あ、ばれちゃいました? | ナノ

あ、ばれちゃいました?
青黒♀/モデル×保育士/前半のみモブ視点



芸能界の裏側は汚いし怖いと、この仕事を始めて改めて実感した。
テレビではニコニコしていて女性ウケ抜群のイケメン俳優が裏ではスタッフを奴隷のように扱うような奴だとか。
清楚系と言われている期待の新人女優は大手広告代理店のお偉いさんと寝たおかげでばんばん仕事がくるだとか。
アイドルグループの人気メンバーが実は彼氏がいてそれも取っ替え引っ替えしてるだとか。
週刊誌の記者として働き始めて7年、知らぬが仏だと思ったことがたくさんある。しかしそれを表に掘り出すことが記者の役目。それをやっている自分が言うのもおかしいが、この仕事だって芸能界と同じくらい汚いと俺は思う。今話題の芸能人からこれから波に乗るであろう芸能人、忘れかけられている芸能人………プライベートだろうと何だろうと記事になると思えばどんどん写真を撮っていかねばならない。
新人の頃はまるでストーカーのようなことをしなければならない罪悪感があったが、今はもうすっかり慣れてしまった。というよりもう事務的作業だ。あのタレントが、あの俳優が、あの歌手が……ちょっとでも気になる噂があれば真相を調べ、ネタを掴めれば記事にする。
それが俺の仕事なのだと、もう割り切っているのだ。



***



(あーやべえな。ネタがない)

こんなに面白そうなターゲットが見つからないのは久々だ。いや、先週までが充実しすぎていたんだろう。あの大物俳優の不倫記事が反応よかったんだよなあ。それの反動なのか、今回はピンチだ。
しかし、週刊誌というのは次から次へと新しく面白い記事を作らなければならない。今回はいいのありませんでしたーではすまない。無理矢理にでも探さねば。
情報収集のため、本屋で何冊か買ってきた雑誌に目を通す。たまたま開いたファッション雑誌のページには、でかでかとある男の顔が載っていた。

(誰だこいつ。えー…青峰大輝?…って何と無く聞いたことあるな……でも何者?だっけ?)

「あ、最近その青峰って奴きてるよなー」

名前を聞いたことがあるレベルのその男のページをもっとよく見ようとすると、背後から同僚がにゅっと覗き込んできた。

「そうなん?人気なのか?あんま知らないんだけど」
「一部の女子たちに…と言いたいところだけど、最近はほんとすげえ人気らしいぞ。俺の妹が大好きでさ」
「へー…なに、俳優だっけ?」
「や、モデル」
「…モデルって、何かこう…キセリョみたいな感じのイメージなんだけど」
「そうそう、だから青峰は新ジャンルだよな。さわやかで可愛らしい笑顔と愛想の良さを売りにしたモデルばっかじゃつまらんだろ。この悪そうな目付きと黒い肌とたくましい体つき、ワイルド系イケメン青峰!みたいな」

…なるほど。確かに、今のメンズモデルは去年人気が沸騰したキセリョを真似たような奴等ばかりだ。格好よくても個性がない。そこで、従来のタイプとは正反対の青峰に人気の火がついた、と…。

(こりゃ面白い。……よし、決めた。……こいつだ)

『人気モデル青峰大輝』の裏を、世の中に晒してやる…!




***



…と、ターゲットを決めた所ですぐにいいネタが出て来るわけではない。まず青峰が仕事からプライベートの時間になるまで車で待ち伏せするなり何なりしなければならない。
そんなわけで、ここ数日毎日毎日青峰がプライベートにどこで何をするか張っている。が、休みはおろか空き時間さえ少ないようで、全く面白いものが撮れない。仕事が終わってマネージャーの車に乗り込むかと思うと寄り道せず自分のマンションに帰宅。たまに仕事仲間と飲みに行っていたが、泥酔するでもなく居酒屋から出ると澄ました顔で帰って行く。
…ふざけるな、そんなチャラそうでモテモテであろう見た目してんのに健全な毎日送りすぎだろ。
別にそんな大きいことじゃなくてもいい、何かないのか。…仕事帰りに風俗通いまくってるとか、スタッフにめっちゃ性格悪い一面見せたとか、毎日合コン三昧とか、…とにかく何かないのか!?

…そんな普通過ぎる日々を送る青峰にイライラし始めてきた頃だった。
ある日の20時過ぎ、1時間前程に仕事を終えマンションに帰った青峰を、また出て来るだろうと車で張っていた。
そこで突然サングラスをかけた青峰が自宅から1人で出てきたかと思うと、タクシーを拾ってどこかへ向かって行き、俺は慌てて車でタクシーの後を追った。
いつもはマネージャーの車が迎えに来て乗り込むため、これは確実に仕事ではないはず。

(あっさりとタクシーなんか使って、一体どこに行くんだ…?)

しかもサングラスだけとか全く変装になっていない、彼の場合はあの高身長と短髪、黒い肌のおかげで何も隠せていない。本人は変装のつもりなんだろうが…ちょっと抜けてるところがあるのだろうか。
30分程タクシーを走らせた後、青峰が降りたのは各停の電車しか停まらないような小さな駅だった。
…え、こんなところで何をするつもりなんだ。誰かと会うんだろうか。にしても、本当に人気も少なく住宅街しかない、小さな町だ。
…一体どういう知り合いなのだろう。
青峰はその駅の改札口で突っ立ってスマホを弄っていたが、改札から1人の小さな女性が出てきた途端、なんとその女性に勢い良く抱きついた。

「…!!???」

俺は反射的にカメラを構え、その光景をバシャバシャと車の中から撮った。ちょっと距離があるが、これ以上近付いたらバレる可能性がある。
抱きついた相手は彼女、か?目をこらして見てみると、髪は肩くらいの長さで色白、背は青峰がでかすぎるせいでかなり小さく見えるが150cm半ばというところか。華奢な体型なのは間違いない。…服装は白いブラウスにスキニーパンツにスニーカーと正直、かなり地味。化粧っ気も全くない。でも、小さくて可愛らしいのは何だか分かる。
本当にこの女性が、青峰の恋人なのか?もっとこう…ギャルっぽいのとかセクシーな女性とかを好むのかと思っていたが。
青峰に抱きつかれた女性は離れろと言わんばかりに青峰の背中をばしばしと叩いている。そんな彼女の抵抗を無視している青峰はかけていたサングラスを外すと、なんと遠慮なく女性の唇と自身の唇を合わせたのだ。
いくら周りに人がいないからって堂々とやりすぎだろ!と驚きつつ突っ込みを入れながらも、このシャッターチャンスを逃す訳にはいかないと俺はその光景をひたすらカメラに収めた。
女性はまたもや背中を叩いているが、キスはどんどん深くなっていってるようだった。青峰が唇を離したかと思えば角度を変えてまた口付け、更に離したかと思えばまた口付け…の繰り返しだった。女性はあくまでこんな所でやめろという感じで、本格的に嫌がってる様子はない。…まあ、彼女で確定だろう。普通に一般人、だな。
…とりあえず、この一連を見る限り青峰の方が彼女にゾッコンなのはよーくわかった。意外や意外だ。あんなクールぶっておいて、彼女の前ではこうなのだから。
青峰のキスの嵐が終わったのか、2人は何だかんだ手をつないで住宅街に消えて行った。…彼女の家に行くのだろう。仕事の合間に会いに来たって感じか。
…さて、これを世間はどう見る?女性ファンはまあ大半離れるだろうな…なんにしても、ワイドショーで取り上げられることは間違いない。
青峰の評判が上がろうが下がろうが、俺にとってこの件が大騒ぎされれば何だっていいのだ。個人的に気になるのは青峰がどういう対応をするのか。確実にマスコミが青峰にたかり出すはずだし、その時の反応次第でその人の人間性がわかると言ってもいいほど。どんなも反応をするかは見物だ。
俺は1人でガッツポーズをすると、早速記事を書くために会社に向かった。




***





【期待のワイルド系イケメンモデル 青峰大輝に熱愛発覚!お相手は一般女性?人気の無い住宅街で熱〜いキス♥】

今、期待の新人モデルとして注目を浴びている青峰大輝(24)に、熱愛が発覚した。青峰といえば、メンズ雑誌のモデルとしてはもちろん、最近では女性向け雑誌am.amにもセクシーモデルとして特集されている。バスケが好きで、中、高とバスケの名門校に進学し活躍していたほどの高度な運動神経の持ち主。某スポーツブランドのプロデュースもしており、その商品が使いたくてバスケを始めた若者も少なくないとか。モデルと言えば、かつてシャララ系モデルとして大ブームになった『キセリョ(黄瀬涼太)』のイメージが強いが、早くも世代交代だろうか?(余談だが、キセリョと青峰は中学からのバスケ仲間だそう。)青峰のギラリとした目付きは一見怖く思えるが、他のモデルにはないそのクールさがたまらない!と言う女子が急増中。そんなクールな一面を持つ青峰だが、大好きな彼女の前ではちょっと違うご様子。某日、20時頃に都内の駅前で彼女と思われる一般女性と堂々とハグをした後、濃厚なキスを交わしていた。女性は小柄で華奢な体型、色白で大人しそうな印象だ。青峰の変装アイテムはサングラスのみで、移動もタクシー。彼女がいることを全く隠すつもりがなさそうである。しばらくすると、2人は手をつないで住宅街の方へと消えて行った。この瞬間を目撃した記者が思うに、どうやら青峰の方が彼女にベタベタのようだ。ワイルドさやクールさを売りにしている彼だが、まさかこんな一面があるとは驚きだ。お相手の女性も清楚系であり、青峰のイメージとは正反対のタイプだ。女性ファンの多い青峰。今回の熱愛発覚により、彼の今後はどうなっていくのか?これからの活躍には、もちろん記者も期待したいと思っている。






***





青峰大輝の朝は、彼女であるテツナからのモーニングコールで起こしてもらうのが日課……というのは、青峰の理想である。
青峰の職業柄、規則正しい日々を送れないため保育士であるテツナとは時間のすれ違いが多い。
そのため、たまーにあるテツナの出勤時間と青峰の仕事の時間が被る日だけモーニングコールをお願いしている。今日はその貴重な朝に当たる。
ここ最近青峰の仕事量が圧倒的に多くなり、テツナとは全く会えていない。会えても本当に数時間のみで、学生の時のように一日中一緒にいられる日はほとんどない。
それを青峰が愚痴ると、テツナは「そりゃあ、もう少し一緒にいられたらとは思いますけど…お仕事なんだから仕方ないでしょう。というか君にこんなに仕事があるのはファンの皆さんのおかげでもありますからね、そのへんちゃんと…」と、説教が始まるので最近は文句を言わないようにしている。

テツナからの電話がなる前にうっすらと目が覚めたが、まだ起き上がる気にはなれない。青峰はぼーっとした頭で、そろそろテツの太もも舐めてえという変態思考なことくらいしか考えていなかった。
そこで青峰のスマートフォンが鳴り、青峰は半分寝ている状態でのろのろとスピーカー状態にして電話に出た。

『もしもし!?青峰っち!?俺ッスけど!』
「ん〜…テツ〜〜…?」
『違う違う黄瀬!!黄瀬涼太ッス!!!!!!起きろ!!!』
「…あ?黄瀬ぇ?」
『うわ、いきなりドスの聞いた声に……ってそれはどうでもよくて!あんた今日発売の週刊誌見たッスか!?』
「週刊誌ィ〜…?見てねえよそんなもん」
『撮られっちゃってんスよ!!あんたと黒子っちのいっちゃいちゃしてる写真が!!』
「へー」
『へーじゃねえよ!何してんスかあんたほんともうバカなんじゃないッスか!?今一番大事な時期なのに!』
「何でだよ、俺はアイドルでも何でもねえぞ。俺がいつどこでテツと会ってようが自由だろ」
『そ…そうッスけど!普通!!普通は!!!もっと!!焦ったり隠そうと!!するもんなの!!!!!!!』
「隠す意味がわからねえ。何で周りの目なんか気にしなきゃなんねえんだよ」
『あんたの場合は女子のファンが7割ッスよね!?そうなってくると普通は恋愛ごとはもっとコソコソすべきなんスよ!?いくらモデルでも!世間ではほぼアイドル扱いされちゃってんだから!あ〜ほらもうあんたの名前がツイッターのトレンドに……ヤッホーニュースにも……今はインターネットの力でこうやってすーぐ広まっちゃうんスからね!?』
「あ〜はいはい次からは気をつける」
『こういうのは一度撮られるとしつこいんスよ!叩けばもっとホコリでてくんじゃねえかって!もちろん写真の黒子っちにはモザイクかかってるけど、黒子っちは一般人なんだし黒子っちのためにももうちょっと何とかすべきッスよ!』
「…確かにテツの顔が全世界に知られて知らねえ野郎に可愛い可愛い言われてたらクッソうざいわ。マジで気をつける」
『そういう意味じゃねえから!!!!もーほんっとなんなんすかあんた、だから心配だったんすよこの業界に入って来た時!青峰っちこういうの疎いから!ていうか「モデルと言えばキセリョのイメージが強いが、早くも世代交代だろうか?」って俺マジとばっちりなんだけ』
ブツッ ツー ツー

ぎゃあぎゃあ騒いでいる黄瀬が面倒くさくなった青峰は一方的に電話を切ると大きい欠伸をしながら起き上がった。
と、再びスマホに着信が入る。画面に映る名前でテツナからだと確信し、青峰は電話に出た。

「もしも…」
『青峰くん!!!!あの、えっと、しゅ、週刊誌に!!僕たちが載って…!!!!』
「らしいな」
『らしいなじゃないです!!!!!!!大丈夫なんですかこれ!!!これ、あの時でしょう、青峰くんの仕事の合間に僕の家に来た時…あ〜もうだから外でベタベタするなってあれほど…!』
「なーにそんな騒いでんだよ。普通に付き合ってまーす彼女いまーす幸せでーすでいいじゃねえか」
『そ、そんな軽く乗り越えられるものなんですか…!?』
「平気だろ。まあ心配すんな、何かあってもテツには迷惑かけねえよ。そんなことよりテツ、明日俺久々に半日オフだから泊まり来い」
『…………はあ……』
「ていうかやっぱさっさと同棲しようぜ、そっちの方が絶対会える率高いだろ」
『……あのですね、人の話を』
「まあそれに関しては明日な。あー早くテツに触りてー。テツ不足でしにそう」
『……………本当に君って人は……』
「え?なに」
『……何でもないです…………………ほんっとうにバカ峰……』

この時点で既に青峰の適当っぷりに呆れていたテツナだったが、後日マスコミからの青峰への質問の返答を聞いて、更に頭を抱えることになるのだった。



***



この件はワイドショーでも取り上げられ、SNSでも話題になり、若者の中では軽い騒動になっていた。
そして週刊誌発売日以来、スポーツ関係のイベントで初めて公に出てきた青峰に案の定マスコミから突っ込みが入った。

「青峰さん!週刊誌の件は本当のことなんでしょうか?」

ノーコメントか、言葉を濁すか、まあ青峰のキャラ的にどっちかだろう…とその場にいた全員が思っていた。
緊張感漂う会場で、青峰は表情を微動だにせず、


「あ、うん」


…と、ひとつ返事で答えたせいで、『憎めないアホかっこいいモデルの伝説の一言』として後に語り告げられることになる。
「青峰あっさりすぎてかっけえええ」「彼女さんうらやましい」「男らしくてぶれないところがやっぱり好き」「何かもうかわいい」と、SNSで更に話題沸騰となり、人気に拍車をかけるきっかけとなってしまった。

その光景をテレビで見ていた、青峰の記事を書いた記者の男性は、予想の斜め上の青峰の反応に、引きつり笑いを浮かべるほかなかったという。











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