そいつぁーちょっとヤバいんじゃないでしょうか!?@ | ナノ

そいつぁーちょっとヤバいんじゃないでしょうか!?@
青黒♀/上司(三十路)×新人(新卒)


知らない天井。
知らない部屋。
知らないにおい。

そして隣には、知らない男がこちらに背を向けて寝ていた。




「…は………?????」




私立の高校を卒業し、ほどほどの大学に入学し、ほどほどの企業に就職が決まり、何ともスムーズな人生を送ってきた。
年頃だというのに恋愛に関して何も経験しないまま、つまり歳の数だけ彼氏なんていないテツナがこんな状態になることは考えられない。
つい昨日まで真面目すぎる日々を過ごしてきたテツナにとって、今までの努力が全てがパーになった気がした。

(…嘘だ。夢だ夢、…)

自分はもちろん隣に寝ている男も恐らく素っ裸、ベッドの下には着ていたシャツや下着が散乱していた。
テツナはガンガンと痛みを感じる頭を抑えながら、こんなのドラマでしか見たこと無い光景だとぼんやり考えた。
夢なら早く覚めろと自分の頬をぺしぺし叩いていると、男がもぞもぞと身体を動かす。

「……んー…」
「!!」

少し動いただけでこちらは向かず、寝ぼけているようだが、この無駄にセクシーな低音ボイスにテツナは背筋が凍る。

(ま まさか……………)

入社したばかりの時から『営業部にめちゃくちゃかっこいい上司がいる』と、同期が騒いでいた。
浅黒い肌に短髪、かなりの高身長で体格も良く見るからにスポーツマン。営業には必須な爽やかさや愛想の良さがあるのかと言ったら微妙であるが、口説き文句が上手いのか売上成績は至って良好。しかも後輩への面倒見が良く意外にも優しいらしい、とにかく何もかも男らしすぎてやばいと女子社員から大人気!
…という情報しか知らなかったテツナだが、他部署とはいえ彼……”青峰大輝”はかなり目立つ存在だった。
青峰を社内で見かけるたびに『こりゃ女子も黙っちゃいませんね』と自分も女子であることを忘れてぼんやりそんなことを思っていた。

それだけだ。青峰とは、話したこともなければ目を合わせたこともない。
だからこんな自分とベッドの上でしかも裸でいるなんて有り得ない、とテツナはこの期に及んで現実から目を背けようと必死だった。
それにもしかしたら声が似てるだけで違う人かもしれない。いや違う人でも問題だが、あの有名な青峰と一夜明かしてしまったよりはマシだ。
そうだ、この人が青峰という確証はまだどこにもー…

「ん…」

そんなテツナを追いつめるかのように男は突然ゴロリとこちらに寝返り、その寝顔を見た瞬間テツナは頭を抱えた。

(やっぱ青峰先輩だったーーーーーーーーーあーーーーーーーー泣きたいいいいい……)

どうしよう。いや本当に。笑えない。
ていうか待って、そもそもどうしてこうなったんだろうか。思い出さねば…


***


昨日は花金ということでみんなで飲みに行こうということになり、青峰が所属している営業部の一部も参加していてまあまあ大人数の飲み会であった。
こういう集まりが得意ではないテツナは内心気乗りしなかったが、新人なんだし出ておかないとアレかな…と渋々参加した。
最初のうちは同期の女子とマイペースにちょびちょび飲んでいたが、その同期達は酒が回るにつれ他の席へと移動し盛り上がっていた。
カルーアミルクしか口にしていなかったテツナは一人シラフ状態で取り残された感満載のまま端っこで枝豆をつついていると、いきなりどかっと隣に座ってきた男がいた。それが青峰だった。
突然会社で人気の上司がすぐ隣に座ってきてテツナはついビクッと肩を揺らした。
…ああ確かに、かっこいい。そしてでかい。あと黒い。

「何飲んでんのそれ」
「えっ、あ…カルーアミルクです」
「あーあのクソ甘ったるいやつな」

意外にも、他の社員のように酔っぱらった様子がない青峰にテツナは少し驚く。

「…あ、青峰先輩は、お酒飲まないんですか」
「結構強いんだよなー。別に酒は好きでも嫌いでもねえけど、ああいうバカ騒ぎはもうできねえな。歳的に」

青峰は苦笑しながら先程から楽しそうに騒いでいる酔っぱらいグループを見る。
ほんと何してんだあいつら、とバカにしているというよりは楽しそうにしている同僚や後輩を微笑ましく思っている感じだ。

「…歳的にって、まだ若いですよね?」
「いやー俺もう三十路だぞ」

テツナは持っていたグラスを落としそうになった。

「え…!?!?!?」
「よく若く見られっけど、もう中身はオッサンだわ」
「…に、26歳あたりだと……」
「はっ、そのへんの歳に戻れればいいけどなー。あんた新卒だろ、あっちに参加しねえの」
「…はい…、」
「まあ見るからにどんちゃん騒ぎするようなタイプじゃないよな」
「…でも、たまにいいなって思います。ああいうの見て。酔っぱらうほど飲んだこともないので」
「そういうカクテル系ばっか飲んでるからじゃね?ビールは?」
「ビールはあんまりおいしいと思えなくて」
「じゃあワインだな、このへんなら飲みやすいぞ」
「……じゃあちょっと飲んでみたいです」


***


(………そうだ。そう。思い出した。青峰先輩が隣に来て…ワインが意外においしくて…結構飲んじゃった気がする…やばいその後が覚えてない…)
「おい」

テツナが回らない頭を使って必死に思い出そうとしていると、いつの間に起きたらしい青峰が背後からポンと肩を叩く。

「!!!!!!!!」
「んな化け物見たみてえな反応すんなよ…」
「す、すみませ…」
「あのさあお前…昨夜のこと覚えてるか?」
「…わ…ワインを……飲んだ…あとは……しらない…です………」
「だよなー…あー……」

青峰は上半身は裸であったが、下はズボンを履いていた。
改めて青峰の男性らしい筋肉質な体を目にして、テツナは恥ずかしくなり目を背けた。

「………もうわかってるとは思うが……………悪かった」
「…あ…、あの…どうしてこうなってしまったんですか…」
「……………いや、全部俺のせいだ。本当に悪かった」
「え、ちょ、そ、頭上げてください…」

青峰は真剣に謝り、頭まで下げてきたためテツナは慌てた。

「…申し訳ないんですが、本当に覚えていなくて……その、僕何か失礼なことしたり、言ったりとかは……」
「……………………………ない…と思う」
「と思うってやっぱり僕何かしたんですねああああもおおおおおすみませんすみませんせみま」
「いや違くて!違くねえけど!俺がいけねえんだって全部!」
「じゃあせめて経緯を教えてください!先輩は覚えてるんですよね!?」
「…………聞いたら後悔すると思うぞ」
「…何も知らないまま過ごすなんて無理です」
「……………じゃあ…話すけど、」


***


「おいお前もうやめとけ…」
「え〜〜〜〜〜〜〜?なんでですか〜〜〜〜??勧めてきたのはあおみにぇ先輩じゃないですか〜〜〜」
「いやそうだけどよ、誰がこんなんなるまで飲めと」
「だっておいしいんでしゅ〜〜〜〜〜」
「はいはいはいはい終わり終わり!お前タクシー乗せてやるからもう帰れ」
「え〜〜〜〜〜〜」

さっきまであんな大人しかったというのに、酔っぱらった途端これである。
予想以上にべろんべろんになってしまった彼女を放っておくわけにもいかず、青峰はテツナを何とか立たせた。
テツナと同期であろう女子達もあちらで盛り上がっているし、酒慣れしていない彼女にワインを飲ませた自分にも責任があると青峰はふらっふらのテツナを支えながら外に出た。
青峰はタクシーをつかまえてテツナを後部座席に乗せるが、テツナが青峰の腕を離す様子はない。

「おい、お前んちの住所言え。そして腕を離せ」
「やです〜…青峰先輩、いいにおいしましゅ」
「待てこら寝るなよ……おい…寝るなよ………?」
「……すー………………」
「………………………」
「…えっと、お客さん、どうします…?」
「…あー…………俺も乗ります。で、A駅まで行って左側入るとコンビニあるからそこを………」

…一番取りたくなかった方法だが、青峰はテツナの家を知らないし、もうどうしようもない。
青峰は自分が住むマンションにテツナを一晩泊めることにした。








「ベッド使っていいから、大人しく寝てろ」

青峰は家に着くなりテツナを寝室のベッドに寝かせ、そそくさと去ろうとするとそこでもやはり腕を掴まれた。

「…何だよ」

とろーんとした表情かつ上目遣いで見つめてくるテツナに、青峰はムラッとしたがいやいやいやと首を振った。

「……あおみねせんぱい…………」
「?」
「ん…、」

テツナは膝立ちになり、ぎゅうっと青峰に抱きつきキスをせがんだ。

「!?ちょ、おま………!」
「んぅ、せんぱい、ちゅー…」
「いやいやいやいやいやマズイだろそれは!俺はあくまでお前を介抱しただけで……とにかく、そういう目的じゃねえぞ!一応!多分!」
「ん〜…、やぁ、ちゅーしてくださいぃ……」

テツナの甘ったるく色気のある声に、甘えて来る仕草に、青峰は無意識にぞくぞくした。

(…あんな大人しそうな奴が、酒入っただけでこんなにエロくなるのかよ?危なっかしすぎだろ、こいつ…)

「…お前これから男の前で酒飲まない方がいいな」
「……ふぇ?」
「気を付けねえと簡単にお持ち帰りされるぞ。だからー…」

ふと気づくと、テツナは自ら着ていたスーツを脱ぎ下着姿になり、呆然としている青峰を押し倒し馬乗りになった。

「ちょ………マジタンマ…………」
「僕……こういうことしたことないので、してみたいんれしゅ、」
「………いや…まてこら、マジで、なにこのAVみてえな展開、」

レースが控えめについている白い下着は、テツナの真っ白な肌に溶け込んでいた。
かなり着痩せするのか、体はほっそりしているのに巨乳とはいかないまでも胸はそれなりにある。
いくら何でもこれは、青峰の理性も崩壊寸前だった。

「おいからかってんならいい加減にしろ、俺だって男なんだぞ…」
「…ん……じゃ、青峰せんぱい………、僕に、エッチなこと、教えてくだしゃい………………」




***


「………その後はお察し…」
「…………うそだと言ってください……」
「な?聞いて後悔しただろ……知らぬが仏ってこともあんだよ……」
「………う…うぅ……」
「…まあだから、我慢できなかった俺が悪い。本当にごめんな」
「……い…いえ……僕の…不注意です………」

自分は酔っぱらっただけでそんな風になってしまうのか。信じられないが、青峰の様子からして嘘を話しているようには思えない。
というか、穴があったら入りたい。上司に向かって、しかもあの青峰先輩に、なんてはしたないことをしたのだろう。泣きたい。

「…本当に、ご迷惑おかけしてすみませんでした」
「………いや、でも、」
「今回のことは綺麗さっぱり忘れてください。というか僕の存在を忘れてください。そしてこのことは先輩のためにも僕のためにも内密にお願いします。月曜日からは今までどおりに戻りましょうそうしましょう。着替えたら即座に出て行きますので洗面所貸して頂けますか」
「……いいけど、おい、」
「本当にご迷惑をおかけしました!!」

テツナは自分の荷物とスーツを抱えると寝室を出て行き、何かマジックを使ったのかと思うほど素早く着替えると颯爽と青峰の家を出て行った。

「……………忘れるとか、無理だろ」

…色んな意味で。

「大体あんな……エロい顔しやがって………、あーくっそ、………つーかいい歳した男が新卒に手出したとかもうマジ………」












((月曜日からどんな顔で仕事していけばいいんだ…………))















★to be continued…













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