※静臨+派生組で家族パロ
※六臂だけ中学生、他小学生で皆マザコン
上記の設定を許せる方以外はご注意下さい




トントン、台所からの包丁の小気味良い音で平和島家の長男は目を覚ます。母似の整ったその顔には既に眠気は消え去っている。平和島家の長男―――六臂は、寝床から起き上がると素早く布団を片付けて洗面所に向かい洗顔を済ませると、台所にいる母、臨也に話しかけた。

「お早う、母さん」
「アレ、もう起きちゃったの?日曜なんだからまだ寝ててもいいのに」
「そう言われても、別に眠くないしなぁ。何か手伝おうか?」

料理に勤しむ臨也にそう告げると、臨也は少し手を休めて数秒考える。それから「じゃあ、皆を起こして来てくれる?」と言った。

「いいけど…母さんさっき俺に、日曜だからまだ寝ててもいいって言ってなかったっけ」
「それは六臂だから良いんだよ。他の奴らはほっとくといつまでも寝てるからね」

特にサイケとデリックは、と付け足して言うと六臂も納得したように苦笑した。それから料理を再開した臨也を横目に、六臂はそれぞれの寝室に向かう。寝室は台所からそう遠くはない。六臂は計三つの部屋が並ぶ廊下に立つ。そしてまずは丸っこい字で『さいけとつがる』と書かれたネームプレートがぶら下げられた部屋のドアノブに手をかけ、がちゃりとノックもせずに勢いよく開いた。案の定、次男サイケと三男津軽は物音にすら気付かず、互いにしがみついて静かに眠っていた。六臂は僅かに苦笑しながらも、二人の頬をぺちぺちと叩く。

「サイケ、津軽、もう朝だよ。起きなよ」
「ん〜、やだぁ、サイケはまだ歌うのぉ…」
「なぁに寝ぼけてんのさ。起きなってば、ほら、津軽も」
「……このプリン、食べてから…」
「いや、プリンなんかないっつーの」

素っ頓狂な寝言を言う津軽に六臂は呆れながら呟く。それから先に二人の被った布団を剥いで片付けてしまってから(それでも起きる気配すら無かった)、"最終手段"を口にした。

「……早く起きないと、ママがパパと楽しいことしちゃうかもねぇ…?」
「「それはダメっ!!」」

かなり小さな声で言ったはすなのだが、二人はそれを聞き逃しはせずに同時にベットから飛び起きた。その様子にこいつら本当に眠っていたのかと内心ぼやきつつ、六臂はにこりと二人に向かって微笑みながら、

「じゃ、朝ご飯にするから二人共ちゃんと顔洗ってきてね」

それだけを言い残し、さっさと部屋から出ていってしまった。そこで初めて騙されたことに気付いた二人は、双子のように同じ動きで渋々と洗面所に向かうのだった。

「さて、と…次は日々也とデリック、か」

二人のすぐ隣の部屋には、先程の部屋と同じように『ひびやとでりっく』といったネームプレートがぶら下げられている。六臂は一つ溜息を吐き出すと、また勢いよく扉を開く。因みに何故勢いよく開くかと言うと、その物音で起きるかもと思っているからだ。実際、そんな簡単に起きる事は誰も一切としてなかったが。

部屋に入ると、きっちりと布団を肩までかけ眠る日々也とそれとは正反対に布団を蹴り飛ばし腹を見せだらしなく眠るデリックの姿があった。二人ともまだ起きる気配はない。先程の"最終手段"はこの二人にも効果はあるのだが、あまり使いすぎると後々面倒臭い事になるので六臂は他の方法を考える。まずは静かに日々也が眠るベッドに近付くと、日々也の布団に手を伸ばした。その瞬間、日々也の瞳が大きく見開かれ、

「デデデデリック!ひ、ひとの布団にはいるなと何回もいってるだろう!」

そんな事を叫びながら飛び起きた。別に意図して六臂が布団に手を伸ばした訳ではないのだが、何故か効果があったようだ。六臂はちらりとデリックに視線を向けると、こいつは毎晩何やってんだか、と思いつつ一回だけその足を叩いた。すぐに日々也に向き直り、にこりと柔らかく笑った。

「お早う、日々也。デリックはまだ寝てるよ」
「ろ、ろっぴ…」
「顔洗ってきな?母さんが朝ご飯作ってるからさ」

一瞬何か言いたそうな素振りを見せたが、六臂の言葉を聞くとこくりと一つ頷いて素直に部屋から出ていった。六臂はその背を見つめながら、未だ悠長に眠っているデリックの姿を捉え溜息を吐く。

「…いっそ叩き起こすか…いや、それでもこいつは起きないよな…」

一番面倒臭い相手を起こす方法を考えつつも、とりあえずベッドから転がり落としてみる。ごつんと頭を打ったような音がするがそれでも起きなかった。仕方ないので六臂は軽く背中を蹴飛ばしてみると、デリックは少しだけ眉を潜めたが起きはしなかった。

「ダメだ、こんなんじゃ起きない…でも母さんの手を煩わせるのもな…仕方ない」

ぼそりと呟くと六臂は、何故か部屋から出ていった。そして再び入ってきた時に手にしていたものは、コップ一杯分の水。それをデリックの頭の上に持ってくると、何の躊躇いもなく傾けた。デリックは先程の日々也のように大きく瞳を見開き、床を転がりながら騒ぎ始めた。

「つめっ、冷たい頭が冷たい!ってぎゃああろっぴがいるっつーかオマエのせいだな!ちょっ待ってそっちに持ってんの熱湯じゃね!?流石にそれは無理だってリアクション取れないって!」
「お早う、朝から元気だねぇ…」
「アレ、なにこのテンションの差!?」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるデリックを余所にあらかじめ用意しておいた雑巾で濡れた床を拭いてから、デリックにも顔を洗ってくるように促す。水に濡れた時点で目は覚めているだろうが、とりあえずさっさと行ってほしいのが六臂の本心だった。デリックもにこにこ笑う六臂にもう何も言い返さず、渋々と部屋を出ていった。

「…厄介なやつも出ていったし、最後は…」

デリック達の部屋から出て、隣の扉を今度はゆっくりと開く。因みにここには『ろっぴとつきしま』というネームプレートが掛けられている。中に入ると、勉強机に突っ伏して眠る六男月島の姿があった。

「俺が起きた時は気付かなかったけど、勉強してたんだな…」

他の奴等に比べれば、まだ正当な理由で眠っている月島。六臂はそろそろと近付き、起こしづらいなぁと思いつつその肩を軽く叩く。すると、すんなりと目を開いた月島が六臂の顔を覗き込む。

「ん…おはようございます、ろっぴにいさん」
「お早う、邪魔してごめんね」
「あっ、だいじょうぶです…顔、洗ってきますね」
「うん、偉いね月島は。行ってきな」

月島の頭を撫で、柔らかく笑って告げれば月島は素直に頷いて部屋を出た。他の奴等もあれくらいならいいのになぁとぼやきながら六臂も皆のいるリビングに向かった。




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『ごちそうさまでしたー!』
「はい、お粗末様でした」

揃って手を合わせ無邪気に言う子供達に笑顔でそう言うと臨也は隣で不機嫌な顔をした静雄を見る。むすり、無愛想な表情で淡々と食事を終えるとまた無愛想にご馳走様と呟いた。

「シズちゃん、寝起き悪いのはしょうがないけどせめてさぁ…」
「…悪い」
「ま、いいけどさ。あっこらサイケ、ちゃんと片付けてから遊びなよ」
「あっ、ごめんなさい…」
「デリックも、お前食べた後汚すぎ!きちんと拭いてからね」
「う…わ、わかった」
「…………」

言葉の途中でサイケとデリックを叱る臨也を、静雄は複雑な表情で見つめるが臨也はその視線には気付かず、二人を呆れた顔で見つめながら自らも食器を片付ける。因みに六臂、津軽、日々也、月島は片付け終え既に好きなことをやっていた。

「もう、二人は本当に子供なんだから。他の四人を見習いなよ」
「はっ、あいつらと一緒にするなよ母さん。俺はただのイイコちゃんとは違うんだぜ」
「はいはい、そんな事言う余裕があったら食事くらいまともに出来るようになってね。サイケも…」
「むぅ、サイケは大人だもん!一番早く大人になるんだもん!」
「へぇ、どうして?」

頬を膨らませて可愛く怒るサイケに臨也が苦笑しながら聞き返す。思えばそれは、聞いてはいけないことだったのかも知れない。それに誰も気付かず、聞かれたサイケはにこにこ楽しそうに笑って、告げた。