
テツナが持っていたシャーペンが音を立てて落ちた。




「……………え…?」
「…俺お別れムードみたいなの苦手だからさ、学校以外には誰にも言ってなかったんだけどよ」



(……うそ、………)



「父親の仕事の都合で…引っ越さなきゃいけなくなった」



(……うそだ…、)



「…でも、テツには先に…言っておかなきゃなって思って」
「……っ…………」
「今までありがとな」
「…や…………」


やだ、そう言おうとした瞬間、テツナの唇が青峰の唇に塞がれた。

触れるだけの優しいキスは、すぐに離れた。




「……俺、テツが好きだ」



青峰は切ない表情でそう言うと、鞄を持って立ち上がった。

「…悪い、日誌……出しといて」

信じたくない出来事に、テツナはその場を動けなかったし何も言えなかった。



(……待って、…行かないで、)



『もっと自分に自信持てよ』



…僕は、まだ何も青峰くんに、




『胸張ってやりゃあいいじゃん』




(…何も、…何も伝えていないー………、)




「青峰くん……!!」

テツナはガタンと立ち上がり、今までに出したことがないくらい大きな声をあげると、青峰は教室の出口の所で立ち止まった。

「…あっ……、」
「…なに?」
「……ぼ、く…、」
「…ん?」

青峰は相変わらず、テツナを急かすこともなく待ってくれていた。

「…青峰くんは…僕にとって、太陽みたい、で……いつもきらきらしていて、明るくて、…だから、青峰くんが……青峰くんのおかげで、僕は……」

上手く言葉が言い表せない。
視界は涙でぼんやりしていて、テツナには青峰の表情もわからなかった。
でも、伝えたい。伝えなければならない。



「…っ…あ………青峰くんの、ことが、…す………す、き………です…………!」



テツナは今にも沸騰しそうなくらい、全てを振り絞った。
青峰は一瞬驚いた表情をしたが、すぐにいつもの無邪気な笑顔を見せた。




「……ん。待ってろよ、テツ」






そんな意味深な一言を言い残して。
青峰は次の日から、テツナの前に姿を見せなかった。





***





(………もうそれも、3年前ですか)

あれから何事もなくテツナは中学を卒業し、高校に進学した。青峰の連絡先を知らなかったし、あちらからも何も音沙汰がなかった。
テツナにとってはとても大切な思い出だが、だからと言ってどうこうするつもりもなかった。もし今会っても、青峰は自分のことをどう思ってるかなんて分からない。下手すれば忘れられてるかもしれない。
どこかで、青峰が元気にしいていればそれでいい。
綺麗な思い出は、そのままにしたいという気持ちがあったのだ。

「ねー今日転校生来るんだって!」
「うっそ、男?女?」
「男!何か聞いた話ではすごいでかくてすごい怖そうですごい黒いんだけどすごいかっこいいらしいよ」
「え〜何それ〜!?どんな人よ?めっちゃ気になる〜!」

テツナの席の近くでキャッキャしている女子達の話を聞いて、そういえば青峰くんも相当黒かったですね…とテツナはぼんやりと思った。

「はーいおはよう。ほらみんな座って座って。今日はなんと転校生がいま〜す」

教室に入って来た担任がそう言うと、クラスの生徒は一斉にざわざわし始めた。

「あーほら静かにしなさいって!」

担任教師がしーっと人差し指を口に当てると、生徒達はだんだんと静まっていく。
担任はコホンと小さく咳き込み、転校生を招き入れる様子を見せる。
テツナも、ちらりと入口の方を見た。






「じゃあ入ってー、今日からみんなのクラスメイトになる………青峰大輝くんです!」









end.






ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました…!!!;;;;;;
すっっっっっっごい、先が分かるあるある展開ですみませんでした……
この後はというとお察しの通り、宣言通りテツナちゃんをお迎えにあがった青峰きゅんはピュア峰からドS峰に覚醒^^
そしてテツへの猛アピールが留まることを知らない^^^^^^
中学の時とはまた違う青峰にされるがままなテツナちゃん………みたいな………あるある…

お付き合い下さりありがとうございました〜〜〜!!







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