ヴィル子さん |
CAST:アリス,ヴィル,ラグ,ヴィル子(グラニデ) 「おぉ…すまんな、ヴィル」 「っ…べ、つに構いません…よ…」 ふらついたヴィルを私は支えた。私が存在する為には彼のマナを大量に消費する。でも、折角彼女等に誘われたのだから行きたいと思って。 「アルティアラさん達とお菓子作り…でしたか?作った物くれる約束したので構いません」 「うむ、そうだな。お前も好きな人が作った菓子なら尚更食べたいよな」 「昔の話を一々引っ張り出さないで!っ、」 「暴れるな、ほんとに倒れるぞ」 「誰のせいだと…とにかく俺は暫く寝ますから、後は適当に楽しんできて下さいよ」 ヴィルはそういうとフラフラした足取りでベッドへ倒れ込んだ。全くディセンダーだからって風邪引かない訳じゃないのに…マナをくれた御礼だ、布団をかけてやるくらいしてやる。 「本当…すまないな」 返事の変わりに聞こえたのは寝息だった。 「なんで君が…こんな思いをしなくちゃいけないの?」 規則正しく聞こえる寝息。僕が近くにいるのに気付いている様子はない。相当、弱っているのは見て分かった。 「ヴィル…君は、優しすぎる」 それは、身を滅ぼす事になるって、分かっているだろうに。 一緒に作ったクッキーを頬張りながら私は通路を歩いていた。うむ、美味しい! 食べ歩きはいけないと、ヴィルに怒られた事もあったが、そもそも言ってる張本人がいつも食べ歩きしているんだ。説得力の欠片だってありゃしない。 これだったら彼も喜んでくれるだろう。マナを貰ったのは、いつもすまないと思っている。でも自分ではどうしようもできないのだ。 「無力だな…私は」 「それは皆同じだよ」 いきなり、声がして私は身を強張らせた。いつからだ?気配がなかった。それに、独り言に返事が来るとは思っていなかったし。 「お前…誰だ…?姿を現せ!」 そう叫ぶと、角から茶髪の青年が現れた。ああ、彼か。感情が読めない表現で、じっと私を見ていた。 「アリスか…」 「皆、自分の無力さに絶望してる。愛する人を、家族を、友人を守れず。ディセンダーだからって、変わりはないよ」 どうしたこいつ。珍しいな、普段は全く喋らないのに。しかも言ってる事が何か病んでるんだがこいつこんなキャラだった…? 「君も守れなかった人がいる?あぁ、もうすぐ無くしそうな人がいる?」 「お前…何言って…」 「嫌だな、君が別の人の事を想うなんて、昔じゃ有り得ない」 「昔って、私はまだ生まれたばかり…」 「忘れたの?どうして、記憶を消すのを選んだの?」 ちょっと待て、さっきからこいつは何を言っている?私は、ヴィルがこの世界に生み出された時に何らかの原因で出来てしまった分身に過ぎないのではないのか?それとも私は、人…なのか…? 「俺も忘れたけど、君がいない世界なんて考えられないもの。ねぇ、」 「!?」 今、何が、起きた? 前にいたはずのアリスがいない。 後ろか? 振り向こうとした時。 「うっ、あ、え…?」 腹に激痛が、何か赤い液体が…血…? 今私は、アリスに斬られたのか? 駄目だ、痛くて、考えられない、立っていられない。 「さよなら、偽物のディセンダー」 視界がボヤける、アリスの顔が、 「ア、リス…っ」 赤く染まった片手剣を持ち、じっと私を見る。 ふざけるな、私は、どうなる…?死ぬのか…? 何故、剣を振るったのか、何故、斬った張本人がそんな悲しい表情をしているのか。 尋ねたいのに、力がでない、だんだんと視界が暗くなる。もう、気を保てない。 「俺は、ずっと愛していたんだ、ヴィースビュ」 台詞の意味を考える余裕もなく、私はそのまま、気を失った。 「っ、ヴィル!」 息が荒い。今、俺誰かに刺された気が、した。だが身体に触れてもおかしい所はない。今のは何だった?夢、だったのか?それにしてはやけに生々しい感触だった。 「おはよう、ヴィル君」 気がつくと、ベッドの横に座ったラグがこちらを見ていた。いつからいたんだ…こいつを部屋に入れるなんて、不覚。 「凄い汗…どうした?悪夢でも見たの?そういえば自分の名前を叫んでたけど…」 そう言いながら近くにあったタオルを渡してきた。素直に受け取り、汗を拭きながら俺は答えた。 「俺じゃなくてヴィル…子でしたか?彼女ですよ…」 あれ?なんで俺は今、彼女の名を叫んだんだろう。 「彼女か…ねぇヴィル君、もうやめてよ」 「何を、ですか?」 そう俺が聞くと、ラグは辛そうな顔をするといきなり抱きついてきた。予想もしてなかったので反動で俺はベッドに押し倒される形になった。 「なんでもっと自分を大切にしないんだよ!そうやってマナを与え続けたらヴィル、君自体が保てなくなって消えるんだよ!?ディセンダーだからって、無尽蔵にマナがある訳じゃないんだから!」 最初にラピリアとアルテを復活させた時も同じ事を言われた。今も変わらずストーカーもしてくるし、ベッドに忍び込んでくるし他にも沢山迷惑かけられてるがあの日以来、彼は本当に俺の事を心配するようになった。心配するからこそ兄貴ズラしてでも本気で怒る。 あの時を許した訳では決してない。忘れた訳でもない。今だって思い出すと、吐き気がして、怖くなる。 でもあの時から確かに彼は変わったのだ。 「いつも心配してくれて、ありがとうございます。でも、自分が消えるのを恐れて何もしない訳にもいきませんよ」 「っ、なんで…!」 「彼女だって、好きで俺と一緒に生まれた訳ではないんです、理由はどうこう俺は彼女から身体、を奪ってしまった」 謝るのは俺の方だ、といつも思う。どうして俺は満足に生まれて、彼女は明らかに、一つ足りなくして生まれてきたのに俺を恨まないのだろう。どうしていつも優しく接してくれるんだ。俺だったら絶対彼女を恨んでいるだろうに。 「彼女の少ない望み、俺が叶えられるならなんとかしてでも叶えて上げたい、と。それがせめてもの償いであるし、それに彼女に何かして上げたいと、思いますし」 ラグから返事は無かった。ただ、肩が若干震えているのが分かった。 「貴方が泣く事もないんですよ、ラグランジュ」 「うっ、泣いてなんか…ないんだからね!」 「はいはい、変なツンデレは要りませんよ」 でも、さっきの嫌な予感はなんだったのだろうか。ただの悪夢、にする訳にもリアル過ぎた。とりあえず、彼女に会えばなんとでもなるだろう。そう、思った時。 「ヴィル!大変、ヴィル子さんが…!」 カノンノに言われ、慌ててついていった場所は、悲惨だった。 「ヴィル!なんで貴方…っ、応えて下さい、ヴィル…!」 「ヴィル、落ち着いて!」 今、丁度ヴィル子が医務室に運ばれる所だった。床には血が飛び散った跡があり、壁には若干…刀の波動の跡だろうか。ちゃんと見ていないが、剣で斬られたのは確かだろう。…誰が? 特にヴィル子と関係ある奴…と言ってもヴィルはあり得ないし僕だってずっと側にいたんだ。アルティアラちゃんにラピリアだって、こんな事はまずしない。 「くそっ…貴方消える事は無いとか言ってたんじゃないですか…っ」 一体誰がこんな事をしたのか。 僕たちは、暫くそこを離れる事が出来なかった。 ....................... ←back |