続・8_1


春めいた陽気が、凶器に変わりはじめる頃。

「あっつ……」

赤い下敷きで風を送りながら颯太は言う。
手元には世界史のテキストと、落書きだらけの紙。

5月の後半、世の学生が定期試験というものに悩まされるこの季節、高校2年生である颯太と瑛斗もまた、数日後に迫った忌々しい存在に頭を抱えていた。

「まじさー、こんな範囲広いとかありえないって」
「そうだな」

ペンの尻でテキストを叩きながら溜め息をつく。

「……ってお前、もう最後までいったのかよ!この裏切り者!」

瑛斗を見ると、もう覚えたと言わんばかりにテキストをしまいはじめている。

「馬鹿!阿呆!1861年に成立したのは!」
「イタリア王国」

ああ、くっそ、ムカつく!

「あ、先帰るのかよ!この薄情野郎が」
「じゃあな」

瑛斗が教室を出ていく。

5分たっても戻ってこない。
え、マジ?そういう冗談いらないんだけど。

「……馬鹿」

帰ろう。
きっと俺の覚えが悪過ぎて愛想尽かされたんだ。家帰って、今日はテレビもパソコンもつけないで真面目に勉強しよう。

荷物をまとめていると、机に置かれた四角い物体と、立つ影。

「好きだったよな、アイスココア」
「瑛斗……帰ったんじゃなかったの」
「あ、何、帰るの?そろそろチャイム鳴るし、早く支度しろよ」

鞄を背負って、きっと自販機で買われたばかりであろう、汗をかき始めたブリックパックを掴んで教室を後にする。

「あー……マジあつい」

窓から入ってくる夕日が赤い下敷きに通った光とか、まるで顔を赤くしてるみたいで。

ばれなければいいな、などと思いながらストローをアルミの膜に突き刺した。





続編です。教室から自販機までは距離があったとか、ちょっと颯太をからかってみたくなったとかそんな感じ。
120531

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