先代01 |
CAST:ラピリア(テレジア),レガッタ,ヴィル,ラグ(グラニデ) 「どうして…なんで、私はー」 絶望の淵に立たされた私は、今度こそ誰に頼れば良い? 教えてよ、―――。 「ふぅ…これで終わりね!」 メルボルンは立ち上がりながら気分良さそうに言った。隣にいるミントも微笑むと頷いた。 今、私たちは依頼をこなすため四人で獄門道に来ていた。最近、ナイトレイドが村に降りてきて農場を荒らして帰るとかで迷惑してるから8体倒してほしい、といった内容だった。そして今、丁度終わったところだ。 「…レガッタさん、何か悩んでますか?」 ふと、下を向くとすずちゃんが心配そうに私の顔を覗きこんでいた。わ、全然気付かなかった。 「え、なんでもないよ。ただ少し、ボーッとしてただけ」 そう言うと小さく笑った。 ごめんね、すずちゃん。でもこれは私の問題なんだ。 悩んでる事、の気がかりなら有りすぎる。昨日聞いた会話が、頭から離れない。 それは昨日の夕方、殆どの船員がまだ依頼から帰ってない中、私は依頼を終わらせ、自室に戻ろうと一人で歩いていた時。 静かな廊下に小さく、会話が聞こえた。 誰か分からないけれどほんの興味心で私はそっと側に近寄った。丁度ここなら角だし見えない。声だけ聞いても誰か分からなかったので、少し首を伸ばしたら、意外にもラグさんとラピリアさん、という組み合わせだった。 「ラグ、貴様分かってて…」 「当たり前でしょ?僕は全て共有してるんだから。彼女の事だって、勿論」 何の話?よく分からないけど喧嘩してる?聞いちゃいけない気がしたけど興味心が勝った。私はもう少し聞くことにした。 今、思うとそこで場を離れれば良かった。そしたら、知らずに済んだのに。 「…っ、あの子の事は?」 「あぁ、知ってるさ…。まぁ僕は、だけど。というかなんで君が知ってるのさ」 「俺が何年生きてると思ってる。はぁ…じゃあなんだ…なんであの子は向こうに」 溜め息交じりにラピリアさんは呟いた。何年生きてるって?19年じゃないの?私はそう聞いたんだけど。 ラグさんは大袈裟に分からない、とポーズを取ると、若干嬉しそうに言った。 「知らないよ。…でも良いんじゃないの?こっちの、母親には確実に嫌われてるんだからさ、 レガッタちゃん」 …え? 「確かにそうだろうが…だからって」 ラピリアさんも、否定しないの? 母親って、え…世界樹しかいないよね。 私、嫌われてるの? 足元がぐらついた。あぁ、私に何の能力も無いのは、他のディセンダーと劣ってるのは、生み出した世界樹に嫌われてるから? 全てが、繋がった気がした。そうか、そうだったのね。 だから私は、普通でしかないのか。 「だからでしょ?彼女はいてはいけない存在なんだよ」 嫌だ、もう聞きたくない。 だけど足が動かない。震えて、立っていられなく―あ、倒れる―― 「危ない!」 「!?」 その声にレガッタが、ラグがラピリアが驚いた。ラグとラピリアは廊下の角から覗いた紫髪を見、閉口した。 これは、聞かれてたな… 「大丈夫ですか、レガッタ?」 私を支えたのは同じディセンダーのヴィル君だった。 彼は、どうだった? …分かっている、彼は世界樹に愛されている。光を纏って、皆の中心になれて。 いつもは会えるだけで幸せなのに、今は違う。妬みしか、芽生えない。 どうしてだろう、嫌だな…私。 「…ありがとう、大丈夫だから」 私は立ち上がると逃げるように走っていった。そこにいるのは、嫌だった。一人になりたかった。 *** 「…で、貴方達は何を話していたんですか?」 呆然と立ち尽くしているラグとラピリアに尋ねた。そもそもこの組み合わせはなんですか。見慣れないも何も、はじめてだ。 「ヴィル君には関係ないよ」 ラグは笑うとそう言った。堂々と嘘をつきやがって。彼はともかくラピリアが不審過ぎるんですよ。 「まぁ…俺に教えなくても良いですけど、レガッタには後で謝るなり何かして下さいよ?」 「意外だな…あっさり引き下がるとは」 「仕方ないでしょう、俺の兄貴は話す気が無いんですから」 というかやっぱりラピリア、貴方嘘を付くのが苦手ですね。 …人の事言えないんで黙ってますが。 ヴィルが去った後、ラグとラピリアはほぼ同時に溜め息を付いた。 「ヴィル君が引き下がったのも気になるけど…困ったなぁ」 「あれは…勘違いしたんじゃないのか」 「だよね…あー僕知らないよ!レガッタちゃんとなんて滅多に話さないのに!」 「じゃあやっぱりヴィルに…」 俺がそう言った途端、ラグは明らかに嫌そうな顔をした。ヴィルの名前を出して嫌そうにするなんて珍しいな。 「あれは駄目!相当の愛音痴だもん。今回は役立たず。あの子肝心な感情が抜けてるし」 「まぁ…それもそうか」 「あーいっその事本人に弁解させるか…」 「あぁ…ん、いや待て。それはつまりあの二人を…」 「それしかないでしょ?でも…そしたら姉さんも呼ばなきゃか…まぁ僕だけでも…いやあいつは知らないんだ彼女の事…あー面倒くさい!」 ギルドメンバー達には見せない性格。実はかなりの面倒くさがりだ。そういう点はヴィルそっくりで…あいつにもそっくりだ。 俺に対しては表面を見繕っても何の価値もないと判断しているのかいつも素だ。イカれた野郎だが、それは正直嬉しかったりする。 「ちょっとラピリア?君もちゃんと考えてよ、ニヤけてないでさ。…あ、僕はヴィル君以外は同性無理だから。僕だって女の子好きだよ。好意抱いてるなら残念だけど」 「自意識過剰だな、そんな訳ないだろう。俺はアルティアラさえいれば」 「はいはい妹話はまた今度ねー」 手でシッシッとされ、少しイラッときたが今回は抑えておく。今話してるのはレガッタの事で妹弟自慢ではないからだ。 「よし、決めた。姉さんを催眠術にかけよう」 「そうだな…いやいやいやなんでそういう結論にいくんだ!お前の思考回路は昔から意味が分からん…」 「いや、説明面倒くさいなぁって。ニアタならそれくらい出来そう。それに昔って、それは僕じゃないでしょ?」 「まぁそうだが…」 「彼女がいないと意味がない!よしっ決まり決まりー。ほらラピリア行くよー?」 解決したのが嬉しいのかなんなのか知らないが軽やかにスキップまでしながらラグは先に行ってしまった。催眠術って…やり方が古典的というかなんというか…。だからといって俺に良い案がある訳でもないので黙ってついていく事にした。 「…で?なんで私がよりによってあんたと!こんなとこに来なくちゃいけないの?」 苛々を隠せない様にメルは言った。ラグはあの後、メルにニアタ・モナドに行こう、ただそれだけ言いここまで来た。何の説明もされてないのだから、メルが怒るのも当然だろう。俺が教えても良かった…のだが話そうとしたらラグに睨まれたので素直に黙っている、現在進行形。 メルに睨まれたラグはそんな事は無視で、ニアタ・モナドの玉座に軽やかに座ると叫んだ。 「ニアタ?聞こえるよね、ちょっと手伝って欲しい事があってさ、返事してくれない?」 「ちょ…ちょっとニアタにってあんた…」 「君が、ラグランジュか」 相変わらず感情が伝わらない声が返ってきた。ラグはここにはじめて来る、と言っていたからニアタも彼を知らないのだろう。でも平然と名前を呼んだ。ラグも別に気にした様子はなく、続ける。ニアタに分からない事なんて殆どないのだろう。 「とりあえず、彼女黙らせてくんない?それから説明するから」 「ちょっと、どういう事!?私はっー…」 ニアタが承諾したのか、メルは突然、意識を失い倒れた。…まぁ倒れかけた所を俺が支えたが。何故俺とラグがここに来たのか、もうニアタは分かっているのだろう。いや、俺が復活した時点でもう、待っていたのかもしれない。 「うん、ありがとう。で、お願いなんだけど」 「その前に玉座から席を外してくれないかね?そこは我々がディセンダーだけの席なんでね」 「あぁごめんごめん。それで本題に入ると、あの二人を、甦らせて欲しいんだけど、こいつみたいに」 こいつ、と言いながら俺を指した。なんだその態度は偉そうに。 少し間が合ってから、ニアタから返事がきた。 「それは大量のマナを消費するが、構わないかね?眠っている彼女も含めて」 「構わないよ。ヴィルと違って僕等は直ぐにマナが溜まるからね。姉さんだって」 また、沈黙。本来なら甦らせるなんてしてはいけない行為だ。…ディセンダーであっても。だけど、彼女に会わせてあげたい。最近、彼女は自身について悩んでいたから、二人に会わせてあげたい。ラグも同じ気持ちなんだろう。そうでなきゃ、自身を削ってまで彼らを呼び戻そうとは思わない。 直ぐにマナが溜まるといっても、全く辛くない事はないだろうに。何も知らないメルボルンが少し可哀想だが、それは置いといて。 …そういえばヴィルはどうだったんだろう。彼は違う、ということは長い間少ないマナのままで辛かったんじゃないのか。…帰ったら御礼を言おう。あ、でもあの顔見ると言う気無くすんだよな。 「そうか…なら、手を貸そう」 「助かるよ。というかニアタがいないと彼らも復活しないんでね、宜しく」 ラグはそう言うと、小さく笑った。 私は、昨日の会話を思い出していた。世界樹は私が嫌い。私は望まれなかった子? あ、またネガティブになっていく。私はベッドの上で小さく膝を抱えた。まさか、こんなに衝撃的だと思わなかった。ずっと答えを探していたけど、まさかこれが答えだったなんて。 それに… 「ヴィル君に当たったなんてあー最悪…っ」 もしかしたらそっちの方が大きいのかも。嫌われたらどうしよう。いや…あのヴィル君だもの、態度は変わらなくたって本心では。 考えれば考える程落ち込む。これが負の連鎖かな?大きく溜め息をついた、その時。 扉を叩く音が響いた。 ....................... ←back |