お前以外どうでもいいってこと2 前編 | ナノ

お前以外どうでもいいってこと2
青黒♀/宅配ドライバー×本屋店員




「テツ襲いたい」

十二月の半ば、トラックを降りてすっかり冬だなと鼻を啜る火神の背後からそんな呟きが聞こえて、彼はついヒッと声を出した。

「青峰…テメーいきなり背後から来んなよ、ビビるだろ…しかも何だよ襲いたいって…もう付き合ってんだろ?」
「…そうだけどよ」



あのイケメンドライバーに彼女が出来たらしい、という噂はそれはもう一気に広まった。
しかも青峰の方がメロメロのベタベタだという。あんなにも女に執着しなかった青峰が何故…と、周りの男性は疑問に思い青峰を狙っていた女性達は悔しがった。
青峰が勤める運送会社の先輩から後輩、駅ビルの顔見知りの店員達、多くの人間が一体青峰をベタボレさせる女はどういう子なんだと散々本人に問いただしたが、青峰は一切彼女のことを教えてくれない。
普通彼女ができたら少しくらい惚気たくなるだろ…と青峰の上司にあたる日向がそうこぼした時に、青峰は言い放った。


「俺がテツのことを話したり見せたりしたせいでお前等がテツに惚れちまったらどうすんだよ」


真顔でそう言う青峰を見て日向はドン引きしながら思った。
ああ、コイツの彼女になった子溺愛されすぎて超苦労しそうだな、と。




「付き合って三ヶ月でまだ手を出してない………!?」
「ああ」
「え、お前ちんこついてるか…?」
「立派なやつが」
「だよな……」

あの青峰が。どこからどう見ても肉食系だし実際中身も自己中かつ強引な部分がある、あの青峰が。
今時の高校生でも一ヶ月も経たないうちにそういうことはやっちゃうんじゃねーのか…?何の冗談だ?
そんなことを思いながら火神は有り得ないという顔で青峰を見る。が、当の本人は全くもってふざけているわけではなさそうだ。

「だってテツのやつ触れるだけのキスでビクってなるんだぜ。可愛すぎるだろ」
「…はあ」
「で、頭の中では今すぐ押し倒したいめちゃくちゃにキスしたい泣かせたい啼かせたいマジテツ可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いってなってんだけど」
「キモ…」
「なーんかその先にいけねえんだよ…いやそこで押し倒しせば話は早いんだけど身体が動かねえんだよ。こんな純粋無垢な天使俺が汚していいのかって考えるんだよ。で、やめとこ!ってなるんだよ」
「やめとこ!じゃねえよ……お前本当に青峰?」

(あんなに女遊びが激しかった奴が、心底好きな奴が出来るとこうも変わるのか…すげえ……)

「…え、お前確か一人暮らしだよな?まだ家に入れてないってことか!?」
「当たり前だろ、俺んちなんかに入れたら玄関入って二秒で襲う自信しかねえわ」
「まじかよ…じゃあお前等普段どこで会うんだよ」
「今の所映画と水族館と公園しか行ってない」

予想以上に健全すぎる青峰の返答に火神はつい吹き出し、青峰がギロリと睨む。

「チッ、お前に相談した俺が馬鹿だったわクソが。じゃあな」

青峰はそう言い放つと台車を押して納品用入り口へと向かって行った。
取り残された火神はつい一言。

「え、今のって相談されてたのかよ…わかりにく……」








「あ」
「あ」

平日の夕方、青峰がトラックに戻ろうとエレベーターに乗り込むと私服姿のテツナとばったり会った。
マフラーをぐるぐるに巻いてるのが何だか可愛い。

「お疲れ様です」
「おー。これからバイトか」
「はい。今日はラストまでです」
「は?何でそれもっと早く言わねえんだよ。バイト終わったら連絡しろ、迎えに行く」
「気持ちは有り難いけど今後は遠慮します、もう何回僕が君といるところをバイト先の人に見られたことか…」
「別にいいだろ、付き合ってんだから」
「君はいちだんと目立つから嫌なんです。とりあえず今日は大丈夫なので」
「おめーそんな嫌なら覚悟しとけよ、店まで迎えに行ってやるから」
「それだけは絶対嫌ですほんとやめてください」
「冗談だよ。じゃああがる頃に外で待ってっから。テツに何かあってからじゃ遅いだろ」
「…………」

テツナは観念したのか、それなら、とこくりと頷いた。

「ん。ほら着いたぞ、いってら」

ぽんぽんとテツナの小さな頭を撫でると軽く睨まれたが、テツナが頭を撫でられることに満更でもないのは青峰が最近知ったことである。
子供扱いするなという態度はとるが、どこか嬉しそうなのだ。

「……寒くないとこにいてくださいね」
「おう」
「あと本当にお店には来ないで下さい、彼氏がバイト先まで迎えにとか僕的に恥ずかしすぎますから」
「行かねえよ」
「絶対ですよ!」
「わーったから早く行け!」

なかなか降りようとしないテツナに、青峰は何回も閉まりそうになるエレベーターのドアを押さえてやっていた。
テツナは渋々とエレベーターを降りると、

「…じゃ、またあとで」

なんて少し恥ずかそうに言って、小走りでバイト先に向かって行った。
だんだん遠くなって行く愛しの彼女の背中を見て青峰はぽろりと呟いた。



「…たまらん」
















例のセクハラ副店長は結局辞めさせられ、今もテツナは本屋でバイトを続けている。
青峰の休みは不定期だが、平日休みでもテツナのバイトが入ってなければ夕飯くらい食べに行けるし、大学の講義が午前で終わる日はほとんど一日中一緒にいられる。
今日もこうして、仕事が休みである青峰は講義が終わったテツナと待ち合わせて夕飯を食べに来た。
いつも何が食べたいか聞くと何でもいいですというテツナが珍しく目を輝かせて「ここに入りたい」と主張した場所。パンケーキカフェだった。
客層が明らかに女性ばかりで、ちらほらカップルはいるものの青峰並の巨体の男性は見当たらない。店の雰囲気からして確実に浮くと確信した青峰だったが、愛しのテツナが入りたいと言ってるのだ。反対するわけにはいかない、そう思った青峰は一つ返事でテツナの後についてカフェに入った。

「俺が知ってるパンケーキと違う…」
「え?」
「最近のやつは魚とかゴーヤがのってるんだな」
「サーモンって言って下さい。しかもゴーヤじゃなくてアボカドです」

生きていて初めてパンケーキカフェなんぞに入った青峰は驚きの連続であったが、テツナは相変わらずうきうきとしながらメニューを眺めている。
可愛い可愛い自分の彼女が楽しそうならまあ何でもいいか…と思った青峰は適当に自分の分のパンケーキを選んだ。




女の子ならお腹いっぱいになるである量だったが、平均の男子より体格のいい青峰はパンケーキなんてものはぺろりとたいらげてしまった。
帰ったらラーメン食お、と思いながらいまだにもぐもぐとパンケーキを食べているテツナをじーっと見る。
相変わらず大きく表情は変わらないものの、どこか幸せそうにパンケーキをつついていた。

「うまいか」
「はい、すっごく美味しいです」
「…よかったな」
「はい」

青峰はちょっぴり微笑んだテツナを見て、ああ可愛いと頭の中で呟いた。

「…というか、青峰くん」
「んー」
「そんなに凝視されてると、食べにくいです」
「だってやることねえんだもん」
「だからって僕が食べてるとこ見てても面白くないでしょう」
「面白いっつうか可愛い。和む」
「…………何言ってるんですか」

至って真面目に答えたというのに、テツナは頬を赤らめて再びパンケーキを口に運ぶ。

(なんだこのウブな反応…………ヤりたい………)

まさか自分がパンケーキを食べている目の前で、彼氏がエロいことしか考えてないとはなかなか思わないだろう。
結局テツナが食べ終えるまで青峰はその様子をガン見しては下ネタで頭がいっぱいになっていたのだった。













職業柄、基本的に車で移動する青峰はデート後もテツナを家の近くまで送って行く。
車の中は外と違って密室で、自分の部屋に入れたわけではないが近いものを感じてついムラムラしてしまう。
いつものように助手席にちょこんと座り、ただ単にぼーっとしていると思ったテツナが口を開いた。

「…さっきの」
「んあ?」
「…青峰くん、しょっちゅう僕を可愛いとか言いますけど、女性にはよく言うんですか」

運転中の手元が狂いそうになった。
…何を言い出すんだ、この娘は。

「誰にでも言うわけねえだろ…」
「そうなんですか?」
「俺が可愛いなんて思うのは、テツにだけだな」

しれっとそんなことを言いながらいつもの場所に車を停める。テツナの家の近くだ。
いつもならここで有難うございましたと礼を言って降りる準備をするテツナが、今日は何も言わない。

「?着いたぞ」
「…青峰くん」
「あ?」
「じゃあ、何で、何もしてくれないんですか?」

テツナは少し恥ずかそうに、でも不満そうな顔をして青峰を睨んだ。

じゃあ何で何もしてくれないんですか?
じゃあ何で何もしてくれないんですか?
じゃあ何で何もしてくれないんですか?

青峰はその一文の意味を理解するまで固まったままで、数秒後にようやく発したのが「えっ」というキャラに合わない裏返った声だった。
そんなぽかんとしている青峰を見て自分の言った台詞に恥ずかしくなったのか、テツナはかああっと顔を真っ赤にして急いで車を降りようとし始めたので青峰は慌ててテツナの細腕を掴んだ。

「ちょちょちょちょちょちょい待て待て待て」
「すみませんでした変なこと言って!忘れてください!」
「忘れられるかっつーの、つーかおいこらちょっ、おま、暴れんなって」
「やだ!離して下さい…っ!」

恥ずかしくて目も合わせられないのか、テツナは顔を赤らめて俯かせたままだ。
これは下半身的な意味でマジでやばい…と思った青峰はテツナの小さな顔を両手でがっしり挟んで上を向かせると、テツナは眉毛を八の字にして涙目になっていた。

(あ、もう無理、)

そんなテツナの反応にムラッときてから青峰はもう、気付けばテツナの唇を貪っていた。

「んっ、ふ、んぅ…っ」
「…は、なに、何もしてくれないって、誘ってんの?テツを大事にしたいから手ェ出さなかっただけで、俺はいつでもテツとセックスしてえけど?」
「……っ」

青峰の直接的な発言にテツナは目を伏せる。
しかしその初々しすぎるテツナの反応は、青峰をただ興奮させるだけだった。

「…なあ、」
「っ!」

ふぅ、とテツナの耳に息を吹きかけながら舐め始めるとテツナはびくりと身体を震わせた。

「…テツ、」
「…やっ、…」
「テツとセックスしたい。テツのことめちゃめちゃにしたい」
「っひゃ、やぁ……っ…!」

耳元で、そんないい声で、そんなことを言うなと反論したいテツナだが、主導権はすっかり青峰に握られていて何も言えない。

「…テツは?」
「…へ、」
「テツもしたいと思ってんの?」
「………っ…」
「少しでも怖いとか不安があんならまだ俺はしたくねえ。テツもしたいと思わないと意味ねえし」

お前もはや青峰じゃないだろという火神の声が聞こえた気がした。
ほんと、我ながら昔と比べてかなり変わったと思う。というより、こんなに心の底から愛おしい彼女が出来たのが人生初なのだが。
ただ性欲が満たされたいだけではない、それなら一人で抜けばいい話。
テツも気持ち良くならなければ意味がない行為だ、と青峰は思ったのだ。

「……、…」
「ん?」

そんなことを考えているとテツナが消えそうな声を出して何か言おうとしてるので、青峰は耳を傾けた。







「…僕も…、……あおみねくん、と、…エッチ、したい……」
















…はい、

さようなら俺の理性。












to be continued.












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