スポンジケーキに砂糖菓子を飾り付けるように臨也さんの黒髪に髪飾りをひとつ、ふたつ。漆黒を彩る桃や赤のそれは腹癒せに特別可愛らしいものにしてやった。臨也さんは、最初こそ不満そうな表情でこちらを見たが、今は硬く瞳を閉じ黙ってされるがままだ。多分終わるまでこの瞳が開かれる事はないだろう。それに、君の誕生日だから好きにしていいよと言ったのはこの人だ。だから俺は、この際思い切って臨也さんを飾り付けてやろうと決めた。それこそ、子供が好む誕生日ケーキみたいに。

さらさらの髪に指を通して、手で軽く梳く。それから狩沢さんから借りたメイク道具とか、その他諸々。臨也さんに使いたいと言ったら快く貸してくれた。それから、男女様々な服。恥ずかしい格好などをさせるつもりはないけど、結果的にそうなってしまったのならそれは仕方がない。俺はただ、この人の見た目だけでも俺好みに仕立てあげてやろうってだけなんだから。

「臨也さーん、アイメイクピンクと青どっちが良いですか?」

一応話し掛けてはみるが、返答は無い。いや、今のは話題も悪かったか。本人の意思は汲み取ってやろうと思ってたんだけど、そんな事を考えていたら臨也さんから余計なお世話という言葉が聞こえてきた。読心術でもあるのかこの人は。

「ま、臨也さんにはピンクの方が似合いますよね」

ピンクのアイメイクを指先で取りながら呟く。それが聞こえていたのかいないのか、ぴくりと臨也さんの眉が潜められた。そして途端に、青がいいといった呟きが聞こえてきたが、気にしない。聞いた意味など元からありはしないのだし、もう時間切れだ。因みに、それでも臨也さんは瞳を開かなかった。なのでメイクを続行して、それが済むともう一度髪を整える。臨也さんの艶やかな黒髪には点々と、可愛らしい装飾。完璧だ。

「さあて、次は洋服ですね」

俺が言った瞬間、臨也さんが足を忙しなく動かし始めた。きっと可笑しな格好でもさせられるんじゃないかと、思ってるのではないだろうか。俺は普段の臨也さんの格好もよっぽど怪しいと思うけど。ああ、そうだそうだ服だ、服。服。俺は適当にその辺にあった服の端を取って、引っ張りあげて臨也さんの元へ。それからはもう、抵抗する気力すらないのか何故か体をぐったりとさせた臨也さんを余所に服をその体に通していった。しかしそれがまた運悪く。まあそれはこの人が目を開いてのお楽しみと言う事にしておこう。

「目、開けても良いですよ」

俺が言うと、臨也さんは恐る恐ると目を開き、ぼんやりとした様子で俺を見る。その後、自らの服装を見て赤い瞳を見開いた。そして見る見る内に、白い頬は赤く色付く。

「ま、ま、正臣くんっ!」
「可愛いですよ、臨也さん」
「かわっ…いいとか、じゃなくて!」

珍しく慌てた様子の臨也さんの目の前に、鏡を突き付けると更に顔を真っ赤にした。可笑しいな、そんなに恥ずかしい格好でもないと思うんだけど。呟けば臨也さんから鋭い目付きで睨まれた。

「普通の格好でもないでしょ」
「まあ、確かに」
「よりによって、何でこんなの」
「たまたま手に取ったのがそれだったんですよ」
「着替えていい?」
「駄目です」

今日1日は、その格好でいてください。そう笑顔で言ってやると臨也さんは未だ頬を赤く染めて俯いたまま、正臣くんの馬鹿と呟いた。それが何故だか、可愛いと感じてしまった俺はもう駄目だと思う。

「可愛いのに」
「可愛くない」
「そもそも、言いだしたのはアンタですよ」
「そうだけど、ここまで好き勝手されるとは思ってなかった」
「誕生日ですから」
「………ばか」

可愛いと言えば否定して、捻くれた事を言えば悪態を付きながらも受け入れる臨也さん。そんな所が可愛いんですよ、とまでは言わなかったが耳まで染まる彼を見ているともう何か抑えられないかも知れない。

「臨也さん、メイク直すから、こっち向いて」

そんな嘘を付き、振り向いた臨也さんの柔らかな唇を塞ぐ。途端に臨也さんは顔を歪めて抵抗したが、暫くしたら瞳を閉じて受け入れた。それでも抵抗の意なのか、舌先を押し入れようとするとがりと噛まれた。意外と痛かったので唇を離す。

「…噛まないで下さいよ」
「五月蝿い、君のせいだ」

拗ねたように外方を向いて言う臨也さんは俺よりも子供っぽい。そんな事を本人に言ったら、また不機嫌そうに返されるのだろうけど。でも、今日は俺が一つ年を重ねた日だから、今日くらいこの人には子供でいてほしい。あわよくば、ずっと。

「そういえば、まだ言って貰ってないっすよ」
「…何を」
「情報屋ともあろう人が、言わなきゃ分かりません?」

少しだけ意地悪を言ってやると、臨也さんは黙り込んでしまった。それでも何かを言おうと、赤い顔でもじもじとしながらたった一言の為に何度も口を上下させる姿は何時もの余裕綽々とした彼では無かった。かわいいかわいい、ただの俺の、恋人。

「っ誕生日、おめ、でと、う」

今日一番真っ赤な顔で言われた。何だこの人、可愛すぎる。俺は耐え切れなくなって、臨也さんの細い腕を引き寄せ大切な人形にするみたいに、ぎゅうと抱き締めた。抱き締める、たったそれだけの事なのにまた顔を真っ赤にして狼狽える臨也さん。ああもう、



この可愛い人どうにかして!



110619

正臣誕正臨でした。

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