三ノ刻 〜大償〜 懐中電灯の光も失い、出入り口の扉も封鎖された今、ひとり残された澪にするべきことはひとつしかなかった。 さっき見かけた繭を探し出すこと。 たとえその姿が幻覚だとしても、繭に会えることを考えながら歩かないと気が狂ってしまいそうなのは事実。ほんのわずかな希望を胸に、澪は土足のまま一歩家内に踏み出した。風化しかけた廃墟。 至る所にまだ人がいた頃の形跡が欠片として残っている。梁から垂れ下がるボロボロの布切れ──盛期は暖簾か何かとして使われていたであろうそれを払いのけて奥に進む。長い廊下をとぼとぼと歩いた。 楔が来る! 悲鳴じみた小さな声が聞こえた気がしたけど、一度頭(かぶり)を振ってから俯いて、忘れようと躍起になる。廊下の突き当たりまで来た。両脇にドアがある。右側は、鍵がかかっていてあかないらしい。左側に歩み寄り取っ手に手をかけて引いた。 無人の部屋に、灯された蝋燭。そしてその蝋燭も、まだ真新しい。仄暗い暗い部屋を手探りで探索して初めて、懐中電灯のありがたみを実感したようだった。 - - - - - - - - - - ← → |