臨也がよく語る愛とか恋とか、自分には無縁のものだと思っていた。俺は大抵のことには無関心であったし、興味を示す対象なんてそうそう見つからない。でも月島に出会ってから、そんな考えは何処かに吹き飛んでしまった。何でも出来るけど何でも適当な俺とは違って、月島は何に対しても一生懸命で、でも不器用だった。俺はそんな月島に、知らない内に惹かれていたのかも知れない。気持ちを打ち明ければ月島は真っ赤な顔をしながらも俺を抱き締めてくれた。それだけのことがたまらなく嬉しかった。

「すき、だよ、月島」
「俺も、です、六臂さん」

目の前を見れば月島の優しい笑顔。大好きな顔。だから俺も笑うと、突然頬に口付けられた。ぶわっと頬の熱が上がる。月島はそんな俺に釣られてまた顔を真っ赤にして、すみません、と謝った。謝る必要なんてどこにもないのに、むしろ頬にキスくらいで赤面する自分が一番恥ずかしいと思う。

「ね、ねぇ、月島」
「は、はい、六臂さん」

二人揃ってぎこちなく名前を呼び合う。アレ、今俺は何を言おうとしてたんだっけ。緊張しすぎて分からなくなってしまった、なんて何処まで間抜けなんだよ。ええと、キス、そうだキスだ。月島がさっきしてくれたから俺からもと思って。思い出した俺はすぐに月島の頬を両手で掴む。突然の事に月島は困惑したような表情を見せたが、俺はその瞳をじっと見つめた。

「…その…目、瞑って」
「え?あ、は、はい」

状況が分からないまま俺の言葉に素直に従い目を閉じる月島。その顔にゆっくり自分の顔を近付けて、段々と距離を縮めていく。あと数センチ、あともう少し。そんな時、月島が唐突に閉じていた瞳を開いた。思わず固まる。当然ながら至近距離に月島の顔があって、何度目か分からない赤面をした。月島も最初はよく分かっていなかったようだが、ようやく理解するとその耳が赤く染まった。

「ろ、ろっぴさ…」
「あ、ぅ…」

言葉が詰まる、空気が気まずい。でも何故だかこの状態から動き出せなくて、恥ずかしさが増すだけだった。俺も月島も、お互い赤くなった顔を晒すだけ。するとふいに頬に手が触れた。月島の手。そのまま段々と近付いてくる月島の顔に、俺は反射的に目を閉じた。唇に月島からのキス。俺からって思ってたのに、俺のバカ。でもやっぱり嬉しくて、俺は俯いた。

「六臂さん……?」
「あの、さ、月島」
「は、はい」
「俺、君がいれば何もいらないや」

そんな言葉を吐くと、月島は何も言わず俺の頭を撫でてくれた。優しい手付きに涙が出そうだった。ねえ月島、俺がこんな風になるのは、君の前でだけだからね。君が俺を、弱くしてるんだよ。だからね、月島。弱くなった俺は、強くなった君が守ってくれる?




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