そいつぁーちょっとヤバいんじゃないでしょうか!?A | ナノ

そいつぁーちょっとヤバいんじゃないでしょうか!?A
青黒♀/上司(三十路)×新人(新卒)


【上司 酔った勢い 一晩】
【上司 一夜の過ち】
【上司 一晩 覚えてない】


「………僕は…一体何を…検索して……」

テツナは普段、インターネットを使うことがあまりない。今流行りのSNSも何もやっていない。
が、いつの間にか検索履歴がアレな内容ばかりになっていることに気付いたテツナはそのまま背後にあるベッドにひっくり返った。

「…はあぁああ………明日会社行きたくない…」

あの事件が発覚した土曜日の朝、テツナはそのまま自分のアパートに直行ししばらくベッドの上で丸まったまま、これは夢だと言い聞かせて頬をつねりまくった。
が、特に何からも覚めない。やはりこれは夢ではないらしい。
そして日曜日である今日、いい加減現実を見つめようととりあえず自分は明日どうすればいいのかとパソコンを開いたのだ。
が、自分で入力した生々しい検索履歴を見て明日が更に嫌になってしまった。

「……いや、何もしなきゃいいんですよね。今まで通り普通にしてれば…」

テツナ自身は今後青峰の存在をスルーしていく自信があるが、心配なのは青峰の方だった。
彼から何か突っかかってこられた時がやばいのだ。
今まで一言も交わさなかったのに突然普通に会話なんてすれば周りが黙っていない。しかも相手が社内人気ナンバーワンの青峰だ。平社員の自分なんかと話してたら不自然だ、とテツナはそのことが気がかりでならなかった。

「いや……あの青峰先輩だし……も、もしかしたらこんなこと日常茶飯事で今後は全く気にしないかも……うん、そう…そういうことにしておきましょう…」

と、若干失礼なことを思いながらこれ以上考えるのをやめることにした。

…そんなあっさり終わるはずも、ないのだが。



***



かつてこれほど会社に行くのに緊張したことはあっただろうか。下手したら初出勤日より緊張しているかもしれない。

(普通に……普通に…普段通りに…!)

と念じながらテツナが自分のデスクに鞄を置いた瞬間、背後からポンと肩を叩かれテツナはつい変な声をあげた。

「てっちゃんおはよ〜」
「あ…も、桃井さん…おはようございます……」

すぐ後ろに立っていたのは同期の桃井だった。
内定式の時から仲良くしてくれている、唯一テツナにとって『女友達』と言えるような存在だ。

「てっちゃん、金曜日は大丈夫だった?」
「え!?」
「てっちゃん気付いたらいなかったから心配しちゃったけど、べろべろに酔っぱらってたのを青峰先輩が介抱して送って行ったって聞いて…」
「……………は、はい」
「ごめんね、てっちゃんがああいう場所苦手なのすっかり忘れて私も他の席行っちゃって。無事に帰れた?」
「いえ、桃井さんが謝ることじゃ……あ、無事に帰れましたよ、青峰先輩が………タクシーで送ってくれて、」
「そっか、ならよかったー!ていうか青峰先輩とてっちゃん顔見知りだっけ?」
「や、全然顔見知りじゃないんですけどなんていうか近くにいたので!たまたま!青峰先輩には悪いことしちゃいましたいやほんと申し訳ないです、はい」

万が一誰かに青峰と帰ったところを見られていたらこう言おうと決めていたことを流すように言うと、桃井はそうなんだ〜と特に疑うこともなく呟いた。

「じゃあこれから社内ですれ違ったりしたら挨拶しなきゃだね」
「え」
「ほら一応お世話になった人だし…他部署だけど上司だし?一度そういうことがあったならさ」
「そ……………そう……ですね………」
「…まーここだけの話、私ちょっと青峰先輩みたいなタイプ苦手なんだよねー」
「え、そうなんですか……?」
「常にチヤホヤされてるからきっと天狗になってるんだろうなーって勝手に思ってるだけ。何か偉そうだし。でもてっちゃんをちゃんと家まで返してくれたなら感謝しなきゃね」
「…あはは……」
「…一応聞くけど、てっちゃん何もされてないよね?」
「えっ?」
「青峰先輩に!酔っぱらった女の子平気で襲いそうじゃんあの人。イメージだけど。そんなことされてないよね?」
「……さ…されるわけないじゃないですか、有り得ませんよ。相手僕ですよ?有り得ない有り得ない、すごい可愛い子ならわかりますけど」
「何言ってるの、てっちゃんだって十分可愛いんだからね!何もないならいいけど……あ、私もう行かなきゃ。またお昼にね」

一応…何とかうまくごまかせた、とテツナはホッと胸を撫で下ろした。
やっぱり、今回のことが誰かにバレたら相当厄介なことになるとテツナは実感した。大半は青峰先輩かっこいい〜だが、桃井のように青峰を特に良いと思わない人もいる…どちらにしろ、青峰自体有名な存在なので誰かに知られる訳にはいかない。

(………………”酔っぱらった女の子平気で襲いそう”かあ)

あくまで桃井のイメージではあるが、遊んでそうだなとテツナもやはり思わなくはない。
昨夜も思ったように、わりと本当に今回自分にしてきたことは初めてではなくてしょっちゅうなのかもしれない。

(それはそれで最悪ですけど…)

そうこうしているうちに始業時間になり、仕事に集中せねばとテツナは気持ちを切り替えることにした。



***



「青峰〜お前金曜日途中で帰ったやろ」

外回りから帰って来た青峰に、青峰の上司にあたる今吉が缶コーヒーを差し出しながら不満そうにそう言った。

「…あー、そんな気もする」
「何や用事でもあったんかー?途中から気付いた女子社員が青峰さんがいな〜いってうるさいうるさい」
「別になんも」

平然とそう言う青峰に今吉は耳元でボソリと、

「…新卒の女子連れて出て行ったの見たって証言がちらほらあんねんけど」
「!!」
「新卒を早速お持ち帰りか〜いや〜これだからモテる男は…」
「違っっっっげーよ!そいつがちょっとふらついてたからタクシー乗せてやるとこまで付き合ってやっただけに決まってんだろ」
「へ〜〜〜〜〜?」
「…信じてねえなクソメガネ」
「まーお前意外とそういうことせえへんもんなあ。酒の勢いでやらかしたとかあんまりないやろ、変なとこ真面目やな〜ほんま。そういうところがまた素敵〜とか言うねんで女子らは」
「意外とって何だよ…」

確かに、青峰は昔からモテるわりにそういった過ちをおかしてきたことはない。
遊んでそうに思われることはよくあるが、不器用な面はありつつも案外恋愛に関しては真面目な方である。

(…だから、こないだのことは本当に悪いと思ってっけど…謝る以外にもうどうしようもねえし、ていうかもう赤の他人宣言されたしどうしようも……)

新卒女子社員の酔っぱらった姿を見て欲情しました、なんて誰が言えるか。
しかしそれが事実で、合意がないあたりゲスすぎて青峰のモヤモヤは解消されそうもない。

(…あーしかしエロかったな。正直胸はねえけど手の平サイズで気持ち良かったし。なんていうか鎖骨とか首とか舐めたくなるしすげえエロい喘ぎ声と顔すんのなアイツ…………って何感想述べてんだ俺は!)

『……じゃ、青峰せんぱい………、僕に、エッチなこと、教えてくだしゃい………………』

テツナとの情事中を思い出していると、ふと頭の中で再生された台詞。
…つまりあれは。あの言葉から推測するに、初めてだったということだろうか。
だとしたら、ますます頭の中は罪悪感でいっぱいになる…なんてことを考えていると、テツナの痴態を次から次へと思い出してしまい青峰はハッとする。仕事中に何を考えてるんだ、と。

「………ちょっと外の空気吸ってくる」
「今まで外回りでいっぱい吸ってきてたんやないんか…ま、16時半からミーティングあるからそれまでには戻って来いな〜」

青峰はふらりと廊下に出て給湯室の前を通り過ぎたところでピタッと立ち止まった。
給湯室に、見覚えのある後ろ姿の女子社員がお茶をくんでいた。
…この髪型、この身長、この華奢さ、多分こいつは間違いなくー…

「おい」
「ひぁっ!」

ビクッと肩を揺らして青峰の方を振り向いたのは、やはりテツナだった。

「………!!!!!」
「…そんな不審者に遭遇した時みてえな顔すんじゃねえよ」

青峰は狭い給湯室の出入口に腕をついて、テツナが簡単には出て行けないようにした。
が、テツナはキッと睨むような表情でお茶が乗ったトレーを持ち、ズカズカと青峰に近付いてきた。

「そこどいて下さい。邪魔です」
「あのさー近々暇な日ねえ?」
「ありません。今日も明日も明後日もその先も予定がうまっています」
「超多忙じゃん」
「そうです僕は忙しいんです。なのでそこをどいて下さい」
「ちょっとでいいから。飯食いに行くくらいいだろ」
「はあ?何で僕があなたとご飯に行かなきゃならないんですか?あなたのことが大好きな女の子たちと行ったらいかがですか」
「…お前が怒ってんのはわかってる、だから俺はそれなりの責任をとろうと思ってんだよ。ていうかとらせてくれ」
「…責任って?どうしてくれるって言うんですか」
「……それは、」

責任をとりたいとは言え、確かにどうすべきだろうかと青峰は黙り込んだ。
テツナはそんな青峰を見て深くため息をつく。

「……別に、本当にもういいんです。彼氏がいるわけでも好きな人がいるわけでもないので。そりゃショックですけど、僕自身その時のこと覚えてませんし……なのでもう本当に忘れて下さい。青峰先輩がいつまでも気にすることありません。だから、」
「…お前今、彼氏も好きな人もいないって言ったか?」
「…言いましたけど?悪かったですねあなたと違って生まれてこのかた恋愛なんてしたことありませんよ」
「それだ」
「え?」
「俺と付き合え」

青峰が発した言葉の意味を理解するまでに何分かかっただろうか。
テツナはそれくらい頭が回らず、何も言葉が出なかった。

「いやもう、それしかねえだろ。あとのことはどうとでもなる。よし、決まり」
「…はあああああああああ???何がどうして僕があなたと付き合わなきゃいけないんですか、からかうのもいい加減に…っ」
「からかってねえよ、本気で言ってんの」

真面目な表情でポン、とテツナの頭を撫でてきた青峰に、テツナはついドキッとしてしまった。

(…いやドキッじゃなくて!)
「嫌です無理です却下です!!!!!」
「とりあえず今日の21時に…そうだな、C駅で待ち合わせるか。絶対来いよ」
「行きません!!!!!!!」
「じゃ、待ってるからなー」

青峰はひらひらと手を振りながらあっさりと行ってしまい、テツナは開いた口が塞がらなかった。

(……え?は?本当に意味がわからない…何考えてるんだろうあの人……ど………どうしよう…)

青峰が本気で言ってるにしろ、冗談にしろ、とにかくこのまま放っておいても青峰は簡単には引かない気がする…。
さっきの青峰の真面目な表情を見て、テツナは何となくそう思ったのだった。








★to be continued…








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