木島くんと先輩_2


休んでいる暇などなく、ろくに休憩も取れないまま日付の変更を迎え25日、ようやく客足も落ち着き閉店時間になった。
「みんな今日はお疲れ様!売上よかったよー!」
これ差し入れ、と店長から一人一本コーヒーとクッキーが配られる。ささやかだが、疲れた体に甘いものは嬉しい。
「おーお疲れ」
「先輩!今日デートじゃなかったんですか?」
「デート?何のこと?」
「だってシフト交代って言った時……」
しばし考え込む先輩。

「あ。わかった!なるほどな」
「いや俺は何も分かってないです」
「とりあえず着替えてきなよ、終電なくなるし帰りながら話そう」
「うあ、本当だ。待っててくださいね」
「はいはい待ってる待ってる」
子供みたいなあしらい方をされながら、慌てて制服から私服へ着替える。店の外へ出た時は冬の寒さに夜の暗さが加わって、夕方はあんなに活気があった道が嘘のようだった。
お待たせしました、と足早に先輩のもとへ向かう。
「早かったね。それでさっきのことなんだけど……」

話を整理すると、まずバイト仲間の一人が先輩にシフト交代を頼み、先輩はそれを引き受けた。しかし後で確認してみると自分も仕事だったため、もともと自分が入っていたところに俺を入れた、ということのようだ。

「それ、俺がその人と直接交代すればよかったんじゃないですか?」
「いやぁ、もともとのがフルで、そいつのが19時から締めまでだったからさ。クリスマスの超混雑時に長時間働きたくないじゃん」
「……ここに長時間働いた人がいるんですけどねぇ」
「木島は若いから大丈夫大丈夫」
「一つしか違わないっすよ」
俺はもうおっさんだからー、と更に年上の人に聞かれたら怒られそうなことを口にする先輩は寒さで鼻が赤くなっている。

赤鼻のトナカイなどという単語を思い出した俺に先輩は、それにさ、と続ける。
「自己満足だけど、クリスマス一緒に過ごしたっていう思い出が欲しかったんだよね」
「どういうことですか?」
「例えば気になってる人がいてさ、」
「はい」
「普段はなかなか声とかかけられなくてさ、」
「はい」
「で、クリスマスとかいう好都合なイベントの予定が何もないって言ってたらどうする?」
「……頑張っちゃいますかね」
そういうこと。と前を向きながら笑い交じりに言い、コーヒーを啜る。

……これまでのことを思い出してみても当てはまる相手は自分しか思い浮かばないんだけど、まさかこれはそういうことなのか?不思議と嫌な感じはしないけれど、そうだとしたらこうやって人気のない道をイルミネーションに照らされながら、仲良く並んで歩いていることに猛烈な気恥かしさを感じる。
「あっこれブラックかよー苦いー」
「せ、先輩、あの、俺すごい結論に達してるんですけど今、」
駅の手前で足をとめた瞬間、電車の走行音が二人を包む。

「終電……行っちゃったね?」
「疲れちゃったから休憩していきたいな」
そう会話しながら待ってましたとばかりに、駅構内からホテル街へ消えてゆくカップル。

「木島、終電……行っちゃったね」
「さっきの人の真似ですか」
「俺の家でよければタクシー呼んで10分だけど、どうする?」
どうする、って……俺の家は電車で乗り継ぎ数十分だ。どうせ朝からの予定はないことだし、始発まででも泊めてもらえるなら、ありがたいことだ。
「……変なことしないなら、お願いします。」
「俺何も言ってないよ、木島くんは想像力が豊かですね?」
「べべ別に、俺も何も言ってないですから!」

「それにしても、家に呼ぶとこまでこんなに計算通りにいくとはね」
「……!?」
タクシーの中、策士すぎる先輩に俺は少し恐怖を覚えたのだった。





がんばれ木島くん!続くかは不明です
151201

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