まるで麻薬のように | ナノ

まるで麻薬のように
黄黒/モデル×マネージャー


人気モデルのマネージャーの朝はとにかく早い。

バカみたいに高級感溢れる高層マンションに入り7階の角部屋を合鍵で開けた。
ズカズカと寝室に入ると彼は既に目を覚ましていたようで、しかし眠そうにベッドに転がっているままだ。

「黄瀬くんおはようございます。起きてたんですね。今日は8時から雑誌の撮影です、昼食後はインタビューが入っててその後に打ち合わせが1本、17時半からはドラマの収録です。スムーズに行けば日付変更前に帰れるんじゃないですか?今日も頑張りましょう」

シャッと部屋のカーテンを開けると一気に光が差し込み、黄瀬くんは眩しそうに窓から顔をそらした。前髪をかきあげるとのそりと起き上がり、こちらに近付いて来てぎゅううっと抱きつかれる。

「……今日の仕事…行きたくないッス…もっと黒子っちといたい…」
「何子供みたいなこと言ってるんですか。ほら早く顔洗って来てください」
「はあ…落ち着く……黒子っちのにおい〜…」
「わかりましたから早く準備してくださいよ」

彼のマネージャーになってもうすぐ1年経つだろうか。毎朝毎朝懲りずにこの光景が繰り広げられる。
僕はしゃきっとしろと言わんばかりにぺちぺちと黄瀬くんの背中を叩くと、更に強く抱きしめて来た。

「…そんなに今日の仕事嫌なんですか?何かありました?」
「午前中の撮影あれじゃないスか…何か新人女優やらとカップル風に撮るんでしょ…そんなん嫌ッス、俺の恋人は黒子っちだけなのに」
「そういう設定なだけでしょう、今までだって何回もやったじゃないですか何を今更」
「黒子っちと付き合ってからは!初めてだもん!」
「そんな駄々こねられても困ります。ほらとにかく顔洗って来てください」
「…黒子っちの意地悪!でも可愛いから許す!」
「はいはい」


そう。マネージャーである僕は今大人気急上昇中の黄瀬涼太と、恋人同士 なのだ。





「黒子っち、ちゅーしていい?」
「…………」

僕の運転でスタジオの駐車場に着き、車から降りようとすると助手席に座っていた彼のわがままが始まった。

「…さっき家出る前にしたじゃないですか。大体こんなとこでしたら…」
「あんなんじゃ足りないッス、大丈夫。ほらこの駐車場誰もいないから、ね」
「ちょ、ん、んむ……っ」

後頭部に大きな手が回って来たかと思うと口を口で塞がれ、最初から容赦なく舌を突っ込んで来たので思わずびくりと身体を震わせてしまった。

「っふ、ぁ…、やめっ…」
「…は、黒子っちえっろい顔……」
「や、ぁ…、」
「あれ、まーだキス上手くできないんだ?もう何回もしてんのにね?ほら、鼻から息吸うんスよ」
「っん、ぁ、あ…」
「…ふふ、かーわいい……あーあ、今すぐ黒子っちとエッチしたいなー」
「っ…!バカなこと言ってないで、ほらもう行きますよ!」
「…はーい」

危ない危ない、もう少しで快楽に呑まれてしまうところだった。全くこの人は、犬のような可愛さがあると思えば突然狼のようになるから油断できない。付き合って肉体関係を持ってからわかったけど、完全に変態思考だし。(僕の泣いてる所を見るとぞくぞくするらしい。もはやバカだ。)
…とは言っても、そんな黄瀬くんに自分だって惹かれてしまっているのは事実。黄瀬くんから猛アピールされて最初こそ男同士でなんてと思っていたけれど、なんだかんだ僕は黄瀬くんが好きだ。黄瀬くんが思っている以上に。

(…そんなこと絶対本人には言わないけれど)





「いやあ、黄瀬くん絶好調ですね」

順調に行われている黄瀬くんと女優さんの撮影を眺めていると背後から声をかけられて、振り向くと雑誌の編集者が立っていた。この雑誌の仕事は初めてではないため、既に顔見知りの編集者さんだ。

「お久しぶりです。今回も呼んで頂いて有難うございます」
「いやあ今一番きてますからね〜キセリョ。こっちとしても欠かせない存在ですよ。もう毎日忙しいでしょう?」
「そうですね…彼最近はちゃんとしたオフもないくらいで。有難いことなんですけど」
「お二人とも仲いいですよねえ」
「…え、」
「前は彼もっとやさぐれてたでしょ。黒子さんがマネージャーになってからパッと雰囲気が変わったって、評判いいんですよ」
「そ…そうなんですか、嬉しいです」

一瞬、僕らの関係がバレたのかと思いぎくりとしたがどうやら違うみたいで僕はこっそり安堵のため息をついた。

「…まあ、こんな可愛いマネージャーさんならねえ…黄瀬くんの気持ちもわかりますよ」
「へ…」
「前からいいなって思ってたんですよ、黒子さんみたいな中性的な子…タイプで。良かったら今度、」
「くーろこっち」

編集者さんの言ってる意味を理解しようと考えていると、むぎゅ、と正面から抱きついてくるデカイ男性。黄瀬くんだった。

「えっ…あれ、もう終わったんですか?」
「うん、カメラマンさんもう大満足だったッス。ちゃんと見てたー?」
「お疲れさまです。見てましたよ、今日は一段と調子いいみたいで良かったです」
「でしょ?黒子っちに褒めてもらうためにちょー頑張ったんス」

うっわ!目の前に編集者さんががいるのにそういうこと言うなバカ!怪しまれるでしょう!
僕は内心そう叫んで、冷や汗をかきながらとりあえずこの場から逃げようと決めた。

「黒子っちぃー、俺お腹すいた〜」
「……じゃあえっとすみません…今日はこれで失礼します」
「あ…はい、じゃあまたお願いしますね」
「はい、有難うございました。…ほら黄瀬くんも!挨拶!」
「…どーもー」

必要以上にベタベタしてくる黄瀬くんを引きずりながら、僕は逃げるようにスタジオを出た。





「…ほんっとに君って人は…何であんなことしたんですか!」

黄瀬くんを衣装から着替えさせ、駐車場に戻って車に乗り込んでから僕は怒りを露にした。

「えーだって、何かあの人明らかに黒子っち狙ってたから。うざくって」
「黄瀬くんは今が一番大事な時なんですよ?最後もあんな適当な態度とって…」
「俺の仕事が減ることより他の男が黒子っちに触る方がムカつくッス」
「何言って…、」
「俺さ、一時期黒子っちにマネージャー辞めてもらおうかなと思ったんスよね。さっきみたいなバカな輩が黒子っちに近付いてくるから。でもマネージャー辞めたらこんな四六時中一緒にいれなくなるし、何より俺の目の届かないところで黒子っちが他の男に狙われてたら絶対やだし」

そんな独占欲満載なことを真剣な表情で言われ、僕はため息をついた。

「…そんな心配しなくても僕はどこにも行きませんよ」
「えーほんと?じゃあ今日帰ったら一緒にお風呂入ろ?」
「…じゃあって、それ話繋がってません」
「俺今日仕事めっちゃ頑張るから…だめ?」
「…う、」

その整った顔でおねだりなんてやめてほしい。
…ちくしょう、悔しいけれどかっこいい。

「…スタッフさんにも愛想良くしてくださいよ?」
「はーい、黒子っちかわい。大好き」


(…ああ、全く、)



…きっとこれからもずっと、僕はこの人から、離れられないんだ。









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