そいつぁーちょっとヤバいんじゃないでしょうか!?B | ナノ

そいつぁーちょっとヤバいんじゃないでしょうか!?B
青黒♀/上司(三十路)×新人(新卒)


「やっぱ青峰と黄瀬のコンビはさすがやなあ。まさかあの赤司グループ相手に契約取ってこれるとは思わんかったわ」

夕方からのミーティングが終わった後、営業マンとしてどんどん良い成績を残す部下の青峰を、今吉は上機嫌で褒めた。

「まあ確かに赤司グループは全体的にガードが固い感じっつーか…今まで取引に苦戦してきたのも理解できた」
「部長も珍しく褒めとったで〜、今後も期待してる言うてたわ。てか結局どうやって取って来たん?」
「今回はほとんど黄瀬の手柄だよ。あいつもだいぶ腕上げてきたと思う」
「まあなあ〜黄瀬もかなり仕事できるし青峰の成績もう少しで抜きそうやもんなあ。あいつは完全に営業向きだからな…」
「まあ頑張ってくれたのは感謝すっけどよ、黄瀬のあの上から目線が気に入らねえんだよなあ……人見下してるようなフランクさとか」
「確かに青峰とは合わんなあ…お前等静かに火花散らせてるもんなあ…」
「営業同士なんてそんなもんだろ」
「言うても2人とも何となく似てるところあるで、生意気なところとかドヤってる感じが」
「はあ???俺はあいつみたいに女たぶらかしてねえし一応身の程わきまえて…」
「お前から身の程わきまえるとかいう言葉聞けるなんて感動やわ…」
「おいどういうことだよこのクソメガネ」
「まあまあ、2人とも仕事できるモテ男なんだしそんな目くじら立てんでもええやん。取引は成功したんやし穏便に穏便に」

今吉はぽんぽんと青峰の肩を叩くと鼻歌を歌いながら自分のデスクに戻っていった。
そんなふざけた上司に青峰はため息をつきながら腕時計を見ると、時刻は18時半。
青峰の頭に浮かぶのは、1人の新卒女子社員だった。

(……あいつ、来なそうだよなー…)

先程の給湯室でのやり取りで、完全に避けられているとわかった青峰は少しショックを受けた。
いや、避けられるのは当たり前だと分かってはいたのだが。あんな化け物を見たような顔しなくても、と内心悲しくなる。
しかし青峰的には、このままあの事件をなかったことにはできなかった。
それはもちろん、テツナが酔っぱらった状態だというのにセックスをしてしまったことの罪悪感もあるのだが、何より…単純にテツナのことをもっと知りたかった。
居酒屋で皆が騒いでいる中、1人で隅っこにポツンと座っていたテツナにとてつもなく惹かれた。その時は本当に自分の過ちでワインを飲ませすぎてしまったわけだが、酔うとあんなにも危なっかしくなってしまうテツナを今後放っておきたくないという気持ちが強かった。
男に免疫なさそうだし、守ってあげたくなるというかなんというか…と、とにかくテツナは社内で 1番の人気社員である青峰のハートを掴んで離さなかったのだ。

(…責任取るから付き合えってのは無理矢理すぎたか?)

かと言って、今の自分の素直な気持ちを伝えたところでハッピーエンドになるとも思えない。
セックスだけしておいて、お互いのことを大して知らないのは問題だ!と青峰は健全な考えを巡らせ、結果食事に誘ってみたのだった。
が、テツナにとって青峰は今のところ自分が酔っ払っている間に襲ってきたという前科がある危険な男である。
改めてそれを考えると、青峰にとって先が真っ暗すぎて頭を抱える。

(…やべえ………やっぱまずは警戒心解くところからだよな…)

青峰はさっきより深いため息をつくと、再び仕事へと戻って行った。



***



こんなにも仕事が終わらないでほしいと願ったのは初めてだ。
残業にでもなれば、今夜青峰の元へ向かえない言い訳になる。
いや、別に時間があったって行かなくてもいいのではないか?突然あんな一方的に付き合うとか言い出すわ食事に誘うわで、僕の気持ちは丸無視されてるんだし……と、テツナはデスクに向かいながら悶々と考えた。
そもそも、何故青峰は責任なんて取りたがるのか。
勢いで好きでもない女子社員と一晩寝てしまった後に責任とって付き合いますなんてのは、今時なかなかいない。大抵は面倒だと思って距離を置いていくだろう。もしくはそういう関係だけをずるずる続けるか…。
考えれば考えるほどますます青峰のことがわからなくなったテツナは、目の前の仕事になかなか集中できないでいた。

(…でも、一応先輩なんだし行った方がいいんでしょうか………いやでも僕はもう今回のことに関してはなかったことにしたい…だからできれば関わりたくない……でも…でも…)

「黒子?」
「っはい!」

もんもんと考えを巡らせていると、テツナの背後には上司の木吉が。

「大丈夫か?何か今日ずっと顔色悪いけど…どこか悪いのか?」
「えっ…あ、いえ……大丈夫です、すみません」
「…もう19時か。今日はもう帰っていいよ」
「え!でもまだ仕事が、」
「そのくらいなら俺やっちゃうから。だから今日はもう帰ってゆっくりしてな。黒子はただでさえ不健康そうだからなー」
「いえいえいえ全然大丈夫です!元気です!残ってやります!」
「いいって、遠慮しなくて。いつも頑張ってくれてるんだし。はいさよーならー」
「ちょ、待っ……………」

…木吉の優しさは今のテツナには良くなかった。
これでは、普通に青峰が言っていた時間に間に合ってしまう。1番自然であろう残業言い訳作戦が呆気なく崩れてしまった。

(…………どうしよう)

行った方がいい気もするし、行かない方がいい気もする。
…もう誰かに相談してしまいたいところだが、まさか同僚にこんなこと相談できるわけがない。
行くにしてもまだ時間があるため、どこかカフェにでも入って考えることにした。
テツナはもう一度木吉に挨拶をして、重い足取りでエレベーターに乗った。




***




『おい黄瀬!お前今どこにいるんだよ!?』
「え〜?会社の外ッスけど」
『は!?何でもう帰ってんだよ!大体昼に頼んだ書類は終わってんのか!?』
「あったりまえじゃないッスか笠松先輩、もう部長に提出しておいたッス」
『…とにかく自由奔放に動き回るのはやめろ!仕事終わったならせめて上司の俺に断りを入れるて帰るのが普通だろ!』
「はいはいはーい、次からは気を付けますって。じゃ」

電話の向こうで笠松がまだ何か言っているのが聞こえたが、黄瀬は無視して通話を切った。

黄瀬涼太は、同じ営業部である青峰大輝にライバル心をメラメラと燃やしていた。
青峰は自分と同じく明らかにスポーツやってますといった体格で、初めて会った時は自分より大きい身長にとても驚いた。
しかし目つきが悪く特別愛想がいいわけでもないので、最初はこういう奴は営業に向いてないんじゃねえのと思ったが、青峰のセールストークは面白く、上手い。黄瀬が知っている他の営業マンはとにかく契約を交わそうとへこへこしてる人が多い。いや、それが普通だし当たり前だと思う。
青峰は、自信に満ち溢れてるというかなんというか。黄瀬が唯一仕事上で尊敬できると思った相手だ。

「わっ!?」

黄瀬がボーッとしていると、ドンッと自分の体に誰かが突進してきた。

「あ、ご、ごめんなさい…!ボーッとしてて……」
「…や、大丈夫ッス…………」

ぶつかってきた女性は、小さく華奢な、高校生と言われても信じるくらいあどけない容姿。
シャツの袖からのぞく、透き通るような真っ白な肌に内心驚いた。


「あ、黄瀬さん……??」
「…俺のこと知ってんスか」
「女子の間ではすごいかっこいいって有名なので…」
「わー、嬉しいッス。でも青峰っちもすごいっしょ、人気が」
「えっ……あ、…はい…すごいですね…」

青峰の名前を出した時の微妙な間を、黄瀬は見逃さなかった。

「…名前は?」
「あ、経理部の黒子テツナです……」
「へー、黒子っちかー。可愛いッスねえ、何歳?」
「くろこっち…?かわ……??……あ、22歳です……」
「てことは…新卒?」
「は、はい」
「じゃあ今1番大変な時期ッスねえ」

黄瀬にとって、女は遊び相手でしかない。ビジュアルが文句なしのため何もしなくてもモテるし、適当に笑顔を振りまいておけば誰でもコロッと落ちる。特定の彼女なんてのはとんでもない、面倒くさすぎて作る気はさらさらない。
が、この目の前にいる黒子テツナという女は、黄瀬を見ても大して目の色を変えない。それどころか何となく怯えられている気さえする。
……特別美人というわけではないが、テツナのなんとも言えない素朴感が黄瀬は気になってしまった。…それに。

「…青峰っちかっこいいよね、男の俺から見てもかっこいいッス」
「…えっと、はい……」
「はは、黒子っちはそういうのそんなに興味ない感じ?」
「……興味ないというか…えっと…」

怪しい、黄瀬は何となくそう思った。

(……別に確証はないけど、こういうのって探りたくなるんスよねえ……)

「ね、黒子っち。今日はもう仕事終わり?」
「あ……はい」
「良かったら俺と夕飯行かないッスか?近くにおいしいお店あるんスよ」
「え!?…えっと……今日は……」
「あ、予定入ってた?」
「…入ってる……ような…入ってないような…」
「入ってるだろ」

しどろもどろになっているテツナの背後から、聞き覚えのある声が。
……青峰である。

「…!!!!!!」
「だから何でお前はそうやって人を化け物みたいな目で見んだよ!!わりと失礼だぞ!」

青峰は顔面蒼白になるテツナに罵声を浴びせると、黄瀬の方に向き直る。

「…お疲れ青峰っち」
「その青峰っちってのやめろ、一応俺の方が先輩だぞ。で、何してんだこんな所で」
「たまたま通ったらこのかわいこちゃんがいたんでナンパしてたんスよ」
「え!?いや違うんです、元はと言えば僕がぶつかっちゃって、えっとその」
「へー。でも残念ながらこいつは今から俺とデートだ」
「デ…っ!!??」
「行くぞ。じゃあな黄瀬」
「ちょ、ちょっと待ってくださ…っ」

終始しどろもどろなテツナは青峰に引きずられるように駐車場の方へと向かって行った。
1人取り残された黄瀬は、ポカンとしながら2人の背中を見つめる他ない。
青峰とテツナは付き合ってるのか?そうじゃないのか?…そうじゃなければ、どういう関係?





「……たくさん邪魔してあげるね」





俺も、黒子っちのこともっと知りたいんだもん。







★to be continued…









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