臨也←六臂 +巻き込まれ月島
ヤンデレ六臂とヘタレじゃない月島







「やっぱり、人間は嫌いだなぁ」

心底憎々しげにそう吐き出した六臂さんは次の瞬間には愛しそうに目を細めて、手の中のナイフで手首を切りつけた。恐らく彼の持ち物ではないであろうナイフを、滴る血にも構わずに優しく撫でる。にっこり、と綺麗な笑顔はこちらに向けられてはいるけれどきっと"俺"に向けられたものではない。

「人間は嫌いだけど、臨也は好き。臨也が好き。臨也だけが好き」

六臂さんは、臨也さんが好きだ。それはそう仕組まれたからじゃない、彼自身の意思で臨也さんを好きになった。それ以外の存在は六臂さんにとってどうでもよくて、でも、人間は嫌いだといつも言っている。
俺はそうですかってもう何回目か分からない相槌をしながら、帰りたいと思った。俺は別に六臂さんのことが好きでも嫌いでもなく、臨也さんにも言いたいが、興味の無い話を何度も聞かされるのは勘弁してほしい。六臂さんは俺の事を都合の良い話相手だと思っているみたいだけど、誰でもいいなら俺じゃなくてもいいでしょう。ああ、また自分の世界に入っている。

「でも、臨也はアイツが……ああもう、考えたら腹が立ってきた。あの化物、いつになったら死ぬんだろう」
「…静雄さん、ですか」
「そうだよ!今日も臨也に怪我をさせたんだ。臨也の綺麗な顔に傷を付けるなんて許されない事だよ?どうして臨也はアイツが好きなの?ねえ月島、君ならアイツを殺せる?」
「無理です」

数秒の間もなく答えを出すと、六臂さんは不機嫌そうな顔でふいと横を向いた。静雄さんを殺せるか、なんて聞いたあなただって分かってるくせに。もしも俺に出来るのならば六臂さんにだって実行出来るはずだから。そうしないのは、無理なことを知っている、そうでしょう?問い掛けたら、小さな頭は俯いた。

「……ね、月島。臨也は俺のこと、好き、かなぁ」
「……それは」
「どうして俺は人間じゃなかったんだろう。なんで臨也の好きな人間に生まれてこなかったんだろう。でもアイツは化物、だし…俺、もう分からないな」

ぼろぼろと真っ赤な瞳から透明な涙が溢れだす。膝を丸めて耳を押さえてすすり泣いて、臨也臨也とここにいない人の名前を呼ぶ。俺は何も言えずに、ただ隣にいることしか出来なかった。報われない可哀想なこの人を、救ってあげることは俺には出来ない。出来るとしたら、臨也さん本人だけだ。

「ねえ月島、臨也を抱いて」
「……何を、言って」
「一人が不安なら」

そう言うなり手が伸ばされ、巻かれていたマフラーがしゅるりとほどかれて六臂さんの手に渡る。それをいつの間にか血の止まっている手首に巻き付け俺の膝に跨がった。

「俺と一緒に、ね?」

本当に可哀想な人だと思った。そんなことが出来たとしても虚しくなるだけなのに、臨也さんを失いたくないが為に手段を選ばなくなっている。最後にはまた言い様のない悲しみに沈んで、譫言のように名前を呼ぶのだろう。

可哀想で、それでも彼を突き放せない俺も、どこか道を間違えてしまっている。









110815

月六×臨也が見たくて、その前話のようななにか



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