君だらけの脳内 | ナノ

君だらけの脳内
黄黒♀/モデル×大学生/R15



『おい黄瀬、何でテツあんなとこでバイトしてんだよ?』

丁度今日の仕事が終わったところに電話がかかってきた青峰っちからの一言目が、それだった。
俺はその発言につい顔をしかめる。

「へ?黒子っちバイトしてんの…?」
『何だよ、彼氏のお前が知らねえのかよ…どうなってんだ…ってことはテツお前に内緒で……あー…』
「ちょ、待って、どういうことッスか?何!?つーかあんなとこって、どんなとこでバイトしてたの!?青峰っちが見たんスか!?」
『ついさっき、テツがガールズバーっつうのか?それっぽい店に入ってくの見た』
「ガールズバーって…カウンター挟んで男相手に接客するやつッスよね……」
『そうそうキャバの一歩手前みてえなやつだよなー。外の看板見る限りまあ普通にガールズバーぽかったけどな』
「普通にって…」
『ガールズバーっても色々あんだろ。衣装が過激とかマニアックなやつとかよ』

電話越しに聞かされる情報に目眩がした。
俺の仕事が過密スケジュールすぎて、1ヶ月半は黒子っちと会えていない。
1日1回はメールをするものの大した内容ではないし、俺の生活が不規則なためお互いが時間がある時にゆっくり電話もできない。
というわけで黒子っちの近状をまるで知らなかったわけだが、しばらく会わない間に女子大生である彼女がガールズバーで働き始めただなんて誰が思うだろうか。ましてやそんな職種に無縁のような彼女が。

『…いやほら、大学入ったらバイトしたいってテツずっと言ってたじゃねーか!別にバイト自体はそんな悪いことじゃな』
「人生初のバイトがガールズバー?しかも俺に内緒で?」
『……………………それな…』

黒子っちがバイトをするのは別にいいとして(いや極力他の男と接してほしくないから正直嫌だけど)、バイトを始めたことくらいメールで言えるだろう。しかもそのバイト先がガールズバーって。客は完全に酒の入った輩。もちろんたくさん会話もするだろう、それが仕事なのだから。そもそも俺に内緒にしてる時点で、俺にバレたらまずいってわかってる。

「…ッチ、」
『…あーとりあえず落ち着け黄瀬、テレビでは笑顔振りまいてる芸能人が舌打ちとかやめておけ』
「べ つ に、落ち着いてっけど?」
『お前が今めちゃくちゃ物騒なツラしてるのが容易に想像できるわ……』
「…青峰っち、そのガールズバーの店の名前教えて」
『あ?………おい、まさかお前』
「そのまさかッスね」


ー黒子っちは誰のものかって、わからせてあげないと。








このバイトを始めてから世の中色々な人がいるんだなと思う。
こちらから話しかけなくてもたくさん話を振ってくれる人、全然喋ろうとしない人、会社や家庭の愚痴、悩みを話したい人、ただ他愛のないお喋りをしたい人……明らかに下心満載の人もちらほらいるが。
お触りなどは一切禁止で万が一そういうことをされた場合は強制的に退店させられ、酒も苦手なら無理に飲まなくていいという。最初こそ少し抵抗のある仕事内容だったが、店長もいい人だしこの店はかなり良心的なようだ。
…とはいえ黄瀬くんに黙ってこんなバイトをしているのはそれなりに罪悪感があった。ただでさえ嫉妬深い人なのに、バレたらとんでもないことになる、と。

(…でもこのバイトも今日で終わりだし、これでようやく黄瀬くんのー…)
「テツナちゃーん、お客様。1名ね」
「あっ、はい、いっらしゃいま…」

店長の声で我に返りカウンター越しに座った客に目をやると、そこには。

「……っ…!?」

帽子とマスクをとった目の前の男は、1ヶ月半ぶりに会う恋人…黄瀬くんだった。

「…久しぶりッスね」

にこりと笑いかけられたが、目が全く笑っていない。
その冷たい表情にぞくりと背筋が凍る。

「……なん、で…」
「黒子っちこそ、何でこんなとこでバイトしてんの?」
「……っ…」
「ここのガールズバーの衣装って制服なんスね。スカート短すぎだけど。腹チラまでしてるし」
「黄瀬くん…っ、あの、」
「言い訳ならじっくり聞いてあげるから」

黄瀬くんはそう言って立ち上がると、にぎわう店内とは正反対のトイレを指さした。
この先起こることは想像できたが、今の僕には黄瀬くんに従う以外、選択がなかった。









静かなトイレの個室に2人で入った途端、身体を思い切り壁に押し付けられる。
力強く掴まれている肩が痛い。

「ねえ何なの?何でこんなとこでバイトしてんだよ。しかも俺に内緒で」
「黄瀬くんっ、あの、これは…っ」
「もう俺のこと嫌いになったの?飽きちゃった?他の奴がいいわけ?渡すわけねえじゃん、他の野郎になんて」
「ち、違います……!そんなことあるわけ…」
「じゃあ何で?何でわざわざこんな盛りのついた男だらけのとこで働くんスか?」
「やあっ……!」

Yシャツのボタンを途中まで外されて胸元に舌が這ったかと思うと、同時にするりとスカートの中に手を入れられて太腿を撫で回され
てつい高い声が出てしまう。

「何か欲しいものでもあんの?」
「っあ、ふぁ、あ…、」
「だったら俺が買ってあげるから。何でも買ってあげる。ね?」
「んっ、んぅ、」

ブラジャーの隙間から手を入れて突起を転がしながら深く口付けられ、何か言おうとしても言葉にならない。
自分の顎に飲みきれない唾液が流れるだけだった。

「別れたりとか絶対しねえから。絶対、離してやんない」
「きせ、くん…っ、」
「お願い黒子っち、俺だけを見て、…お願いだから、」

黄瀬くんは懇願するようにそう言うと、ぎゅうっと強く抱きしめてきた。
そんな状態の彼を目の当たりにすると罪悪感ばかりがつのり、僕はもう本当のことを言わなければと決めた。

「…黄瀬くんの誕生日が…もうすぐだから、」
「……え?」
「前に黄瀬くんが2人で旅行行きたいねって言ってたから…その旅行を、プレゼントしたくて…でも1ヶ月前にようやく大学生になったから、それから普通にバイトしてたら黄瀬くんの誕生日に間に合わないって思って……短期間で高収入のバイト探して…」
「…じゃあ全部俺のためだったんスか…?」
「はい。…でも黙ってこういうバイトされたら確かに嫌ですよね、ごめんなさい…」

本当のことを言って謝罪をすると、ぽかんとした表情をしていた黄瀬くんが途端にふにゃりと泣きそうな顔になる。

「っ……俺こそごめん、勝手に勘違いして色々言っちゃって……黒子っちの気持ちは嬉しいけど、…でもやっぱりこういうとこでは働いてほしくないッス……」
「はい…、でももう丁度今日で終わりなので…」
「ていうか!旅行代なんて俺が出すからまだ学生の黒子っちがここまですることなかったのに…!」
「でもたまには僕から黄瀬くんに何かしてあげたかったんです…」
「俺は黒子っちと一緒にいれるだけで十分ッスよ!……まあとにかくもう絶対ダメだからね、こんなバイト!」
「わかってますって、もうしないですよ」

わかったならいいけど…と、息をついた黄瀬くんがハッとしたように口を開く。

「てか、ここで働いてた間、客に変なことされなかった?」
「さ、されてないです」

ちょっと返事が遅れたうえに目をそらしてしまった。
それをこの男が見逃すはずがない。…あ、やばい、これはやばい。

「…何、今の間?何で目そらすの?」
「いえほんと何もされてないですここお触りとか禁止ですしほんとに面白いくらい何もなさすぎて」
「…黒子っちって嘘ついてる時手そわそわし始めるよね」
「………………」

…何とか穏便に終わるはずだったのに。のに………!!

(黄瀬くん、また目の色変わっちゃってます……!)





「…今までここで働いてた間にあったこと、どんな細かい内容でもぜーんぶ、詳しく聞かせてもらおっか?」




異常な独占欲で溢れ返っている黄瀬くんに、再び壁に強く押し付けられる。


じわり、と冷や汗が出てきたのを感じた。
















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