もっとぎゅっと。後 | ナノ

もっとぎゅっと。
黄黒/モブ黒要素有/警官×保育士



今の交番の担当になって3ヶ月がたった頃だ、初めて黒子っちを見かけたのは。
雨の日以外は毎日同じ時間に交番の前を通る、保育士であろう小柄な男の子と可愛らしい園児たち。今まではここにいても見かけなかったから、お散歩コースを変えたのだろうか。

最初は確か黒子っちからひっそりと挨拶してきた。無表情だし決して愛想がいいというわけでもないが、ほら皆もおまわりさんに挨拶しなきゃだめですよ、と自分の後に続く園児たちに優しく言っていたのはとても印象的だ。
自分はそんな彼等を微笑ましく思っていた、ただそれだけだったはずなのだが。
何度も挨拶されるたび、彼を見かけるたび、もっともっと関わりたくなって。だんだんと挨拶だけではなく他愛もない話題を持ちかけたり、しまいには俺が休みの日に園児たちの遊び相手にもなったりした。
ぼやーっとしてるようで実はしっかりしてたり、中性的なのに性格は紳士的だったり、クールだけどたまに見せる柔らかな表情とか、黒子っちと会うたびにどんどんと彼独特の魅力に惹かれていった。
男同士だから…という戸惑いもあまりなく、つまり早い段階でそれ位惚れ込んでいた。
で、その時の俺はバカだったから考えもなしに黒子っちの仕事が終わりそうな時間帯に最寄駅で待ち伏せしていきなり告白したら黒子っちは少し驚いた後に「えっと……ごめんなさい」とあっさりフってきた。俺、これでも学生時代はモデルやってたし今でもイケメンすぎる新人警官とかって周りから騒がれてるんスよ…?
…ってそれは置いといて、フられたのはまあショックだけど俺は簡単に諦めるつもりもなくずっとアタックし続けてる。態度があからさますぎてもうネタみたいな扱いになってるのが最近困ってるんだけど。俺は本気なのに。

…そんな、黒子っちが。
今俺の目の前で、泣きそうな表情で助けてだなんて言っている。
たまに仕事帰りに駅で黒子っちと偶然会うことがあるから、今日もいたりしないかなーなんて期待しながら歩いていたら本当にいた。でも何だか様子がおかしいなと、声をかけてすぐ思ったがその予感は的中した。

「く、黒子っち?どうしたんスか?」
「ぁ、の………っ…ぼ…く、」

黒子っちは普段の冷静さをすっかり失っていて、声も手も震えていた。明らかにおかしい、何かあったのだ。
何があったのか言おうとはしているが、なかなか口にしない黒子っちを見て俺はふとあることが頭をよぎった。

(…まさか…………)

ガシッと黒子っちの小さな両肩を掴んで、俯く黒子っちの顔を覗き込む。

「……黒子っち、変な人に会った?」
「…………」

優しくそう問いかけると、黒子っちは小さく小さく頷いた。
当たり。
仕事で不審者に遭遇した直後の人々を何度も見てきたせいか、何となく分かったのだ。

「…何かされた?」
「……………」
「言いたくない?」

黙り込む黒子っちを見て、黒子っちをこんなに怯えさせたその不審者が憎たらしくて仕方ないのと、頼むから何もされなかったと答えてくれという想いで頭がいっぱいになる。

「……なんも、されてない、です」
「…ほんとに?何か見せられたり言われたりは?」
「……少し、変なこと言われたけど、あの、でも、大丈夫…です」
「黒子っち…無理しなくていいから………とりあえずどっか入ろうか?ここじゃ寒いでしょ」
「…すみ、ません……、」
「黒子っちが謝ることないッス。…ね、怖かったね。もう大丈夫ッスよ、俺がいるから」

完全に弱りきっているのに平気な素振りしようとする黒子っちを見ていられなくて、つい彼の腕を引き寄せてぽんぽんと頭を撫でるときゅっと俺の服を掴んできて不謹慎だがキュンとした。
そんな黒子っちの手を引いて、俺は駅前のカフェに入ることにした。


***


「…あの、ほんとにすみません……さっきはいきなり変なこと言って…」
「いやいや、そりゃ誰だって怖いって。変じゃないッスよ」

カフェに入って温かいココアを飲んでから、多少気持ちが落ち着いたらしい黒子っちは、先程までの自分の行動と言動が恥ずかしくなってきたらしくひたすら謝ってくる。
めっちゃ可愛かったなんてふざけたこと言えるはずもなく、とにかく大丈夫だと言い続けた。

「…黒子っちの話聞く限り、そいつ昼間に言ってた例の不審者っぽいッスね」
「…そうですね、暗がりではありましたが特徴はそっくりでしたし…」

ああ、憎たらしい。
ただでさえ自分のくだらない欲望の通り多くの人を傷つけてる奴なのに、更に俺の大事な大事な黒子っちを狙うなんて。やっぱり、男にしちゃ小柄で透明感があって、可愛い………からだろう。

(くっそ、絶対絶対俺が捕まえてやる…!)

「…えっと。じゃあ、そろそろ帰ります。本当にすみませんでした」
「えっ?ちょ、だって黒子っち、」

俺はつい、席を立って帰る準備を始める黒子っちの腕を掴む。

「…黒子っちって実家だっけ?」
「いえ、1人暮らしですが」
「え、じゃあ絶対1人なんて危ないッス!」
「大丈夫ですよ、 もうだいぶ落ち着きましたし」
「でも……あ!じゃあ俺んち泊まる…と…か……」


(…ああ。言ってしまった………)



***



「…お邪魔します」
「どーぞ、狭いけど…」
「僕のアパートよりか全然広いし綺麗ですよ」

…黒子っちが俺の部屋にいる。
平生を装っているが、内心ドキドキしすぎてやばい。黒子っちと一晩一緒とか…俺、大丈夫ッスかね…。

「あ、俺床で寝るから、黒子っちベッド使っていいから!」
「え、僕が床で寝ますよ。黄瀬くん風邪ひいちゃいます」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと布団あるし!ね!」
「でも…」
「俺今日床で寝たい気分なんス!めっちゃ!床で寝たいんス!!」
「はあ…じゃあお言葉に甘えて。本当に何から何まですみません」

まさか黒子っちを床で寝かせるなんてできるかと思い、苦し紛れの床で寝たいアピールをして黒子っちをベッドで寝かせることに成功した。
が。

(…全っっっ然寝れねー……!)

先ほど電気を消してお互い寝る態勢に入ったが、好きな子が自分のベッドで寝ててそんなあっさり寝れるわけがない。
ベッドからは既にすよすよと寝息が聞こえてきて、俺は起き上がってベッドのすぐ横に座った。
黒子っちは仰向けで、何故か枕の端っこを掴んで寝ている。なにそれ可愛い。

「はあ…寝顔も可愛いッス……」

キスしたい…とか思ったが、それをしてしまったらもう歯止めが効かない気がしたのでひたすら黒子っちの寝顔を眺めていた。それくらいは許してほしい。

「…ん、……」
「え」

気持ち良さそうに寝ていた黒子っちが、突然眉間に皺を寄せて苦しそうに唸った。

「…っや、だ…や、いや……」
「黒子っち…?」
「っやだやだやだやだやだ!いや、やあ……っ…!」
「っ、黒子っち!!」

ただの寝言ではない、そう思った俺は黒子っちの両肩を掴んで起きるように小さな身体を揺するとハッと目が開いた。

「っは、あ、ぁ……、あれ…、きせくん…?ここ、」
「大丈夫…?ここは俺んちッス、うちに泊まることになったでしょ?」
「え、あ、そう、そう…でした……は、あ…、」
「…怖い夢見たの?」
「………はは、情けないですね。男なのにこんなに怖いなんて…別に特別何かされたわけじゃないのに…」
「黒子っち、」
「……というか…あの犯人が、…僕の名前を…、知っていたことが、すごくこわいです、」

はあはあと息を切らしている黒子っちの手が震えているのを見て、俺はその華奢な身体を強く抱きしめた。

「っきせ、く」
「何でそれをもっと早く言わなかったんスか」
「え、」
「黒子っちの名前知ってたって」
「…すみません。余計な心配をかけてしまうと思って」
「そんなの怖くて当たり前じゃん。男だからなに?見ず知らずのおっさんに名前知られててセクハラ発言されて、怖いと思うのが普通でしょ……そんなの一人で抱え込まないでほしいッス…」
「…はい、すみません……」
「…も〜こんな黒子っち一人にできないッス!黒子っちしばらくここから仕事場通いなよ、ここ結構セキュリティ万全だから!」
「へ」
「犯人は俺が絶対捕まえるから!!黒子っちにもう指一本触れさせないし、黒子っちが怖い思いしないように、俺頑張るから…!」

うわ、勢いでいきなり抱きしめちゃったり(黒子っちほっそい、ほんと可愛い)偉そうなことをべらべら言っちゃったけど俺なにしてんだ。彼氏でもないのに……彼氏どころか何回もフラれている分際で…!
黒子っちドン引きしてたらどうしよう…と思いながら、ちらりと黒子っちの顔を見た。

「…有難うございます。黄瀬くんは優しいですね」

そう言ってふわっと微笑んだ黒子っちが可愛すぎて内心悶絶。
あれ、結構いい感じ……?

「お仕事の一環なのにすみません…正直、犯人が捕まるまで怖いので…助かります」
「…いやいやいやお仕事の一環じゃなくて」
「よろしくお願いします、黄瀬くん」

…いくら警官でも被害者を自分ちに泊めて面倒見るまでするわけないッス……!!!!

(黒子っちだから、に決まってるだろ……!)



一歩前進したような、しないような……。

…こうして俺の、黒子っちの(過剰な)ボディーガード生活が始ることになる。








とりあえずここで終わります…が、続編書きたいな^^
黄瀬がかっこよく犯人捕まえて、黒子っちと結ばれるまでを…!
黄黒←モブが大好きです…




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